2012 Fiscal Year Research-status Report
文化財アーカイブズの形成に関する研究-近代文化財修理記録のメタデータ分析を中心に
Project/Area Number |
23700293
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Research Institution | 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館 |
Principal Investigator |
宮崎 幹子 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 研究員 (50290929)
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Keywords | 文化財 / アーカイブズ / メタデータ / MLA連携 / 書誌コントロール / 文化財修理 / 近代文化財保護史 |
Research Abstract |
本研究は、古社寺保存法が制定された明治30年直後よりおこなわれた仏像をはじめとする文化財の修理記録『日本美術院彫刻等修理記録』(明治32年から昭和19年、奈良国立博物館蔵)を対象として、文化財アーカイブズの形成をおこなうものである。この資料のアーカイブズ化と並行して、これを支える方法論的基盤についても検討し、博物館および文化財研究にふさわしいアーカイブズのありかたを考究する。 平成24年度は、アーカイブズの形成として前年度に引き続き資料の整理、データ作成・校正作業を進めた。なかでも奈良国立博物館の研究員の協力を得て、撮影対象が不明であったガラス乾板の同定作業を350枚おこなったことは大きな進展である。これについては公刊資料に拠り基本データの確定を進めている。簿冊・図面類約370冊については、内容摘記と校正作業を継続して進めている。頁数が膨大であるため多くの時間を要しているが、昨年度作成した内部用データベースによりテキストと画像の同時参照が可能となり、作業の効率化がはかられた。 方法論の研究としては、海外におけるアーカイブズの最新動向を把握すべく国際会議(ICOM CIDOC2012 Helsinki ヘルシンキ開催)に出席し、海外の博物館・美術館・研究機関の事例について貴重な情報を得た。一部の博物館・美術館において、LOD(Linked Open Data)などメタデータ技術の導入について先進的な取り組みがみられたが、その普及は充分ではなく、理論・技術の高度化と現場で導入可能な技術レベルにはいまだ落差があることが確認できた。 これらと並行して、現在『日本美術院彫刻等修理記録』を保管する奈良国立博物館仏教美術資料研究センターにおけるアーカイブズ形成のあゆみを振り返りつつ、博物館におけるアーカイブズのあり方について幅広く検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アーカイブズ形成の実践として、昨年度よりおこなっている資料の整理、データ作成・校正作業を継続することを目指し、概ね予定通り進めることができた。ガラス乾板については、これまで撮影対象が不明であった350枚について文化財の同定がかなった。これらは主として未指定品であるため、各府県別の『仏像集成』や展覧会カタログなどに拠り基本データの採録を進めている。また、昨年度作成した約7,000枚の基本データの校正もおこなっている。簿冊・図面約370冊については頁毎の内容摘記を進め、第一次の整理が終了したデータを内部用データベースに格納した。以降は、データベースでテキストと画像を参照しつつ校正作業を継続している。 方法論および技術的な動向に関しては、メタデータ技術の導入について状況を把握することを目指した。海外の事例を調査した結果、British Museum(英)、Yale Center for British Artにおいて、LOD(Linked Open Data)の導入など先進的な取り組みが確認された。国内の状況については文献調査を中心に現状把握につとめた。この結果、海外・国内の状況と展開に関して概ね見通しを得ることができた。 これらと並行して、現在『日本美術院彫刻等修理記録』を保管する奈良国立博物館仏教美術資料研究センターにおけるアーカイブズ形成のあゆみを振り返りつつ、博物館におけるアーカイブズのあり方について幅広く検討した。その成果を学会誌への投稿原稿にまとめ、文化財研究に資するアーカイブズには情報を重層的に蓄積する視点が重要であり、また関連資料の連携が有効であることを指摘した。これらは、本研究を進める上での基本的な立場として以後も引き継いでゆくものである。 以上により、当初の研究計画は概ね達成できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
アーカイブズ形成の実践として、前年度に引き続き作成したデータの校正作業を中心に進め、完成に向けて整備していく。校正作業にあたっては、公刊資料に拠りつつデータの精度を高めるべく万全を期す。撮影対象が不明なガラス乾板については、美術史専門家の協力も得て、引き続き、名称、所蔵者の同定につとめる。以上の結果を順次作業用のデータベースに反映させ、データを更新していく計画である。 現在、作業用に暫定的なデータベースを運用しているが、次の方法論の研究も反映させつつ、アーカイブズ資料(ガラス乾板、簿冊・図面)のデータ項目を改めて検討し、データベースの公開を前提として改修を進める。その際には、内部および外部の情報との連携方法を可能な限り探ることとする。 アーカイブズの方法論の研究については、メタデータ技術の最新動向やアーカイブズ形成の事例を中心に、研究会出席や既刊の論文・報告書にもとづく調査を引き続きおこない、現状把握につとめる。先駆的な事例については一部現地調査もおこないたいと考えている。これらの成果により、各種アーカイブズのデータ項目やメタデータフォーマット、クロスウォークとの相関関係を明らかにし、本研究で形成するアーカイブズのデータ項目確定時の参考とする。また、博物館におけるアーカイブズについて、内外の事例をもとに近代以降の文化財保護史との関係からその歴史的展開を整理する。 最終年度である本年度は、アーカイブズ形成のまとめとして、方法論の研究成果を実践において活用させる作業をさらに本格化させ、アーカイブズの完成を目指す予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
アーカイブズ形成の実践として、前年度に引き続き、大学院生の協力を得つつデータの校正作業を進め、完成を目指す(謝金等)。まとまった修正については、外注による一括作業も検討する(その他)。校正の完了したデータと、方法論の研究で得たデータ項目およびメタデータフォーマットとの照合をおこない、アーカイブズのデータ項目を確定させる(謝金等、その他)。前年度までに作業用として運用しているデータベースについて、公開を目指した改修をおこなう(その他)。 以上を実施するにあたって、必要に応じて適宜専門家(美術史、図書館情報学、情報科学、アーカイブズ学等)から助言を受ける(謝金等)。 アーカイブズの方法論の研究として、博物館・美術館等の外部機関のアーカイブズについて事例調査を重ね、特に技術的動向について最新の状況を把握する(海外・国内旅費)。加えて、既刊の論文や報告書、学術図書を入手し、アート・ドキュメンテーション学会、図書館情報学会などの各学会や研究会、関連シンポジウムへの参加により、関連情報の収集につとめる(国内旅費、物品費)。以上の調査にもとづいて、導入が確認されたデータ項目やメタデータフォーマットの相関関係を分析し、クロスウォークを作成する。そして、本研究で形成するアーカイブズに相応しいデータ項目あるいはメタデータフォーマットを確定させ、既存のものについてはローカライゼーションをおこなう(物品費、その他)。
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Research Products
(1 results)