2011 Fiscal Year Research-status Report
階層的ゆらぎを考慮した確率過程に基づく遺伝子発現の統計解析
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23700263
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長谷川 禎彦 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任助教 (20512354)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 遺伝子発現 / 確率過程 |
Research Abstract |
本研究は,環境の時間的不均一さに由来するゆらぎの強度自体の時間変動(高次ゆらぎ)が遺伝子発現へ及ぼす影響について,統計解析及びモンテカルロシミュレーションを用いて明らかにするものである.高次ゆらぎのある系における解析手法を開発し,その手法を遺伝子発現系に適用することで,タンパク質濃度の定常的振る舞い,入力刺激に対する応答,安定性を計算し,遺伝子発現における高次ゆらぎの影響の全容を解明することを目的としている.平成23年度の研究では,確率微分方程式において,ゆらぎ強度の時間変動スケールがどのような場合でも適用可能な解析法を開発した.具体的な手法としては,分布関数の時間発展方程式を直交多項式による展開で解く手法を用いた.様々な特徴量(外部刺激に対する応答,情報伝達におけるスペクトル増幅率や安定性)の解析的計算も目的としていたが,これらの特徴量の計算にも成功した.これらの成果を査読付き論文誌(Physics Letters A)に発表した.また,高次ゆらぎが本質的な影響を及ぼす例として,系の詳細釣り合いの破れについての解析を行った.高次ゆらぎを受けた系は詳細釣り合いが成り立たず輸送現象が起こることを明らかとし,非対称なラチェット系においてその流れの計算を解析的手法及びモンテカルロシミュレーションにより行った.これらの成果を国内の研究会で発表し,まとめたものを査読付き論文誌(Royal Society Interface)に投稿中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究計画では,確率微分方程式においてゆらぎ強度の時間変動スケールがどのような場合でも適用可能な解析法開発を目標としていたが,目標通り開発することに成功した.遺伝子発現系では遺伝子スイッチが重要な役割を担っているため,双安定ポテンシャルにおける特徴量計算が重要となる.開発した手法を用いることで,双安定ポテンシャルにおける特徴量(応答(平均第一通過時間)や情報伝達のシグナルノイズ比)の解析的計算が可能となった.その結果,高次ゆらぎの強さに対して応答と情報伝達はトレードオフの関係であることを明らかとした.開発した計算手法及び双安定系での計算結果を査読付きジャーナルに発表することが出来た.以上のように,平成23年度に行う予定であった研究計画を遂行することが出来た.また,平成23年度の研究によって,高次ゆらぎが系の詳細釣り合いに本質的な影響を及ぼすことが判明し,系の詳細釣り合いについての解析を行った.詳細釣り合いの破れは生体でのモーター蛋白やイオンポンプで重要な役割を担っている.高次ゆらぎによって起こる詳細釣り合いの破れは,研究計画段階では明らかではなかったものであるが,ラチェット系における計算を行い,輸送現象についての計算を行った.この結果,遺伝子発現系で実際に観測されているゆらぎの速さで輸送現象が最大化されていることが明らかとなった.これらの成果を国内の研究会で発表し,査読付きジャーナルに投稿することが出来た.
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Strategy for Future Research Activity |
[現在までの達成度]で記述したように,平成23年度の研究によって,高次ゆらぎが系の詳細釣り合いに本質的な影響を及ぼすことが判明したが,この現象は研究計画段階では明らかではなかった点である.既にラチェット系における計算を行い査読付き論文誌に投稿したが,今後詳細な解析を行う予定である.詳細釣り合いの破れは生体におけるモーター蛋白やイオンポンプなどの基礎となっている現象であり,遺伝子発現系においても非常に重要な役割を担っていると考えている.そこで,遺伝子発現系における転写翻訳において輸送現象がどのような役割を担っているかより具体的なモデルを用いて解析する予定である.研究計画段階では遺伝子スイッチにおける解析に主眼をおいていたが,平成23年度の研究を通して,遺伝子振動子における解析の重要さを認識した.遺伝子振動子は遺伝子スイッチとならび最も重要な遺伝子回路モチーフである.遺伝子振動子における解析については現在解析を行なっているが,今後さらに詳細な解析を進め,学会発表や論文投稿を行う予定である.研究計画では平成24年度に多遺伝子系における解析を予定していたが,計画通り多遺伝子系における高次ゆらぎの影響解析も行う.これらの解析は主にモンテカルロを用いて行う予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
生物における確率過程の最新の研究動向を調査し,いままでの研究成果を発表するために国際会議に参加する予定であり,そのための予算を使用予定である.国内の学会についても参加する予定であり,そのための予算も必要である.現在投稿中の論文(Royal Society Interface誌)が採録された場合,投稿料として予算を使用する予定である.また,今後執筆予定の論文の英文校正費及び投稿料に予算を使用する.研究を進めるために必要な文献購入にも予算を使用する.
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Research Products
(4 results)