2012 Fiscal Year Research-status Report
アミロイド前駆蛋白を介したトランスサイレチンの発現調節と網膜変性の関係
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23700427
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
藤ヶ崎 純子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (60312021)
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Keywords | 脊髄小脳失調症 / 網膜変性 / アルツハイマー病 / 網膜色素上皮細胞 |
Research Abstract |
脊髄小脳失調症7型(SCA7)は網膜変性を合併する遺伝性神経変性疾患で、ataxin-7蛋白の変異を原因とする。SCA7における網膜変性の機序解析の為に、SCA7モデルマウスを用いた実験を行った。研究では、SCA7の原因変異タンパクであるataxin-7がアルツハイマー病の発症に関連するAmyloid precursor protein (APP)のファミリー蛋白であるAmyloid precursor like protein 2 (APLP2)に結合することから、APLP2の細胞内代謝によって網膜視細胞に加え、網膜色素上皮細胞の機能が影響される可能性を想定して解析を行っている。本年度はSCA7ノックインマウス(Sca7 266Q/5Q)、正常コントロールマウス(C57BL/6J)に加え、アルツハイマー病モデルマウス(C57BL/6-Tg(Thy1-APPswDutlowa)BWevn/J)の網膜組織の解析を行った。解析の結果、アルツハイマー病モデルマウスにおいても網膜組織内でのアミロイド前駆ファミリー蛋白APP/APLPの発現の変化が確認されたが、網膜の視細胞、色素上皮細胞での変異ataxin-7の凝集を来すSCA7とは発現の変動様式が異なっていた。アルツハイマー病においても、アミロイド前駆ファミリー蛋白APP/APLPの発現変動があるが、網膜変性を来すSCA7とは変動の様式が異なると考えられた。また、SCA7の培養細胞系を用いて、細胞核内ドメインで、RNAのスプライシングを調整するCajal小体の構成タンパクであるcoilinがataxin-7と結合することを同定した。coilinのSCA7、アルツハイマー病モデルマウスの網膜組織における発現、分布の変動についても解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の計画ではSCA7ノックインマウスとトランスサイレチン(TTR)変異マウスの二重変異マウスを作製する予定であった。SCA7ノックインマウス(Sca7 266Q/5Q)の発育不良の問題が解決せず、二重変異マウスの作製は断念する方針となったため、当初の計画より実験は遅滞している。一方で、SCA7、アルツハイマー病モデルマウスの網膜組織の検索については計画通り組織の採取を行い、それぞれの病態において、アミロイド前駆ファミリー蛋白の関与に関する検索を行うことができた。動物モデルでの実験が困難な状況となったため、培養細胞系を用いて、SCA7の病態に関与しうる新規分子の検索を行った。同定した新規分子と網膜変性の関係についての検索を開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度より、SCA7ノックインマウス(Sca7266Q/5Q )のコロニーの安定的維持を目指してきたが、当初の見込みより該当マウスの発育不良が著しく、本マウスを用いてのトランスサイレチン変異マウスとの二重変異マウスの作製は断念する方針とした。疾患対照としてアルツハイマー病モデルマウスの網膜組織の解析を開始したところ、SCA7、アルツハイマー病モデルマウスの両モデルにおいて、アミロイド前駆ファミリー蛋白APP/APLPの発現が視機能に影響を与えている可能性が示唆された為、これらの影響について組織学的な検索を進めていく。SCA7では、色素上皮細胞において、変異ataxin-7の細胞内蓄積の影響がみられることから、色素上皮細胞の機能異常がとSCA7の網膜変性の関係を調べる為に、色素上皮細胞株(ARPE-19)を用いた細胞培養系の導入し、色素上皮細胞の機能に対する影響を検討する。また、ataxin-7の結合蛋白として、新たにcoilinを同定し、変異ataxin-7とCajal小体の構成蛋白であるcoilinの結合が、細胞内のRNAの代謝の変動を引き起こすことを示唆する結果を得ている。網膜組織では、活発なRNAの代謝が行われていることから、Cajal小体の構造的異常とSCA7の網膜変性との関連についての検討を追加して行っていくこととする。以上の実験対象を用いて、SCA7および正常対照、疾患対照の網膜組織でのアミロイド前駆ファミリー蛋白APP/APLPの機能的役割、変異ataxin-7が色素上皮細胞に与える影響、網膜組織内でのCajal小体の構造異常と網膜変性との関係を平行して解析し、神経変性疾患に関連して網膜変性が生じる機序を解明していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
0実験に用いる予定であったSCA7ノックインマウスの発育不良により、検討を予定していた動物サンプルを得ることができず、研究対象とするサンプル数が予定より減少した為に残高が生じた。次年度の研究費は以下の計画に沿って使用する。 ・SCA7ノックインマウス(Sca7266Q/5Q )、疾患コントロールマウス(アルツハイマー病モデルマウス:C57BL/6-Tg(Thy1-APPSwDutIowa)BWevn/J)、正常コントロール(C57BL/6J)の網膜組織の組織学的検索を継続する。 ・SCA7の神経系培養細胞系を用いて、ataxin-7の結合蛋白であるcoilinの結合と、それが細胞内のRNA代謝に与える影響を検討する。 ・ヒト色素上皮細胞株(ARPE-19)を用いた細胞培養系を導入し、変異ataxin-7が色素上皮細胞に与える影響について検討する。 ・ 以上の実験対象を用いて、神経変性疾患に関連して生じる網膜変性に関与すると考えられる分子標的の細胞内動態について、組織学的検討、生化学的検討を行う。
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