2011 Fiscal Year Research-status Report
情報メディア技術の変化と音楽産業の変容に関する実証的研究
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23700295
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 綾子 東京大学, 大学院情報学環, 助教 (10597941)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | レコード産業 / 原盤制作 / 組織間関係 / トライアングル体制 / 構造変化 / 分業 / 協業 / 外部化 |
Research Abstract |
本研究は、技術革新に伴い変動する音楽産業の構造に関して実証的分析を行うことを目的としている。歴史的に日本のレコード産業の諸機能はレコード会社に垂直統合していたが、1960年代以降、原盤制作が外部化・分散化した。それが2000年代以降、再びレコード会社に回帰する動きがあると先行研究では示唆されていた。初年の本年度はまず(1)原盤制作主体の変遷に関して調査を行った。その結果、レコード会社が原盤制作主体として再び顕著となる時期は2000年よりも早く、1990年代中頃から後半であることが明らかとなった。ただ、この分析だけでは、先行研究から仮説的に示唆されるレコード産業の統合~分散~再統合という動態的変化を十分には捉えられないという課題があった。そこで、本研究は次に(2)国内レコード・ビジネスの基本的な分業・協業体系であるトライアングル体制(レコード会社、芸能事務所、音楽出版社の三者関係)を分析枠組みとして導入し、近年30年分の組織間関係の推移を分析した。そして、これらの組織間関係が相対的に分業的な状態から統合的な状態へと変遷することを示した。さらに各事例を詳細に調査し、1990年代以降の統合的な実態が1980年代初頭のそれとは質的に異なることを明らかにした。本研究の貢献はこれまで定性的分析が行われることの多かったレコード産業の構造変化に関する研究領域に、トライアングルの組織間関係という新たな分析軸を提供し、その量的変化を示したことである。本研究成果は日本社会情報学会合同研究発表大会(2011)で報告し、日本ポピュラー音楽学会誌『ポピュラー音楽研究』Vol.15(2012年2月)の査読論文として掲載された。このほか本年度は情報文化学会、社会・経済システム学会、日本ポピュラー音楽学会の各大会にて口頭発表を行い、そこで得られた新たな知見をもとに仮説構築作業と追加調査の準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は概ね予定通り、研究資料の収集、文献調査、仮説の精緻化、分析を実施することができた。研究成果の公表に関しては、当初の計画よりもやや速く進展した。とりわけ、研究成果が日本ポピュラー音楽学会誌『ポピュラー音楽研究』Vol.15(2012年2月発行)の査読付き論文として掲載された点は高く評価できる。他方で、初年度の調査・分析と学会発表を通じて、新たな知見の発見があり、追加調査を行う必要が生じた。この点においてやや時間を要しており、追加調査の準備および実施を急ぐ必要がある。研究プロジェクト全体としては概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の調査分析および研究成果の発表を通じて、新たな知見の発見があり、追加調査を行う必要が生じた。情報メディア技術の変化に伴うレコード産業の構造変化を通時的に捉えるために、初年度は既存のレコード産業のデータを調査分析対象としていた。だが、変化をより大局的に捉えるためには調査対象を若干拡大し、既存産業の外部を対象に加える必要が出てきた。そこでは、CGM(Consumer Generated Media)や生産消費者の存在が指摘されている。音声のデジタル化という技術革新が、(1)1990年代末のレコード市場の最盛期を形成しただけでなく、(2)2000年代以降に特に顕在化する消費者の自生的な音楽生産活動という、2つ目の道筋を形成している可能性があると仮説的に考えられる。そこで、(2)の消費者行動を把握するために、一般消費者に対するアンケート調査を実施する必要が生じた。このような経緯で、初年度の終盤において研究計画に若干の変更が生じた。そのため初年度の終盤以降は、次年度に実施することとなる追加調査の準備を進めている。具体的には、音楽制作のカリキュラムを有する東京と関西の2大学に通う大学生を対象とした調査と、インターネットを用いた調査の実施を予定している。既存のレコード産業システムの外部における消費者の生産活動は1970年代頃から指摘されているが、技術革新との関係性については必ずしも十分に分析されていなかった。追加調査によってこの関係性が明らかとなれば、先行研究で整理されているコンテンツ産業の進化モデルをさらに深化・発展させることができ、本研究の成果を飛躍的に発展させる可能性がある。最終年度となる次年度は、これらの調査分析を実施するとともに、論文執筆と研究成果の公開に努める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
アンケート調査および定量分析に必要な知識・情報を獲得するための書籍・資料代52,612円、アンケート調査協力大学への出張旅費89,800円(関東往復1,700円/回、関西往復43,200円/回、各2回)、アンケート調査に係る人件費・謝金30,000円(関東・関西の2大学で各15,000円程度)、インタビュー調査に掛かる人件費・謝金45,000円(現場の実践者等3名、各15,000円程度)、インターネット調査費用460,000円(インターネット調査会社マクロミル参考料金:質問数20問、サンプル数700)、その他として学会発表に係る費用10,000円が必要となる予定である。
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