2011 Fiscal Year Research-status Report
記憶ニューロンに対するドーパミン作用機序の蛍光イメージング解析
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23700405
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Organization for Medical Research |
Principal Investigator |
上野 耕平 (財)東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 主席研究員 (40332556)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ショウジョウバエ / イメージング / ドパミン / 神経可塑性 |
Research Abstract |
学習・記憶形成機構の重要な基盤である神経活動の可塑的変化は、さまざまな神経伝達物質や栄養因子などによって引き起こされる。ショウジョウバエの匂い嫌悪学習においては、ドパミン(以下DA)が重要な働きをする神経伝達物質であることが同定されている。事実、DA受容体の欠損株は、嫌悪学習能がほぼ完全に消失している。しかし、DAとその受容体がどのようにして神経活動の可塑的変化を引き起こすのかという、神経生理学的な知見は殆ど得られていない。これまでに申請者は、ショウジョウバエ脳を摘出し、匂い嫌悪学習において最も重要な働きをすると考えられているキノコ体(以下MB)と呼ばれる神経群の活動性を測定する系を確立してきた。この解析系を用いて、DAの効果とMBの神経活動の可塑的変化を調べた結果、DAはそれだけでMBの活動性を長期的に変化させうることが明らかとなった。これは、従来考えられてきた匂い中枢からMBへの神経伝達とDAの協調的な働きによりMB神経活動が可塑的に変化するという仮説とは相反するものであった。23年度は、このDA誘導性可塑的変化が従来ハエの匂い嫌悪学習において重要と考えられてきたcAMPシグナル経路によるものなのかを解析した。その結果、多くのcAMPシグナル経路の変異体(これらは同時に学習変異体でもある)では、この可塑的変化が阻害された。DA以外にもハエの記憶形成に重要な働きをする神経伝達物質にオクトパミンとグルタミン酸がある。本研究から両者ともMBの可塑的変化に必要であるが、DAの上流として機能していることが示された。これらの結果から、ハエの記憶形成の場と考えられているMBはDA単独で匂い嫌悪学習の基盤となる可塑的変化をすることがより強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドパミン(以下DA)がショウジョウバエのキノコ体(以下MB)ニューロンの活動性を長期的に増強する分子メカニズムを明らかにすることが本研究の大きな目的の1つである。23年度において、申請者はDA受容体、DA受容体と共役するGタンパク、このGタンパクによって活性化され、cAMPを生成する酵素、さらにはcAMPによって活性化されるリン酸化酵素といった分子の変異体におけるDAの効果を解析した。その結果、これらの変異体ではいずれもDAによるMB応答性の長期増強が著しく低下していることが明らかとなった。さらに、薬理学的な解析からも同様の結果を得た。従って、DAによるMBの可塑的変化はcAMP分子経路を採用していることが明らかとなった。続いて、cAMP経路とは直接関与しないが、匂い嫌悪学習に重要だと思われているグルタミン酸やオクトパミンといった神経伝達物質を解析した。その結果、これらの分子も最終的にはDAからcAMP経路を介してMBの神経活動を可塑的に変化させることが明らかとなった。これらの知見は、本研究の目的の1つを十分に満たすものであると考えられる。一方、本研究のもう1つの目的である、DAは脳のどこから分泌され、MBの機能を変化させるのかという解析は予想もしない出来事から滞っている。DAニューロンを部位特異的に活性化させるため、DAニューロンにチャネルロドプシン(ChR)を発現させた遺伝子組換え体を作成し、DA放出に伴ってMBのどの部位でCa2+やcAMPが変化するのかということをGFPを改変した蛍光タンパクによって解析することを試みた。しかし、ChRを活性化させる光により、これら蛍光タンパクが光異性化を引き起こし、直ちに退色してしまうという問題が発生した。現在、この問題を克服すべく、吸収波長をより長くして光異性化が起きにくい蛍光タンパクを発現する遺伝子組換え体を作成している。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度は、研究目的および研究計画に則り、以下の研究を行う。すなわち、キノコ体(MB)ニューロンやドパミン(DA)ニューロンの形態解析とin vivo解析である。また、23年度に問題が発生した光刺激による解析も引き続き行う。形態解析は遺伝学的手法により、単一個体内でMBとDAニューロンを異なる蛍光タンパクによって染め分け、それによりそれぞれのニューロンがどのように結合しているのかを明らかにする。現在、それぞれのニューロンに異なる蛍光タンパクを発現する遺伝子組換え体が完成しており、これらを交配して得られるF1変異体を固定、免疫染色および検鏡により観察する準備は整っている。in vivoイメージングとは、ハエ頭部に穴を開け、そこから直接脳神経活動をCa2+イメージング解析などにより測定するものである。これにより、実際に匂いや電気ショック刺激などを行い、ハエが匂い嫌悪学習をする際にどのような神経活動を示すのかを直接解析することが可能である。DAニューロンに蛍光プローブを発現させ、匂い嫌悪学習時にどこで、どのようにDAニューロンが活性化するのかを同定することを目指す。光刺激をする際に発生する光異性化の問題を克服するため、より長波長の蛍光タンパク(R-GECO)を発現する遺伝子組換え体を作成中である。完成後、23年度に予定していた実験を遂行する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
脳の様々な部位を、様々な蛍光タンパクで標識し、それらを観察するためには抗体染色が欠かせない。研究費には蛍光タンパクの染め分けは主に抗体を使用する。抗体染色に必要な試薬代やガラス、プラスチック器具代を計上している。in vivo実験系に必要な機材や器具は昨年度までにほぼ準備できたが、使用する予定の施設共通機器である蛍光顕微鏡の消耗品代を共通機器使用費として計上している。また、実験全体を通じて必要なハエの飼育および飼育を補助するための人件費も計上した。最終的に得られた結果を学会および論文として発表する際に必要な諸経費も計上している。
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Research Products
(2 results)