2011 Fiscal Year Research-status Report
DNAの力学特性の配列依存性を利用して転写因子結合部位予測の精度を改善する
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23700354
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
角南 智子 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究職 (50554648)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | DNA / タンパク質 / 配列依存性 / DNA認識 |
Research Abstract |
転写因子によってゲノム中の遺伝子の発現がどのように制御されているのかを解明することは生物学上の重要なトピックである。この制御機構を解明するためには、ゲノム中のどの配列にどの転写因子が結合するのかを正確に予測することが必要である。しかしながら、転写因子が結合するDNA配列はただ一つではなく、似たような別の配列にも結合しうるために、転写因子結合部位を正確に予測することは難しい。このようなことが生じる原因の一つは、結合に関与するDNAやタンパク質が古典的に考えられてきたような固い分子ではなく、結合時にお互いに構造を変化させることにあると考えられる。そのため、転写因子結合部位の予測精度を向上させるには、DNAやタンパク質の力学的な性質が、結合にどの程度関与するのかを明らかにすることが重要である。平成23年度は、公共のタンパク質構造データベースからDNA結合タンパク質の構造を抽出し、タンパク質-DNA相互作用を解析するためのデータベースの作成を行った。さらに、DNA界面上でのタンパク質の構造を、既に報告されているタンパク質フラグメントの構造ライブラリを用いて解析し、タンパク質がDNAと複合体を形成する場合、相互作用面の構造変化が、相互作用面以外の面に比べて頻繁に生じることを定量的に示した。塩基配列特異的にDNAと結合するタンパク質と特異性のないタンパク質では構造変化の頻度の差は小さく、塩基配列に依存した特徴的な構造変化はないことが分かった。さらに構造変化によって形成される構造やアミノ酸組成の特徴について分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、公共のタンパク質構造データベースからDNA結合タンパク質の構造を抽出し、DNA界面でのタンパク質の力学特性に注目して、研究を行った。研究はおおむね順調に進展したと考えている。まずは、公共のタンパク質構造データベース(PDB)から、タンパク質-DNA複合体の結晶構造を抽出した。このうち、分解能が低いもの、二本鎖DNA以外のDNAに結合しているタンパク質構造、人工タンパク質などを、グラフィックスソフトウェアによる目視での確認と、文献確認、自作のプログラムを組み合わせて取り除いた。その後、タンパク質の配列の相同性に基づいてクラスタリングを行い、独立なDNA結合タンパク質の結晶構造を抽出した。その後、これらのタンパク質-DNA複合体構造のうち、タンパク質がDNAのどこに結合しているのかを分析した。DNAとタンパク質の界面の構造のうち、タンパク質側の界面の構造の解析を行った。タンパク質の構造分類には、既にKolodonyらによって報告されているタンパク質フラグメントの構造ライブラリを用いた。その結果、DNA-タンパク質が複合体を形成する際に、相互作用面の構造変化が、相互作用面以外の面に比べて頻繁に生じることを明らかにし、構造変化が生じる領域にはGly, Proが多いなど、特徴的なアミノ酸組成を有することを明らかにした。塩基配列特異的にDNAに結合するタンパク質と特異性がないタンパク質での構造変化の頻度の差に着目して解析を行ったが、構造変化の頻度の差は小さく、塩基配列に依存した特徴的な構造変化はないことが分かった。タンパク質やDNAの力学特性は、転写因子をはじめとするタンパク質-DNA相互作用の基本的性質であるため、本年度、タンパク質構造の力学特性に関する情報を得られたことは重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度は、データベースを作成し、DNA界面でのタンパク質の力学特性に注目して、研究を行った。平成24年度は、平成23年度で作成したデータベースを用いて、DNA界面でのDNAの力学特性の分類を行う。タンパク質が特異的に結合するDNA配列と結合しないDNA配列でのDNA構造変化エネルギーを計算し、DNAの構造変化エネルギー分布の特徴を解析する。構造変化エネルギーの計算は、分子動力学シミュレーションに基づいて計算された塩基配列の弾性定数マトリックスに基づいて行う(S. Fujii et al., Nucleic Acid Res.(2007) 35, 6063-6074)。タンパク質結合配列と非結合配列での構造変化エネルギーの差は、結合するタンパク質種ごとに異なっていると予測されるため、これをタンパク質ごとに分類し、構造変化エネルギーの分布形状の違いが、どのような要因に基づいているのかを明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の交付額のうち、次年度に322千円を使用する予定である。これは、海外出張旅費が、円高と学会開催時期の関係で、想定していたよりも少なく済んだことに加えて、データ解析や論文執筆用のソフトウェアの購入の一部を平成24年度に繰り越したためである。平成24年度の研究費は、データ処理用PCやデータ保存用の磁気媒体に使用する予定である。これには、250千円程度を予定している。さらに、参考書等の書籍類、論文執筆用のソフトウェア、論文別刷り代、論文投稿用英文校閲に使用する予定である。これには350千円程度を予定している。また、研究結果を広く普及させるために、国内外で学会発表を行う。そのため、旅費に400千円程度を使用する予定である。
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