2011 Fiscal Year Research-status Report
乳幼児刺激に対する反応性とストレスの影響-注意課題による検討
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23700307
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齋藤 慈子 東京大学, 総合文化研究科, 講師 (00415572)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 養育行動 / 認知課題 / オキシトシン |
Research Abstract |
本研究は、乳幼児刺激への反応性を認知課題により検討し、これらの課題の成績が個人の生育環境やストレス状況によって影響を受けるかを検討することによって、健全な養育行動の発現メカニズムを解明し、虐待・ネグレクトの予防に寄与することを目指す。 本年度は、まず注意にかかわる認知課題を用いて、大学生を対象に乳幼児刺激への反応性を検討した。課題はドット・プローブ課題、エモーショナル・ストループ課題、視覚探索課題の3つであった。大人の刺激に比べ、乳児の刺激に注意が引かれるかを検討したところ、視覚探索課題のターゲットなし条件を除いて、乳児顔に対しての反応時間と大人顔に対しての反応時間に差は認められなかった。一方、反応への個人差を検討したところ、視覚探索課題において、乳児顔ターゲット条件の反応時間から大人顔ターゲット条件の反応時間を引いた反応時間差分の結果のばらつきが大きく、乳児に対する反応が速い群、または大人顔に対する反応が速い群の存在が認められた。 次に、男性を対象に、尿によるオキシトシン体内濃度の測定を行った。3日分のサンプルを測定したところ、日によって10倍以上の差がある参加者もおり、オキシトシンは日間変動が非常に大きいと考えられた。 最後に視覚探索課題における反応および、対児感情を測る質問紙得点と、オキシトシン体内濃度の関連を検討した。視覚探索課題において、刺激の種類にかかわらず、反応と課題直前のオキシトシン体内濃度との間に負の相関がみられ、オキシトシン体内濃度は、乳児刺激か大人刺激かに関係なく顔認知課題に関与していることが示唆された。質問紙においては、乳児に対して肯定的な側面を表す接近得点と直前のオキシトシン体内濃度との間に有意な負の相関が認められた。この結果は、オキシトシンが養育行動とのかかわりが深いと言われていることなどと相反するものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、乳幼児刺激への反応性を認知課題により検討し、これらの課題の成績が個人の生育環境やストレス状況によって影響を受けるかを検討することによって、養育行動の発現メカニズムを解明することであるが、これまで乳児刺激への反応性を、ドット・プローブ課題、エモーショナル・ストループ課題、視覚探索課題という3つの認知課題を用いて検討することができた。また、一つの課題(視覚探索課題)において、課題の成績に個人差が認められた。さらにこの課題の成績と、生理指標(オキシトシン)の関連性を示すことができたが、乳児刺激への特別な反応との関連ではなった。これらの成果より、目的の達成度はおおむね順調と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは今年度までに行った成果について学会および、学術雑誌での発表を行う。 これまでに行った認知課題では、乳児刺激と大人刺激で反応の違いが明確ではなかった。また、示された生理指標と認知課題における成績との関連は、乳児刺激への特別な反応との関連ではなった。そこで、新たな認知課題を模索し、乳児刺激への反応性についてさらに検討していく。 また、生育環境についての質問紙を作成、実施し、妥当性を検討する。乳児刺激と大人刺激で反応に明確な違いがみられた課題を用いて、その成績と、生育環境についての質問紙、現在のストレス・感情状態を調べる尺度の結果との関係を調べる。また実験実施時のストレス指標(唾液中アミラーゼ)と、尿中のオキシトシンを測定して、質問紙の結果、生理指標、課題成績との関連を検討する。 上述のように自然状態での生理指標や生育環境と課題成績との関連が確認されたのち、社会的ストレス、物理的ストレス、感情誘導を用いて実験的にストレス状況を作り出し、注意課題の成績が影響を受けるか、また影響の受け方に個人差がみられるか否かを検証する。乳児刺激が特殊か否かを確認するため、一般的に注意を引くといわれる刺激(怒り顔や脅威刺激)で、ストレスの影響が異なるか否かも検討する。実験的なストレス操作が有効であったかを質問紙および生理指標を測定し、課題成績との関係を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
成果発表のための学会参加費、旅費、英文校閲費などが必要となる。また実験の実施に際しては、実験参加者への謝金が必要である。生理指標測定用の機器(唾液アミラーゼモニター)および試薬(オキシトシンEIAキット)を購入する予定である。作成した質問紙のデータ入力を委託するため、その費用も必要である。
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