2011 Fiscal Year Research-status Report
個人・企業開発のオンラインソフトにおける開発者・ユーザーの協調慣行に関する研究
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23700300
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
松田 俊介 早稲田大学, 人間科学学術院, 助手 (60548246)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 情報文化 / 日本 / インターネット / 交換・共有文化 |
Research Abstract |
本研究課題の当該年度における研究は、国内において配布されている個人/企業開発のオンラインソフトを対象に、開発過程での情報共有/アーカイブ/連携の実際を、民族誌として収集・記録することであった。当初、研究目的をそれらについて質的・量的に分析し、開発者・ユーザーにとって有効な協調慣行が生成される要件を検討することに置いていたが、本年度においては検討のための前段階としての民俗資料収集といえる。具体的には"Susie""TTBase"などのフリーウェア開発についての開発実践について精査し、Webにおけるオンラインソフトをめぐる記述をデータベース化させてきた。とくにソフトウェアの関連文書(ReadMe、仕様書等)については、高い示標性にとむ資料となったため、120点について収集し、分析している。また、開発者へのインタビューおよび参与観察も行い、プログラマの開発姿勢・授受の思想について踏み込んだ意見をまとめることができた。これら調査によると、特定のフリーソフトウェアに関わる人びとは、現行の著作ライセンス制度のオルタナティブ、あるいはカウンターとしてさまざまな規範をソフトウェアの授受のうちに構造づけていること、互いに動機づけていることが見て取れた。 そして、当初の目的としては企図していなかったことであるが、当該年度は、東日本大震災の生じた一年であったため、大災害時における危機管理の情報ネットワークの利用、食の安全をめぐる情報流通についての調査にも取り急ぎ着手することとなった。飯舘村、飯野町等、被災地にフィールド調査に赴き、インターネット・マスメディア・その他の通信手段ににて交わされる情報の授受について調査した。とくに北関東の食における様態について、著書『医食の文化学』を上梓し、民間における食の情報的変化(操作)について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題における対象としては、情報共有の実際、更新履歴やライセンスなどの文書、ソースデータなどのアーカイブ管理、他のプログラマやユーザーとの協調といった要素を設定していた。そのため、研究方法として、(i)10点の個人開発のソフトについて、プログラマ・開発協力者の活動に対する参与観察、(ii)7点の(個人開発から企業化した)民間企業開発のソフトについて、担当者へのインタビューおよび参与観察、(iii)100点強のソフトについて、関連文書の網羅的収集・分析、ウェブ上での開発活動の追跡調査という大きく3つの段階を取ることとしていた。 これらについて、(i)(iii)については概ね計画通りに進んではいるが、(ii)について遅れがみられる。企業とのやりとりであるために、できるかぎり集中的に収集・分析する期間を設定しなければならず、そのための期間を2年目の期間に当てることとした。現時点において個人開発者と利用者のエスノグラフィを集中調査しており、企業開発のエスノグラフィについては着手中といえる。これは、(i)(iii)に調査期間をかけてきたこと、また東日本大震災を目の当たりにし、危機管理と食をめぐる情報流通の問題を新たに課題として付加設定したことなどに起因する。 総じて現時点で若干の遅れとなっているが、本研究を実社会的な事案に対する問題提起に敷衍させて研究課題を進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまで、当初の計画における詳細な分析の前段階、民俗資料収集にあたっており、個人開発のソフトにおけるプログラマ・開発協力者の活動に対する参与観察、関連文書の網羅的収集、フィールド調査の一部について遂行してきたが、今後は企業・個人開発者へのさらなるフィールド調査を重ねて分析を行っていきたい。 工程としては、まず、これまで得られた資料から、個人プログラマの開発活動の実態を把握し、開発動機、共同意識を分析する。そのために技術実践・連携実践の方法、開発コミュニティの全容、オンラインソフト自体の沿革、コミュニティの協力体制形成の沿革、運営保守のポリシー等の把握を目指す。そして、企業における開発活動の実態を把握し、個人開発との戦略上の相違を分析する。そのために、企業化に至った経緯、インセンティブ上の相違、技術実践・連携実践の方法、ユーザーとの協調に関するポリシー等の把握を目指す。最終的には、全アーカイブを集計し、さまざまな慣行や規範が、ソフトをめぐる環境にどのように寄与しているか、またそのさい、コミュニティにどのような情報授受が行われているか、あきらかにしていく。そのために、オンラインソフト・アーカイブの構造分析、インタビューおよび各テクストからみえるプログラマ同士の互恵性を把握する。また、こうした草の根の情報授受の様態への研究を元に、災害における情報技術の社会的機能・食に関する情報流通についても研究を推進し成果を提示したい。 基礎資料およびフィールドにおける対象の網羅的把握、震災と食の安全・文化に関わる実社会的な現象への調査に、これまでの期間をあててきたが、今後、個々の事例について分析を重ねて、情報をめぐる文化的慣行の実相を提示することを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度申請額のうち、比重が大きいものは、資料整理者・データ整理者にかかるアルバイト代の人件費と、図書資料費です。本研究では、インターネット上にある膨大なテクストをデータベース化させる作業が前提であり、資料整理のアルバイトは必ず必要になります。また、多くの図表・グラフ作成によって、活動過程をトレースすることを予定しており、データ整理の補助も同様に不可欠です。短期間・少人数で集中しておこなう予定ではありますが、大学院生・研究所研究員へのアルバイト代として、1時間1,200円として積算しております。図書資料費については、申請者が現在保有していない(閲覧困難な)プログラム技術開発についての技術書、専門書、論文をはじめとして、計上しています。印刷費・通信運搬費については、本研究の成果発表時に発生するもので、研究報告・論文にかかる通信、印刷製本費用として、計上しております。
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Research Products
(1 results)