2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23700330
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Research Institution | National Rehabilitation Center for Persons with Disabilities |
Principal Investigator |
岡田 美苗 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 感覚機能系障害研究部, 流動研究員 (40586442)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 認知科学 / 神経科学 / 聴覚フィードバック / 発声制御 / 吃音 |
Research Abstract |
我々の流暢な発話は、聴覚・発話相互作用に関わる神経回路と発話運動器官とが、精緻な時間精度で円滑に連携することにより実現する。本研究では、流暢な発話制御の時間的動態とその神経回路について知見を得るために、変換聴覚フィードバック課題(Transformed Auditory Feedback: TAF)(Kawahara, 1993; Okazaki, Mori, & Cai, 2010)を用いて発声応答の解析を行った。平成23年度は以下の成果を得た。 <TAF課題における発声 F0 制御特性の男女差> 母音/a/の持続発声中の聴覚フィードバックにピッチ変調を施し、得られた発声応答を解析した。実験は開ループ系(予め変調を施した音声を発話と同時に提示する方法)で行い(Okazaki, Mori, & Cai, 2010)、成人男女の発声応答を比較した。変調信号はステップ状で、最大変調幅を100 cents (1半音)、変調持続時間を 500 ms とした。得られた発声応答の基本周波数(F0)を解析した結果、ステップ状のピッチ変調に対し、男女共に潜時 200 ms 以下の速い補正方向の発声 F0 応答が示されたが、男性群の応答ピークは女性群に比べ小さく、過渡的であった.さらに、主成分分析により発声応答成分を分離した結果、寄与率 5 % 以上の主成分として 620 ms、280 ms、及び 190 ms の主成分が得られ、それぞれの主成分の因子負荷量に有意な男女差が示された(p < .05)。この結果は、聴覚フィードバックに対する発声 F0 制御に少なくとも3つのメカニズムが存在し、それらのメカニズムに男女差があることを示唆した。この知見は,発話の流暢性の障害である吃音における男女差、すなわち、女性に比べ男性で吃音発症率が高く治癒率が低いという現象の一端を説明しうる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度の研究成果として、聴覚・発話系の発声 F0 制御とその時間的動態に男女差が存在するという予想外の知見を得た。それ以外にも、平成24年度の目標の1つである、吃音者を対象とした実験も行っており、行動実験についてはおおむね順調に進展している。しかし、本年度の目標の1つである脳機能計測の進捗が遅れ、次年度に引き続き行うことになった。また、平成23年度の研究成果の発表件数は当初の予定より少なく、全体として研究目的の達成度はやや遅れていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に予定外の研究成果が得られたことから、研究計画の一部を変更し、新たに実験被験者を追加する。具体的には、当初予定していた音声制御実験と脳機能計測では、成人健常男性群および成人吃音男性群を対象としたが、平成23年度の研究成果である聴覚・発話系の発声制御の男女差についての検討を加えるため、成人健常女性群を追加する。成人吃音女性群については、症例自体が少ないことから、実験期間内に可能な人数で実験を行う。 さらに、やや遅れている研究達成状況の遅れを解消するために、平成24年度は全体的な作業効率の向上を図る。具体的には、現在最も時間を要する実験解析作業に技術補助員を投入し、解析速度を上げるためにより高性能の計算機類を導入する。必要な経費は、研究期間内に予定していた旅費の一部から充てる。 これらの研究計画の変更と、研究推進状況の改善をもって、研究成果を充実させると共に、研究期間内の目標達成を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、主に旅費と人件費の項目で次年度使用予定の研究費が生じた。その理由は、旅費については研究発表件数が当初の予定より少なく、研究発表に必要な旅費も予算以下であったことによる。人件費については、平成23年度に行った実験が所属機関における業務の一部であり、実験被験者への謝金が所属機関から拠出されたことによる。 平成24年度は、研究計画の一部変更と、現在の研究推進状況の改善に伴い、当初予定しなかった人件費と物品費が発生する。これらの予算を確保するために、平成24年度に予定していた研究費使用計画の一部を変更する。具体的には、平成24年度の旅費として、国内学会数件と国際学会3件にかかる経費を予算に計上したが、国際学会への参加件数を減らし、その結果生じる余剰と、平成23年度に生じた次年度使用予定の研究費の旅費の余剰とを合わせ、新たな実験被験者やデータ解析作業を行う技術補助員の人件費、およびデータ解析作業の効率化に必要な計算機類を購入する物品費に充てる。これらの変更以外は、当初の研究費使用計画通りとする。
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