2011 Fiscal Year Research-status Report
クラウドコンピューティングを利用したデータ同化システムの開発
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23700278
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Research Institution | The Institute of Statistical Mathematics |
Principal Investigator |
長尾 大道 統計数理研究所, データ同化研究開発センター, 特任准教授 (80435833)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | データ同化 / クラウドコンピューティング / ライブラリ / グラフィカルユーザインターフェース / ベイズ統計 |
Research Abstract |
近年のハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)環境の大幅な飛躍により、様々な科学分野において大規模な数値シミュレーションが実施されるようになってきた。しかしながら、超大型単体スパコンは国家予算級の開発費を必要とするため、これまでのような大艦巨砲主義からの路線変更を迫られている。今後、ますます大規模化していくことが確実なシミュレーションを実施していくための次世代HPC環境の候補の一つとしては、クラウドコンピューティングシステム(CCS)が有力な方法として提案されているが、CCSの科学利用についてはまだ議論が始まったばかりである。 本研究では、数値シミュレーションモデルと観測データをつなぎ、未来予測型のモデルを構築するための基盤技術である「データ同化」をCCS上で実現するためのソフトウェアを開発する。CCSを利用してデータ同化を実施するためのプラットフォームを提供するという世界初の独創的な試みであり、様々なシミュレーションモデルやデータフォーマットを柔軟に表現するためのプラグインを用意することにより、データ同化研究を実施する研究者の負担を大きく軽減するという大きな意義がある。 平成23年度は、まずCCS上で動作するデータ同化システムを開発する上で克服すべき問題点を精査した後、具体的なシステム設計を行った。逐次状態推定法の一種である粒子フィルタをライブラリ化し、ユーザから与えられたシミュレーションモデルおよび観測データを基にデータ同化計算を実施するためのスケルトンプログラムを出力するシステムを構築した。テストベッドとして、国立遺伝学研究所との共同研究で開発した細胞内流動シミュレーションコードとの結合実験を実施し、データ同化コード出力の成功を確認した。現在、他の逐次状態推定法のライブラリ化を進めると共に、Javaによるグラフィカルユーザインターフェースの開発も開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の当初計画では、研究開始年度となる平成23年度は、研究代表者が以前クラウドコンピューティングシステム上に構築した時系列解析ソフトCloCK-TiMEをベースに、データ同化システムを開発する上で克服すべき問題点を十分に精査することから始める予定であった。具体的には、(1)様々なシミュレーションモデルへの対応方法、(2)スパコン間でのデータ通信コストの低減、および(3)性能の異なるPCクラスタの負荷バランスの3点について検討した。(1)については、地震に伴う大気変動シミュレーションコード、および細胞内流動シミュレーションコードへ対応していることを確認した。(2)および(3)については、各時刻における逐次状態推定法として、モンテカルロ近似の一種である粒子フィルタ法を採用することにより解決した。本システムの中では、計算実行前に各ノードの性能を調査し、それに合わせて粒子数(=負荷)を最適配分するように設計されている。 また本研究の成果は、統計関連学会連合大会をはじめとする学会等において発表する計画であったが、国際学会2件、国内学会多数の発表を行った。 このように、本研究は当初計画通り、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に実施した研究成果を踏まえ、データ同化システムの本格的な開発に着手する。特に複数のPCクラスタ群によって構成されるクラウドコンピューティングシステムについては、実際問題への応用例である細胞内流動シミュレーションコードに対する実験を繰り返し実施し、問題点を洗い出しておく。 システム全体のパフォーマンスを十分評価した後、前年度の開発を開始した専用のグラフィカルユーザインターフェースを完成させ、インターネット上を通じて一般に公開するための準備を開始する。 これらの研究開発の成果は、統計学ならびに情報学に関連した国内学会および国際学会において発表し、数編の論文にまとめた上で国際誌へ投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
開発済みのソフトウェアは、研究所内のウェブサーバから公開する。そのためのユーザインターフェースの開発を外注するため、開発経費が必要となる。また、研究成果を国内外の学会ならびに研究集会で発表するための旅費、ならびに国際誌で発表するための論文印刷費が必要である。
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