2011 Fiscal Year Research-status Report
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23700397
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
水口 留美子 独立行政法人理化学研究所, シナプス分子機構研究チーム, 研究員 (70450418)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 神経回路形成 / 軸索性細胞認識因子 / 攻撃行動 / 社会的行動 / BIG-2 |
Research Abstract |
BIG-2ノックアウトマウスは、Crawleyテストで社会的行動に異常を示すことから、他者の認識や情動に何らかの異常があると考えられた。そこでまず、これらを評価するための単純な行動実験の系として、野生型およびBIG-2ノックアウトマウスの雄の攻撃行動の比較を行った。それぞれの遺伝子型の雄マウスを一週間以上同じケージで個別に飼育し、なわばりを形成させた。そのケージに他系統(DBA)の雄マウスをintruderとして入れ、15分間に見られる攻撃行動(追跡、威嚇、かみつき、マウント等)を観察した。その結果、BIG-2ノックアウトマウスは野生型に比べ、intruderに対する攻撃行動の回数および総時間が有意に低下していることが明らかとなった。攻撃行動に関与する神経回路を特定するために、野生型マウスの攻撃行動に伴って活性化する脳内部位を、抗リン酸化NFkB抗体を用いた免疫組織化学で調べた。その結果、medial orbital cortex(MO)、prelimbic cortex(PrL)、piriform cortex(Pir)、temporal association cortex(TeA)、posteomedial cortical amygdaroid nucleus(PMCo)等を含むいくつかの領域でNFkBのリン酸化が亢進しており、攻撃行動に伴ってこれらの領域の神経活動が上昇していることが示唆された。BIG-2ノックアウトマウスではこれらの領域の神経回路形成に異常が生じ、攻撃行動が抑制されている可能性が考えられた。現在、これらの領域でのBIG-2の発現を確認すると共に、野生型とBIG-2ノックアウトマウスで神経投射や活性に違いが見られるかを調べている。また、攻撃行動や社会的行動におけるそれぞれの領域の役割について、さまざまなアプローチにより解析を行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の実験計画では、BIG-2ノックアウトマウスの社会的行動についてCrawleyテストを用いて調べる予定であったが、Crawleyテストは複雑で難易度の高い行動実験であるため、再現性のある結果を得るのが困難であった。そこで、より単純な行動実験の系として、雄の攻撃行動について調べることにした。その結果、BIG-2ノックアウトマウスは野生型に比べ、他の雄への攻撃性が有意に低下していることが示された。攻撃行動とCrawleyテストは同列には評価できないものの、今回得られた結果はBIG-2ノックアウトマウスが他者の認識や情動に異常を持つことを示しており、社会的行動においても何らかの異常を示す可能性を裏付けている。また今回、抗リン酸化NFkB抗体を用いた免疫組織化学により、攻撃行動に伴って活性化される脳内部位の候補が同定された。今後これらの部位に着目した解析を行うことにより、BIG-2発現細胞を含む脳内神経回路が攻撃行動や社会的行動にどのように関与するのか、アプローチすることが可能となった。また今回、抗リン酸化NFkB抗体を用いた免疫組織化学が、脳内神経活動をモニターする系として有効であることが示され、今後の解析方法の手がかりが得られた。当初の実験計画と若干内容は異なっているものの、研究課題全体としてはおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今回得られた結果から、BIG-2がマウスの攻撃行動を制御する神経回路の形成に関与する可能性が示された。そこでまず、野生型マウスを用いてBIG-2のin situ hybridizationを行い、抗リン酸化NFkB抗体を用いた免疫組織化学の結果と比較することにより、BIG-2を発現する神経細胞の中で攻撃行動に伴って活性化するものがあるかどうかを調べる。また、蛍光トレーサー等を用いてこれらの神経細胞の投射先を同定する。さらに、野生型とBIG-2ノックアウトマウスで、これらの細胞の軸索投射パターンや攻撃行動に伴う活性化に違いが見られるかどうかを検証する。次に、これらの細胞を人為的に活性化あるいは不活性化させた際に、マウスの攻撃行動に異常が見られるかどうかを調べる。近年、c-fosプロモーターの下流にテトラサイクリン制御性トランス活性化因子(tTA)を発現する(c-fos-tTA)マウスを用いて、特定の時期に活性化した神経細胞をラベルしたり、人為的に再活性化させる系が確立されている。このc-fos-tTAマウスと、BIG-2プロモーターを用いたトランスジェニックマウスを交配させることにより、BIG-2発現細胞のうち、特定の時期に活性化した神経細胞のみを局所的に活性化あるいは不活性化できるシステムを確立したいと考えている(たとえば、BIG-2プロモーターを用いてCre組換え酵素を発現させ、tTA+Cre依存的に神経毒素を発現させる、等)。これらの実験を総合的に行うことにより、攻撃行動を制御する神経回路を同定し、その回路形成におけるBIG-2の役割について明らかにする。また同時に、Crawleyテストやその他社会的行動を評価するための行動実験系の確立を行い、BIG-2発現細胞の社会的行動における役割についても研究を進めていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の研究計画では、リニアスライサーおよび行動解析用PCを購入する予定であったが、実験の内容が変わったことにより現存の機器で対応可能となったため、平成23年度は購入を見送った。余った費用は実験動物、試薬類の購入に充てたが、申請者が平成23年11月から平成24年4月まで産休・育休を取得していたこともあり、881,500円の余剰が生じてしまった。次年度は、マウスの行動実験および免疫組織化学などを中心として研究を行う予定である。そのため、研究費は主にマウスの購入や維持のための費用、および抗体や試薬などの購入費として使用する。本年度余った予算についても、それらの費用の一部として使用する予定である。また、BIG-2プロモーターを用いた新たなトランスジェニックマウスの作製を行う予定であり、その作製のための費用にも充てられる。また、得られた成果を学会等で発表するための旅費としても使用する予定である。
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