2011 Fiscal Year Research-status Report
患者会面接調査による、レイ・エキスパートの概念とその医療情報取得・探索過程の解明
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23700287
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
國本 千裕 駿河台大学, 人文社会・教育科学系, 講師 (10599129)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 図書館情報学 / レイ・エキスパート / 情報探索行動 / 医学医療情報 / 医療健康情報 / 患者会 / 半構造化インタビュー / lay-expert |
Research Abstract |
(1)患者組織調査(資料・ウェブ調査) 調査対象となる「レイ・エキスパート」の候補者を選定する前段階として、複数の患者組織についての概要調査を行った。具体的には、その活動内容から「レイ・エキスパート」が在籍する可能性が高いと考えられた患者組織について、組織概要・活動内容・活動の中心を担っている構成員(個人)、その構成員の経歴等を、公開済の情報(文献やウェブページ)を元に調査した。調査結果を元に選択した3団体から計3名の「レイ・エキスパート」を選び出し、(2)インタビュー調査の対象者とした。(2)「レイ・エキスパート」へのインタビュー調査 3名の「レイ・エキスパート」に対し、(1)の事前調査を元に作成した「インタビュー・ガイド」に沿った時系列インタビューを実施した。インタビューは各人2日をかけて、約7.5時間ずつ実施した。インタビューの内容を分析し、最初に、A)「レイ・エキスパート」の情報探索と知識習得の過程を明らかにした。専門教育を受けた経験のない素人(患者やその家族)であっても、闘病過程や患者会活動といった「実践」を通じて、専門的な医学・医療に関する知識やスキルを獲得していく可能性が示唆された。さらに、B)「レイ・エキスパート」が獲得した知識やスキルの具体的な内容を分析した。その結果、「レイ・エキスパート」が獲得する知識はその内容が多岐にわたること、知識の獲得は決して体系的ではなく、特定の関心領域に特化したかたちで行われる可能性が示唆された。 A)の成果については、2011年11月の日本図書館情報学会研究大会において"レイ・エキスパートによる専門的な医学・医療情報の取得と知識習得のプロセス"の題目で発表した。B)の成果については、2012年5月の日本図書館情報学会春季研究集会において"レイ・エキスパートが有する「知識」の特徴"の題目で発表済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.「レイ・エキスパート」が形成されるプロセスの解明 本調査の第1目的は、元来、医学・医療に関する専門教育を受けた経験のない「素人」であるはずの「レイ・エキスパート」が、専門情報をどのように探索・取得し、専門知識やスキルにどのように習熟(エキスパート化)していったのか、その過程を明らかにすることであった。平成23年度は、平成24年度以降に開始する本格的な調査に向けて、1)日本国内にも「レイ・エキスパート」が存在する可能性の確認と、2)その知識習得過程の予備的調査、3)インタビュー項目の確定、この3点の達成を主な目標としていた。今年度、当初の目的はおおむね達成されたと考える。2.「レイ・エキスパートとは何か」という概念の再検討 平成23年度に実施したインタビュー調査の結果を受けて、「レイ・エキスパート」の概念については、当初想定していた"既に流通している医学・医療情報を取得・活用し、専門家とも協力可能なレベルの知識を獲得した素人"という仮の概念設定を、さらに発展的に修正する必要があると明らかになった。「レイ・エキスパート」の概念については、今年度後半からインタビュー調査と並行して、欧米の先行研究における「レイ・エキスパート」概念の文献調査(レビュー)を開始している。平成24年度には、その成果もふまえつつ、欧米と日本国内における「レイ・エキスパート」概念の検討と、定義の精緻化を進めることとしている。今年度はその検討の基礎となるデータを獲得した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)本調査の継続 平成23年度に確率した、半構造化インタビューの調査項目に基づき、平成24年度は、さらに調査対象者をさらに拡大した調査を実施する。平成23年度の調査結果から、「レイ・エキスパート」は自身がおかれている社会的立場や役割(例:患者会代表者である等)によって、知識獲得のプロセスや、獲得する知識の内容に影響が出る可能性が示唆された。このため、平成24年度以降は、調査対象となる「レイ・エキスパート」の人数を増加させるのみならず、現在おかれている社会的立場等の多様性を重視して、対象を拡大していく。(2)「レイ・エキスパート」の形成プロセスの分析 平成24年度前期は前年度データの再分析を行い、「レイ・エキスパート」の知識獲得プロセスのアウトラインを作成する。後期には、新たに加えた「レイ・エキスパート」の知識習得プロセスを引き続き調査していく。前期に作成した基本アウトラインと。最終的には、レイ・エキスパートに特徴的な情報・知識の獲得プロセスや、それらに影響を与えた要因等を明らかにする。(3)レイ・エキスパートの概念に関する、前年のモデルの検証前年度に実施した3団体3名の分析結果を元に、前年度に公表した日本におけるレイ・エキスパートの概念モデルの再検証を行う。特に、文献調査を通じて、欧米の先行研究における「レイ・エキスパート」の概念定義のレビューに力を入れる。既存の「レイ・エキスパート」モデルとの比較を行うことで、本プロジェクトの目的である「日本におけるレイ・エキスパート概念」の基礎モデルを作成する。調査の途中経過は、国内学会(日本図書館情報学会、もしくは、三田図書館・情報学会)において、随時発表する。さらに、前年度の結果と合わせ、早い段階で原著論文の投稿を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)インタビュー調査関連費用 平成24年度は、前年度に固めた半構造化インタビューの調査項目に基づき、地方中心都市を中心に5団体約20名を対象とした、大規模なインタビュー調査を実施する。年度中に全ての調査を終了する予定だが、必要に応じて追加インタビューも随時実施する。調査のための国内旅費、インタビュー対象者への謝金、大量のインタビュー・スクリプトを反訳補助作業を行うアルバイト謝金、質的分析ソフトの購入費等が必要である。(2)・(3)レイ・エキスパートの形成プロセス分析と概念のモデル化 平成24年度は、引き続き、集中的な文献調査にも取り組む。海外の調査会社による調査報告書・洋書・和書等の資料購入費、文献複写費、成果公表のための国内学会参加費、国外学会参加費、旅費、論文投稿料等が必要である。
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