2011 Fiscal Year Research-status Report
文化財アーカイブズの形成に関する研究-近代文化財修理記録のメタデータ分析を中心に
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23700293
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Research Institution | Nara National Museum |
Principal Investigator |
宮崎 幹子 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, その他 (50290929)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | アーカイブズ / 文化財 / メタデータ / MLA連携 / 書誌コントロール / 文化財修理 / 近代文化財保護史 |
Research Abstract |
本研究は、美術史ならびに文化財保護史研究にとって極めて重要な一次資料である『日本美術院彫刻等修理記録』(明治32年から昭和19年、奈良国立博物館蔵)を主な対象として、文化財アーカイブズの形成を実践的におこない、同時にそれを下支えする方法論的基盤について検討することを目的とする。あわせて博物館に相応しいアーカイブズのあり方についても考究する。 平成23年度は、(1)方法論の研究として、(a)情報資源を共有可能なかたちで分析・記述する枠組みであるメタデータに注目してこれまでの流れと最新の動向を調査し、歴史的展開について整理をおこなった。(b)本研究とも関連の深いMLA連携や海外の博物館・美術館における情報資源の共有について状況を調査し、日本との比較分析をおこなった。以上により、文化財にかかわる情報へのメタデータの導入に関しては、実験的研究が進展しているものの情報サービスの場においては限定的な段階にとどまること、理論と実践には乖離もみられることなどが明らかとなり、より実践的な立場から方法論および制度の錬磨が必要である、という本研究の基本的な立場を補強することができた。また、欧米起源のメタデータフォーマットを日本の文化財にかかわる情報に適応させる可能性についても検討した。以上の成果は学会発表と学術論文によって公表した。博物館におけるアーカイブズ形成の意義についても、美術館関係者を対象とする研修会で報告をおこなった。 (2)アーカイブズの形成としては、資料の分析と整理を進め、ガラス乾板約7,000枚については撮影対象(仏像彫刻等)の基本データの採録を大方終了した。簿冊・図面約370冊については総量が膨大であるものの継続的に内容摘記を進めている。なお、作成したデータは暫定的なものではあるがデータベースに格納し、内部で共有可能な環境を整備した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、文化財アーカイブズ形成の実践とその基盤となる方法論の検討を大きな柱としている。今年度は双方についてそれぞれ作業と研究を進めた。 (1)方法論に関しては、情報資源の共有について、目録学・書誌コントロール論の発展形態としてのメタデータに注目し、歴史的展開から最新動向に至るまで広範囲に理解を深め、研究の指針を得ることを目指した。本研究と関わりの深いMLA連携や博物館・美術館おける情報資源の共有については、特に重点的に状況の把握に努めることを企図した。これらについては概ね計画通りに進めることができた。研究成果のまとめとして学会発表および学術論文では、文化財にかかわる情報へのメタデータの導入に関しては実験的研究が進展しているものの情報サービスの場における適応は限定的な段階にとどまっていること、理論と実践には乖離もみられ、より実践的な立場から方法論および制度の錬磨が必要であること、などを指摘した。 (2)アーカイブズ形成の実践としては、資料の分析と整理、データ作成を進めることを目指したが、これについても概ね予定通り進めることができた。資料のうち、ガラス乾板約7,000枚については撮影対象である文化財(仏像彫刻等)の基本データの採録を大方終えた。基本データは、内部記録と『国宝・重要文化財総合目録 美術工芸品編』などを典拠とした。簿冊・図面約370冊については頁毎の内容摘記を継続的して進めているが、第一次の大まかな整理とデータ作成は近々終了の目処がついている。作業中のデータは暫定的なものではあるがデータベースに格納し、館内で共有可能な環境を整備した。 以上により、当初の研究計画は概ね達成できていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)文化財アーカイブズの方法論の研究については、博物館・美術館における情報資源の連携をテーマとする国際会議とワークショップへの参加(ICOM-CIDOC2012 平成24年6月)を予定しており、メタデータの最新動向についてさらに状況把握に努める。博物館・美術館におけるアーカイブズ形成の事例については、既刊の論文や報告書にもとづく調査を引き続きおこない、先駆的な事例を抽出したのちに現地調査も計画している。これらの成果をもとに、導入が確認された各種メタデータフォーマットの相関関係を明らかにし、クロスウォークを作成する。また、博物館におけるアーカイブズについて、内外の事例をもとに近代以降の文化財保護史との関係からその歴史的展開を整理する。 (2)アーカイブズ形成の実践としては、資料の分析と整理、データ作成の作業を前年度に続いて進める計画である。具体的には、基本データの採録が大方終了したガラス乾板については、美術史専門家の協力も得ながら、名称・所有者が不明の作品の調査と校正作業をおこない、データの精度を高める。第一次の大まかな整理が終了した簿冊・図面のデータについては、方法論の研究成果により導入が確認されたメタデータフォーマットおよびクロスウォークを参考にしつつ、項目を確定させ、本格的なデータ作成へと移る。作業用として暫定的に作成したデータベースについては、公開用のデータベースを目指して改修をおこなう。 以上のように、次年度以降は方法論の研究成果を実践において活用させる作業を本格化させる計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)文化財アーカイブズの方法論の研究として、海外および国内において調査を実施する。まず、国際会議およびワークショップ(ICOM CIDOC2012 2012年6月10日~14日 於フィンランド)への参加により、海外における動向の把握に力を入れる。特に連携の技術的側面について、最新の状況を調査する(海外旅費)。博物館・美術館におけるアーカイブズ形成の事例については、既刊の論文や報告書、学術図書を入手し、また、アート・ドキュメンテーション学会、図書館情報学会などの各学会や研究会、関連シンポジウムへの参加により、関連情報の収集に努める。そしてそれらにもとづいて事例調査を引き続きおこなう(国内旅費、物品費)。以上の調査にもとづいて、導入が確認された各種メタデータフォーマットの相関関係を分析し、クロスウォークを作成する。そして、文化財アーカイブズに相応しいメタデータフォーマットの導入を目指し、既存のものについてローカライゼーションをおこなう(物品費、その他)。 (2)アーカイブズ形成の実践としては、大学院生の協力を得つつ、資料の分析と整理、データ作成の作業を引き続き進める(謝金等)。ある程度まとまった入力作業については、一部外注によりデータ作成を一括しておこなう(その他)。採録したデータと、方法論の研究で扱ったメタデータフォーマットとの照合をおこない、両者を修正しつつ本格的な分析とメタデータ作成を進める(謝金等、その他)。前年度に作業用として暫定的に作成したデータベースについては、公開用のデータベースを目指して改修をおこなう(その他)。 以上を実施するにあたっては、必要に応じて適宜専門家(美術史、図書館情報学、情報科学、アーカイブズ学等)から助言を受ける(謝金等)。
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Research Products
(5 results)