2011 Fiscal Year Research-status Report
重複障害者のコミュニケーションにおける環境知覚とメタ認知的特性の分析
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23700254
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Research Institution | Future University-Hakodate |
Principal Investigator |
南部 美砂子 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 准教授 (10404807)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 重複障害 / 盲ろう / コミュニケーション / メタ認知 / 身体性 |
Research Abstract |
平成23年度は,盲ろう者のコミュニケーションにおける知覚的・認知的特性,ならびにメタ認知的活動を解明することを目的として,フィールド調査(研究1)と心理学実験(研究2)を実施した.さらに当初の計画には含まれていなかったが,盲ろう児教育に関する資料・文献等の調査,障害者施設の見学,当事者との対面調査(研究3)を実施した.【研究1】盲ろう者の日常的な活動場面のフィールド調査(観察):盲ろう者,通訳介助者,対話相手,環境・文脈的な情報等について,音声・映像データを収集した.会話分析の手法で発話データを分析したところ,盲ろう者のコミュニケーションにおいてはおもに通訳介助者がプロセスの監視と調整を行っており,盲ろう者自身による主体的な関与が生起しにくいこと,ならびに非言語的な情報(あいづち,笑いなど)の伝達量は通訳介助者によって大きく異なることなどが明らかになった.【研究2】問題解決課題を用いたコミュニケーション実験:盲ろう者-通訳介助者-健常者によるグループ2組が実験に参加し,問題解決における相互作用プロセスの特徴について分析を行った.ここでも,通訳介助者による会話展開の調整がみられたことから,会話におけるメタ認知的な活動の多くが協働的に達成されていることが明らかになった.【研究3】山梨県立盲学校における「戦後盲ろう児教育」の資料見学,および当事者との対面調査:戦後から1970年代にかけての,山梨県内における盲ろう児教育の実践記録を見学した.さらに,その教育を受けてきた当事者と面会し,現在のコミュニケーションや生活の状況について調査した.これらの記録・資料は,本研究が対象としている成人盲ろう者の,個々のコミュニケーション方略を理解するうえでもたいへん重要なものと考えている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィールド調査(研究1)と心理学実験(研究2)の実施については,ほぼ当初の予定通り進行している.さらに研究3として,初期の盲ろう児教育に関する文献・資料調査を実施することができた.これらについて,今後さらに検討したい点は以下の通りである.研究1:身体的な配置,ジェスチャーに関する,数量的な位置データの取得・解析の可能性を検討すること.研究2:データ数(グループ数)を増やすこと.現状ではグループに固有の事例として取り上げている現象を,グループ間の比較を通じて,固有性/共通性の観点から整理するため.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,質問紙調査(研究3)と心理学実験(研究4)を通じて,盲ろう者・通訳介助者の両方の視点からコミュニケーションにおける認知的な特性を解明し,「コミュニケーションと情報摂取の自由」の保障とQOLの向上につながる効果的な支援について検討する.【研究3】通訳介助活動における認知的特性に関する質問紙調査:全国盲ろう者協会の協力を得て,通訳介助活動における認知的負荷について,調査を行う.情報の選択・編集・提示がどのような観点・基準により行われているのか,個々の通訳介助者の方略を明らかにし,通訳介助者も含めたコミュニケーション支援技術について検討する.【研究4】「感覚的情報の文脈」を操作するコミュニケーション実験:さまざまな非言語情報を触覚提示し相互作用プロセスの変化を分析することにより,対話の場の認識や文脈の共有を支えている要件について検討する.ここでも,通訳介助者に対する支援技術も含めて,より良いコミュニケーションについて考えていく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は,おもに以下の4点について支出を予定している.(1) 調査出張および成果発表旅費(2) 実験協力者への謝金(盲ろう者,通訳介助者,実験補助者)(3) 音声・映像の記録データ整理に関する謝金(4) 大規模質問紙調査のための郵便費なお,記録用ハードウェア各種はすでに確保済みである.
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