2011 Fiscal Year Research-status Report
言語進化論的アプローチによる急激な環境変化にともなう言語変化のモデル化
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23700310
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中村 誠 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 特任助教 (50377438)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 進化言語学 / モデル化 / シミュレーション / エージェント |
Research Abstract |
本研究の目的は,自然言語の文法が言語使用者間のコミュニケーションによって動的に形成される過程を計算機シミュレーションで再現し,社会構造と言語変化の関連を示す定量的なモデルを構築することで,急激な言語変化現象の解明に新展開を図ることである.本研究においては,特に,近年におけるインターネットの発達にともなって現れたネットスラングの現象に着目し,その特徴である急激な言語変化を言語進化の問題として取り扱う. 本研究は,大きく3つの段階に分けられている.(i)繰り返し学習モデルの改良,(ii)複雑ネットワークを導入したマルチエージェントモデルの構築,(iii)妥当性の検証である.今年度は,繰り返し学習モデルの実装及び改良を行い,さらに,ネットワークを導入したマルチエージェントモデルを構築した.これにより,妥当性の検証に向けた実験を行うことが可能となった. 小規模なネットワークによる実験を行った結果,これまでの言語進化研究の成果であるクレオール化の実験と比較して,同様の振る舞いを観察することができた.このようなネットスラングに関する研究ををピジン化,クレオール化の研究と比較を行うことは,本研究における独創的な点であるといえる.今後予想される結果として,ピジンとネットスラングについて,新たな文法が普及するための何かしらの共通点を見つけることができるだろう.また,それをすることの意義は,物理的な距離という壁がなくなった現代における言語変化研究の新展開が期待できることにある. なお,今年度の成果については,国際ワークショップで発表を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計算機を用いた実験を行うために,次の実装計画を立てていた.まず,初年度である今年度の計画としては,言語進化研究の成果である繰り返し学習モデル (Kirby, 2001) の実装および改良であった.すなわち,単語の語形変化や格助詞の付与を考慮した文法及び学習機構を設計し,改良を加えることである.次に挙げられるのは,次年度の計画の一部であるが,複雑ネットワークを導入したマルチエージェントモデルの構築である.すなわち,既存モデルにおいては言語入力が親子間のリンクに限られるのに対し,提案手法では複数エージェントを導入して大規模ネットワークに拡張するという実装計画を立てていた. 学習モデルの実装に関して,実験に必要な最低限のコーディングはほぼ完了している.そのため,実装は継続する必要はあるものの,それと平行して実験を行うことが可能である.実験を行うことを優先にモデルの実装を進めた結果,今年度の計画のうちでまだ行われていないものと,次年度の計画で既に行われているものが混在するようになったが,これは次年度解消される予定であり,達成度に関してなんら問題はない.具体的には,今年度の計画にあった繰り返し学習モデルの実装と改良のうち,文法の精緻化に関する改良がまだ行われていない.しかし,当初次年度に行う予定であったエージェントモデルの構築がすでに完了しており,大規模な実験を行うことが可能な状態である.したがって,現在までの達成度の評価として,おおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度途中から所属が北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科から名古屋大学大学院法学研究科へ変更となった.研究環境に変化があったものの,研究活動に関しての制約は特にないため,本研究の継続には何ら問題は無い.本研究は,これまでの申請者の研究成果の延長線上に有り,研究データ,プログラム等の研究資産は潤沢にあるといえる.本研究は,これらを統合することで効率的に研究を遂行することができる.研究体制としては,基本的には研究代表者が研究の総括,現象の分析,および実装と検証を行い,実験補助のため,博士課程学生を適宜雇用する.また,必要に応じて専門家の意見を聞く. 今年度は,昨年度に計画しつつも未実装だった箇所の実装と平行して,計算機実験を行う.この繰り返し学習モデルの改良がうまくいかないときは,現状の学習モデルを利用する.このモデルは拡張性が高い上にロバストであるため,状況に応じた改変がいつでも可能である. 次年度以降に計画している,エージェントが自律的にコミュニティを形成することができない場合,今年度行った小規模ネットワークによる実験のように,初期条件で複雑ネットワークを与える.この場合,インターネットコミュニティ形成の模倣に該当しなくなることが懸念されるが,急激な環境変化のモデル化というテーマから外れることはない.比較検証に困難がともなう場合,複雑ネットワーク,進化言語学,社会言語学などの専門家の意見を聞く.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は以下の内容からなる:(1)対象の分析に関すること,(2)それに基づく処理のモデル化・実装に関すること. (1)を遂行するにあたり,文献等からの調査が必要である.研究室内には,人工知能や自然言語処理に関する書籍,資料が充実しており,工学系の文献には不足はない.その反面,社会言語学や認知科学など,人文学系の書籍が乏しいため,書籍を購入する必要がある. (2)を遂行するにあたり,次年度から大規模な実験を行うため,高速な計算機を導入する必要がある.研究室内における計算機環境は整っているが,学生をはじめとする研究人員が多いため,頻繁に利用することははばかられる.研究室内の活動に関しては,学生を指導する立場にないため,研究室の学生に仕事を依頼することはできない.本研究に必要なデータ整理に関しては,博士課程学生を研究員雇用する.また,その際,データ入力用ノートパソコンを必要とするため,購入する. 上記に加え,調査/発表のための国内/国外出張の旅費を要する.言語学的な調査などについて,専門家の意見を聞くことを計画している.これに加え,これまで協力して研究を行ってきた言語進化および自然言語処理の専門家との研究打ち合わせを行う.本研究の研究成果は,これまでと同様,認知科学会,言語処理学会の論文誌,および一流の研究者が集まる国際会議等で論文を発表していく予定である.すでに札幌で開催される CogSci2012 への参加が決定している.
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[Presentation] Multilayered Formalisms for Language Contact2012
Author(s)
Makoto Nakamura, Shingo Hagiwara, and Satoshi Tojo
Organizer
Proceedings of the Workshops on Constructive Approaches to Language Evolution, in conjunction with the 9th International Conference on the Evolution of Language
Place of Presentation
Kyoto
Year and Date
13 Mar 2012