2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23700434
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Research Institution | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
Principal Investigator |
渋谷 典広 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 神経薬理研究部, 室長 (40466214)
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Keywords | 硫化水素 / 剖検脳 / アルツハイマー型認知症 / L-システイン / 過硫化型 / D-システイン / DAO / 3MST |
Research Abstract |
近年、生理活性物質としての硫化水素が注目されており、それにともない臨床応用を指向した開発研究が進行しつつある。その一例として、難治例の多い認知症への応用があげられる。ただし、高濃度の硫化水素は毒性を生じるため、硫化水素を用いた治療法を確立するためには、まず第一に認知症脳における硫化水素の動態を把握することが不可欠である。そこで本研究では、認知症患者の死後脳を用いて硫化水素の動態を解析した。 硫化水素は、生体内でL-システインから生産され、タンパク質のシステイン残基と結合することで過硫化型として貯蔵される。そこで硫化水素の貯蔵量を調べるため、剖検大脳皮質を用いてアルツハイマー型変化群及び健常群における過硫化型の硫化水素を測定した。その結果、両群間の差は有意ではなく、硫化水素の貯蔵量に異常は認められなかった。一方、アルツハイマー型変化群とは背景病理の異なる老人斑優位型変化群については、アルツハイマー型変化群や健常群よりも硫化水素の貯蔵量が低下している傾向が認められた。そこで、脳内における硫化水素の生産酵素及び代謝酵素を定量したところ、代謝酵素サルファジオキシゲナーゼの存在量が増加していることが判明した。以上の結果から、老人斑優位型変化群においては硫化水素のクリアランス能が増加しているものの、硫化水素を用いた治療法の開発は原理的に可能であることが示唆された。 なお、硫化水素の生産酵素を解析する過程において、新たにL-システインのネガティブコントロールとして用いたD-システインからも硫化水素が生産されることを見出した。この新規経路では、D-アミノ酸酸化酵素(DAO)と3-メルカプトピルビン酸硫黄転移酵素(3MST)が硫化水素を生産し、脳においては小脳で最も活性が高く、脳幹でもわずかに活性が認められた。
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Research Products
(8 results)