2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23700434
|
Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
渋谷 典広 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 神経薬理研究部, 室長 (40466214)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 硫化水素 / 認知症 / 剖検脳 / アルツハイマー |
Research Abstract |
近年、生理活性物質としての硫化水素が注目されている。それにともない、臨床応用を指向した研究が活発化し、なかでも難治例の多い認知症への応用が期待されている。その一方で、高濃度の硫化水素は毒性を示すことが知られている。硫化水素による治療法を確立するためには、認知症脳における硫化水素の動態を把握することが不可欠であるが、この点については国内・国外を問わず報告されていない。本研究では、認知症患者の死後脳を用いて硫化水素の動態を解析した。 我々は既に、生体内で生産された硫化水素がタンパク質のシステイン残基と結合し過硫化型として貯蔵されることを見出している。そこで硫化水素の貯蔵量を調べるため、剖検大脳皮質を用いてアルツハイマー病脳(神経原繊維変化ステージ6、老人斑ステージC、平均年齢83.1、n=14)及び健常脳(神経原繊維変化ステージ1-2、老人斑ステージ0-A、平均年齢82.2、n=16)における過硫化状態にある硫化水素をを測定した。また、脳内における硫化水素の生産酵素及び代謝酵素を定量し、クリアランス能を評価する際の一助とした。 アルツハイマー病群及び健常群の過硫化型の硫化水素を定量した結果、両群間の差は有意ではなく、硫化水素の貯蔵量に異常は認められなかった。硫化水素の生産酵素及び代謝酵素の存在量についても両群間で有意差は認められず、アルツハイマー型認知症においては健常脳と同等のクリアランス能が維持されていると判明した。これらの結果は、硫化水素を補充することが原理的に可能であることを示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
硫化水素の認知症治療薬としての開発が期待される一方で、慢性的なクリアランス異常が脳障害を引き起こすとの報告がある。認知症に対して硫化水素を利用することの妥当性が不明瞭であり、この点を明確化することが平成23年度における目的であった。 硫化水素の生産・貯蔵・代謝に関する生化学的解析の結果から、アルツハイマー型認知症においては健常脳と同等のクリアランス能が維持されていると判明し、硫化水素を生体に補充することが原理的に可能であることが示唆された。研究計画当初は、生産酵素及び代謝酵素の活性測定を予定していたが、その後の検討から、試料の凍結・融解によって活性低下をともなう酵素が存在すると判明した。本研究では剖検組織を利用することが前提である。凍結・融解の影響を受ける酵素が存在すれば、活性を比較することでクリアランス能を評価することができなくなる。そのため酵素活性の比較は行っていないが、他のアプローチから動態解析は可能であり、現在までに硫化水素を利用した認知症の新規治療法開発を支持する結論に至っている。これらの理由から、平成23年度における目標は概ね達成されていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度における過硫化型硫化水素の定量方法では、標的タンパク質を把握することができない。そこで平成24年度は、硫化水素の標的タンパク質を同定し、新たな治療法開発の基盤構築を目指す。そのために、脳抽出液から硫化水素の標的タンパク質を回収する方法を考案した。新規法を用いて認知症脳内の過硫化タンパク質を回収し、アミノ酸配列解析装置を用いて同定作業を行う。上記の方法によって検出・同定されたタンパク質が硫化水素によって実際に過硫化されるかをin vitroで検証する。具体的には、死後脳抽出液からcDNAをクローニングし、大腸菌内で過剰発現させた後にアフィニティークロマトグラフィー法によりタンパク質を精製する。精製タンパク質に硫化水素の供与体である硫化ナトリウムを添加し、過硫化状態を高速液体クロマトグラフィー装置で検出・確認を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究を開始するために新規の機器を必要としない。ただし、研究を遂行するために、(1)剖検脳抽出液を調製するためのプラスチック器具類及び試薬類、(2)cDNAクローニング・タンパク質精製・クロマトグラフィーによる過硫化タンパク質の同定作業を行う際の生化学・分子生物学・分析化学の各種実験系において必要とされる試薬類・装置備品、(3)研究成果発表のための交通費・宿泊費、が必要である。
|
Research Products
(4 results)