2012 Fiscal Year Research-status Report
細胞質型チロシンホスファターゼSHP2による脳機能制御メカニズムの解明
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23700438
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
草苅 伸也 群馬大学, 生体調節研究所, 研究員 (10510901)
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Keywords | 蛋白質チロシンリン酸化 / チロシン脱リン酸化酵素 / 高次脳機能 |
Research Abstract |
本研究では、細胞質型チロシンホスファターゼSHP2による脳機能制御メカニズムの解明に取り組んでいる。研究代表者は、これまでの解析により、SHP2の成熟前脳神経細胞特異的な遺伝子破壊マウス(SHP2 cKO)が強い多動を示すことを見出している。これまでの研究から、SHP2は神経栄養因子BDNFシグナルの下流において機能することが明らかとなっており、またBDNFおよびその受容体TrkBの遺伝子改変マウスの解析から、BDNFシグナルの破綻が多動の原因となる可能性が示唆されている。そこで、SHP2 cKOマウスにおけるBDNFシグナルの機能異常について解析を行った。まず、SHP2に対するsiRNAを発現するレンチウイルスと培養神経細胞を用いて、SHP2ノックダウン神経細胞におけるBDNF刺激に対する応答性について検討した結果、SHP2ノックダウン神経細胞では、コントロール細胞に比べBDNF刺激に対する応答性の低下が認められた。さらに、SHP2 cKOマウスの脳においてBDNFの下流シグナルであるMAPKの活性化状態の低下が認められた。これらの結果から、SHP2 cKOマウスにおける多動の原因の一つとしてBDNFシグナル異常の可能性が考えられた。 また、これと並行してSHP2の神経活動制御への関与について検討したところ、SHP2 cKOマウスにおける神経活動性の異常を見出した。さらに現在、SHP2 cKOマウスにおける記憶・学習の検討に取り組み、SHP2が記憶・学習の制御に関与する可能性を見出しつつある。今後はSHP2の記憶・学習制御への関与を明らかにするとともに、SHP2 を介した神経活動制御メカニズムの解明に取り組む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SHP2 cKOマウスの多動の原因としてBDNFシグナル異常が関わる可能性を新たに見出した。しかしながら、計画で予定していたSHP2の新たな基質となる脳内チロシンリン酸化シグナル分子の同定には現在のところ至っておらず、この点については計画の達成は十分ではなかった。一方、新たな展開として、現在までにSHP2が神経活動や記憶・学習の制御に関与する可能性を明らかにしつつある。この新たな知見は、SHP2による脳機能制御メカニズムを解明する上で大変重要であると考え、計画の一部を変更して、これらの解析を優先させた。以上より、一部計画の変更はあるものの全体としてはおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、SHP2を介した神経活動制御メカニズムを明らかにする。現在までに、研究代表者はSHP2 cKOマウスにおいて複数の分子のチロシンリン酸化レベルが亢進していることを見出している。これらの分子がSHP2を介した神経活動制御に深く関わることが予想される。そこで、これらのチロシンリン酸化分子を同定し、神経活動制御との関連について検討する。さらに、共同研究により、SHP2 cKOマウスにおける神経活動性について電気生理学的解析を用いて詳細な検討を進める。これらの結果から、SHP2を介した神経活動制御メカニズムを明らかにする。 これと並行して、SHP2を介した記憶・学習制御について詳細な検討を行う。記憶は空間記憶や参照記憶など、性質によって分類がなされ、これらの記憶は獲得、固定、呼び出し、再固定などのプロセスによって形成されると考えられている。そこで、水迷路や恐怖条件付けテストなどの記憶・学習実験を組合せることで、SHP2がどのような記憶制御に関与するのかを明らかにするとともに、SHP2が記憶形成のどのプロセスに重要か詳細に検討する。 これにより、成熟脳におけるチロシンホスファターゼSHP2の新たな機能とその制御メカニズムの解明を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、SHP2が神経活動や記憶・学習の制御に関与する可能性について新しい発見があり、当初の研究計画について修正を行った。そのため当該年度の研究費の使用計画についても変更が必要となり、次年度に繰り越して使用する研究費が生じた。これらについては、次年度においてSHP2を介した神経活動および記憶・学習の制御メカニズムを明らかにする上で必要とされる消耗品費(試薬、器具、実験動物購入等)、旅費等に使用する予定である。
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Research Products
(9 results)
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[Journal Article] Hypothermia-dependent and -independent effects of forced swim on the phosphorylation states of signaling molecules in mouse hippocampus2012
Author(s)
Yuriko Hayashi, Shinya Kusakari, Miho Sato-Hashimoto, Eriko Urano, Masahiro Shigeno, Tsuneo Sekijima, Takenori Kotani, Yoji Murata, Hirokazu Murakami, Takashi Matozaki, Hiroshi Ohnishi
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Journal Title
Biochemical and Biophysical Research Communications
Volume: 428巻
Pages: 475-481
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Hypothermia-induced tyrosine phosphorylation of SIRPα in the brain2012
Author(s)
Toshi Maruyama, Shinya Kusakari, Miho Sato-Hashimoto, Yuriko Hayashi, Takenori Kotani, Yoji Murata, Hideki Okazawa, Per-Arne Oldenborg, Shoji Kishi, Takashi Matozaki, Hiroshi Ohnishi
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Journal Title
Journal of Neurochemistry
Volume: 121巻
Pages: 891-902
DOI
Peer Reviewed
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