2011 Fiscal Year Research-status Report
小脳発達における新規自閉症感受性遺伝子AUTS2の分子機能の解析
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23700406
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
堀 啓 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所病態生化学研究部, 流動研究員 (70568790)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 自閉症 / 神経細胞移動 / 神経突起伸長 / AUTS2 / Racシグナリング / アクチン細胞骨格 |
Research Abstract |
小脳のGABA作動性神経細胞の運命決定因子Ptf1aの下流遺伝子候補の1つとして、新規自閉症感受性遺伝子Auts2を同定した。Auts2についてはこれまでに、おもに自閉症患者間でのAuts2遺伝子欠損が報告されており、これら精神疾患の病因遺伝子の有力候補であると考えられているが、生理機能が全く分かっていない。本研究では、AUTS2が小脳では神経突起伸長が活発となる生後のプルキンエ細胞の樹上突起に強く染色されることを見いだした。また、培養神経細胞においても、AUTS2は成長円錐などアクチン集積構造に局在しており、さらに、AUTS2の強制発現により、アクチン制御因子Racの活性化依存的なRuffle膜が誘導されることを発見した。またAUTS2によるRuffle膜形成は、P-Rex1などのRac活性化因子のドミナントネガティブ変異体により抑制された。さらに、プロテオミクス解析によってAUTS2結合タンパクの検索を行なったところ、実際に上述の分子を含む、Racシグナル関連分子が多数同定された。また、逆にsiRNAによってAuts2の発現を抑制させた培養神経細胞では神経突起伸長が著しく阻害されると同時に、Racと同ファミリーのCdc42が活性化された際に観察されるような、filopodia様の短い突起が多数形成された。この表現型は、Cdc42のsiRNAを共導入することによりfilopodia形成が抑制されることから、AUTS2はCdc42に対して抑制的に働くことが示唆された。さらに、子宮内電気穿孔法を用いた個体での解析では、胎児大脳皮質にAuts2のshRNAベクターを導入したところ、神経細胞の移動が著しく阻害された。以上のことから、AUTS2は神経細胞において、Racシグナルを介してアクチン細胞骨格を制御し、細胞移動や神経突起など神経細胞の形態形成に関与する可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成23年度研究計画として、 (1) プロテオミクス解析によるAUTS2結合分子の同定、(2) 子宮内電気穿孔法を用いた個体レベルでのAUTS2の分子機能の解析により、AUTS2の分子機能を明らかにすることを目標とした。まず(1)であるが、AUTS2リコンビナントタンパクをbaitとして、アフィニティークロマトグラフィーと質量分析によるショットガン解析により、ラット大脳皮質抽出液より数百種類のAUTS2結合タンパクを同定した。これらのうち、アクチン制御因子群、特にRacシグナルに関連する分子を多数同定しており、さらに、免疫共沈降法によってAUTS2がRac活性化因子P-Rex1と実際に結合していることも確認している。AUTS2を培養細胞に強制発現させることによりRacの活性化とそれに伴うruffle膜形成が誘導されることが観察されており、AUTS2がRacシグナルを介して細胞の形態形成を制御していることを明らかにすることができた。また、計画 (2)では、マウス胎児大脳皮質にAuts2のshRNAを導入して発現抑制を行なうことで顕著な神経細胞移動の阻害が起ることを見いだした。さらに、同方法によってshRNAを導入した大脳皮質神経細胞の分散培養を行い、GFP蛍光を利用して形態観察を行なったところ、樹上突起や軸索の伸長が著しく阻害されるという結果を得ている。上記の研究実績は平成24年度に予定している「AUTS2の培養細胞レベルでの機能解析」として計画していた実験を既に実施しており、興味深い結果を得るに至っている。さらに、現在作成中のAuts2コンディショナルノックアウトマウスについても、すでに解析を行なうのに十分なヘテロマウスが得られており、個体レベルでのAuts2の生理機能の解析を始めている。以上のことから、本研究の進行状況は当初の計画以上に伸展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
AUTS2の分子機能の解明として、AUTS2によるRacシグナルの活性化メカニズムの詳細をさらに明らかにする。プロテオミクス解析によりAUTS2の結合分子としてRac活性化因子(GEF)が複数同定されたが、AUTS2がこれらの分子と結合することで実際にGEF活性を上昇させるのかどうかを生化学的な解析により検討する。また、shRNAを用いたAuts2の発現抑制実験から、AUTS2がRacと同じファミリー分子であるCdc42のシグナル経路を抑制する働きを持つことが示唆されており、こちらについても、プロテオミクス解析により得られている分子群より検索・検討を行い、分子機能を明らかにしていく。また、Auts2の生理機能を明らかにするため、今後はAuts2コンディショナルノックアウト (KO) マウス (Auts2-floxed)を用いた解析を中心に行なっていく予定である。まず小脳におけるAuts2の役割について、En1-CreマウスとAuts2-floxedを掛け合わせることにより小脳特異的なAuts2 KOマウスを作製し、主にプルキンエ細胞の細胞移動や神経突起伸長などの形態形成など、発生学的な解析を中心に解析行なう。また、大脳皮質特異的なAuts2 KOマウスとして、FoxG1-Creと掛け合わせ、まずは小脳同様に形態学的な解析を中心に研究を行う予定である。さらに、これらKOマウスを用いて学習能力・社会性などの行動解析を行ない、自閉症など精神疾患の発生機序の解明への理解を深める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に計画しているコンディショナルノックアウトマウスを用いた解析では、マウスの維持費に高額の費用が生じる予定です。また、生化学・細胞生物学的解析には抗体や細胞培養用培地などの試薬等の消耗品を必要とするので申請しました。子宮内電気穿孔法に用いる発現ベクターは高純度のものを必要としますので、遺伝子精製試薬として別途申請しています。また、研究成果報告および情報収集を目的に国内外の学会に参加する予定であるため、旅費を申請しました。以上の研究経費の妥当性を考慮し、本研究課題の遂行に必要な研究費を積算しています。
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