2012 Fiscal Year Research-status Report
シナプス可塑性をみちびくCaMKIIリン酸化の再構成系実験とモデルによる理解
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23700371
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
浦久保 秀俊 京都大学, 情報学研究科, 研究員 (40512140)
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Keywords | CaMKII / NMDA受容体 / シナプス可塑性 |
Research Abstract |
平成23年度に予想外の発見がもたらされた。開発した再構成系における構成分子CaMKII, CaM, PP1, Ca2+ に加えてNMDA受容体のCaMKII相互作用部位をペプチドとして導入すると、CaMKII T286サイトのリン酸化がヒステリシスを示し、分子メモリとして機能することが発見された。この発見は、人間をはじめとする哺乳動物の記憶素子を試験管中に再現することに成功したことを示しており、非常に大きなインパクトを持つ。そこで、平成24年度は当初の予定を変更して発見したCaMKII分子メモリの特性を調べた。 その結果、CaMKII分子メモリは次の5つの性質を持つことが明らかとなった。まず、CaMKIIが分子メモリ特性を示すためには(1)必ずNMDA受容体が必要であった。NMDA受容体がないとき、観測したあらゆる実験条件においてCaMKIIは分子メモリを示さなかった。(2)適切なCa2+濃度が必要であった。CaMKII分子メモリはCa2+濃度に対するT286リン酸化応答のEC50付近のみで生じた。(3)低いPP1濃度が必要であった。PP1濃度が高い場合(> 0.5 uM)には、例えNMDA受容体を導入した場合でもCaMKII分子メモリは生じなかった。さらに、CaMKII分子メモリは(4)多値性を持った。メモリ「ON」状態と「OFF」状態のCaMKIIを混合すると各々の混合比率に応じた安定状態を示した。また、(5)NMDA受容体のリン酸化に依存し、S1303脱リン酸化により分子メモリを示すCa2+濃度範囲が広くなった。 また、平成24年度は、さらに上記の実験データに基づいてCaMKII分子メモリの数理モデル化を行い、CaMKII分子メモリを力学系におけるBistabilityの観点から説明することを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
CaMKII分子メモリ特性について必要な実験はすでに終えており、現在論文投稿準備中である。また、CaMKIIを含むシナプスにおけるシグナル伝達分子の制御モデル化についての研究がまとまり、論文として出版された。また、共同研究者主体ではあるが、シナプスにおけるシグナル伝達分子の少数性に基づく確率共振の研究が形になり、現在投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度までにCaMKIリン酸化の複数リン酸化サイト間の関係性についての研究成果を取りまとめる予定であったが、平成23年度後半にCaMKIIのT286サイトのリン酸化が分子メモリ特性を示すことが発見され、さらに平成24年度前半の実験により、発見が確実であることが明らかとなった。CaMKIIリン酸化の分子メモリを示すことは、CaMKIIはシナプス可塑性(生物の記憶)の維持をもたらす分子メカニズムであることを示しており、世界的に見ても重要な発見である。そこで、当初の予定を延長して平成24年度はCaMKIIが分子メモリを示す条件、およびNMDA受容体側のリン酸化サイトの性質を調べる実験を行った。平成25年度は論文投稿、および査読者の疑問に答える実験を行い、研究成果を取りまとめることとしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
残額250,000円は、論文の出版費用、および査読者からの指摘に答えるための追加実験を行うために必要な各種の抗体やCaMなどの消耗品の購入に充てる。
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Research Products
(5 results)