2011 Fiscal Year Research-status Report
細胞質型チロシンホスファターゼSHP2による脳機能制御メカニズムの解明
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23700438
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
草苅 伸也 群馬大学, 生体調節研究所, 研究員 (10510901)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 蛋白質チロシンリン酸化 / チロシン脱リン酸化酵素 / 高次脳機能 |
Research Abstract |
本研究では、細胞質型チロシンホスファターゼSHP2による脳機能制御メカニズムの解明に取り組んでいる。研究代表者はこれまでの解析により、SHP2の成熟前脳神経細胞特異的な遺伝子破壊マウス(SHP2 cKO)が強い多動を示すことを見出している。マウスにおける多動の原因の一つとしてドパミン(DA)シグナルの機能亢進が知られており、SHP2 cKOマウスでは、DAシグナルが亢進している可能性が考えられた。そこで、まずドパミントランスポーター(DAT)を阻害することで細胞外のDA濃度を高めて多動を誘導するメチルフェニデートに対する感受性について検討を行ったところ、SHP2 cKOマウスではメチルフェニデートに対する感受性に異常は認められなかった。また、マイクロダイアリシスによるDAの細胞外濃度およびDAT阻害剤刺激による細胞外のDA濃度上昇を測定したところ、シナプス前部からのDA分泌において異常は認められず、さらにDA受容体の発現量についても異常は認められなかった。以上の結果から、SHP2 cKOマウスにおける多動はDAシグナルの機能亢進が原因である可能性は低いと考えられた。一方、SHP2は神経栄養因子BDNFシグナルの下流において機能することが明らかとなっており、またBDNFおよびその受容体TrkBの遺伝子改変マウスの解析から、BDNFシグナルの破綻が多動の原因となることが報告されている。そこで現在は、SHP2 cKOマウスにおけるBDNFシグナルの機能異常につき解析を進めている。また、これと並行して研究代表者はSHP2が神経活動制御に関与する可能性を明らかにしつつあり、今後はSHP2を介した神経活動制御メカニズムを解明するとともに、神経活動とマウスの活動性との関係について解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SHP2 cKOマウスの多動の原因として当初、DAシグナルの機能亢進の可能性を考えていた。その後の解析により、SHP2 cKOマウスにおけるDAシグナルは正常であり、DAシグナル破綻がSHP2 cKOマウスの多動の原因である可能性は低いことを明らかにしたが、計画で予定していたSHP2の新たな基質となる脳内チロシンリン酸化シグナル分子の同定には現在のところ至っておらず、この点については計画の達成は十分ではなかった。一方、新たな展開として現在までにSHP2 cKOマウスにおける多動の原因としてBDNFシグナルが関与している可能性と、SHP2が神経活動制御に関与する可能性を明らかにしつつある。この新たな知見はSHP2による脳機能制御メカニズムを解明する上で大変重要であると考え、計画の一部を変更してこれらの解析を優先させた。以上より、一部計画の変更はあるものの全体としてはおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、SHP2 cKOマウスにおけるBDNFシグナルの機能異常の有無について解析を行う。個体レベルでBDNFの下流シグナルの活性化状態を検討するとともに、野生型およびSHP2 cKO由来の培養神経細胞を用いて、BDNF刺激に対する応答性の差異について検討する。同様の細胞を用いて、神経活動性の違いについても検討する。さらに、siRNAやドミナントネガティブ変異体などを用いて、SHP2によるBDNF応答性や神経活動性の制御メカニズムを分子レベルで解析する。これと並行して、Creリコンビナーゼ発現ウィルスを個体レベルで用い、脳の領域・時期特異的にSHP2をKOしたマウスを作製し、多動に関連する脳領域を詳細に解析する。その結果に基づき、さらに領域を絞った解析として展開する。これにより、SHP2 cKOマウスにおける多動の分子機構を明らかにし、成熟脳におけるチロシンホスファターゼの新たな機能とその制御メカニズムの解明を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、SHP2がBDNFシグナルや神経活動制御に関与する可能性について新しい発見があった。そこで、当初の研究計画について修正を行い、さらに次年度以降の新しい展開へ向けて、予備実験およびレンチウイルスなどの新たな解析に使用するツール作製などを中心とした研究を行った。そのため当該年度の研究費の使用計画についても変更が必要となり、次年度以降に繰り越して使用する研究費が生じた。これらについては、次年度請求する研究費とあわせて、次年度においてSHP2による神経活動制御メカニズムやBDNFシグナルの制御メカニズムを明らかにする上で必要とされる設備備品費(PCR装置)、消耗品費(試薬、器具、実験動物購入等)、旅費等に使用する予定である。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] Hypothermia-induced tyrosine phosphorylation of SIRPα in the brain2012
Author(s)
Toshi Maruyama, Shinya Kusakari, Miho Sato-Hashimoto, Yuriko Hayashi, Takenori Kotani, Yoji Murata, Hideki Okazawa, Per-Arne Oldenborg, Shoji Kishi, Takashi Matozaki, Hiroshi Ohnishi
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Journal Title
Journal of Neurochemistry
Volume: 121巻
Pages: 891-902
DOI
Peer Reviewed
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