2012 Fiscal Year Research-status Report
活動電位と起動電位の動的関係に基づく味物質濃度検出機構
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23700469
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
大坪 義孝 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 准教授 (00380725)
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Keywords | 味蕾細胞 / 活動電位 / 電位依存性チャネル / パッチクランプ法 / single cell RT-PCR / 免疫染色 |
Research Abstract |
味物質受容細胞である味蕾細胞は、活動電位の繰り返し発火が困難な細胞であることを私は発見した(Ohtubo, 2009)。本研究では、味蕾細胞が味の濃淡をどのような生体信号に変換しているのか?活動電位と起動電位に注目し、味物質濃度検出機構を解明することを目的としている。 24年度以降の実施計画は、活動電位の上昇相と下降相を形成するイオンチャネルと細胞型との関係を解明すること、味物質と電気的応答の関連性を調べることである。まず、活動電位の下降相形成に関与するイオンチャネルの種類について、分子生物学的手法で調べた。味蕾細胞は、I型~IV型の4種類の細胞型に分類され、特に、II型およびIII型細胞が、味情報検出に重要な役割を担っている。活動電位下降相の電気生理学的特徴は、細胞型毎に異なることから、本研究ではII型細胞に注目し、その遺伝子発現についてRT-PCR法で調べた。II型細胞の下降相に関与するイオンチャネルは、薬理学的および電気生理学的性質からヘミチャネルと考えられている。ヘミチャネル形成に関与するコネキシン遺伝子19種類について調べ、味蕾細胞に数種類のサブタイプが発現することを明らかにした。次に、味蕾細胞にSingle cell RT-PCR法を適用し、電位依存性Naチャネル遺伝子発現の細胞型依存性を明らかにした。II型およびIII型細胞に主として発現するサブタイプは、I型細胞の主発現サブタイプとは異なること、III型細胞に発現するサブタイプの特徴は電気生理学的に測定した特徴と似ていることを明らかにした。また、味物質と電気的味応答の関連性に関する研究では、穿孔パッチクランプ法(パッチ膜にイオン透過性の高い小孔を形成し、電気応答を測定する方法)を味蕾細胞に適用する為の条件について検討し、記録電極の電極抵抗、使用する酵素、処理時間など適切な条件を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度以降の実施計画では、1. 活動電位の下降相を形成する電位依存性チャネルの同定、2. 活動電位の上昇相および下降相を形成するイオンチャネルサブタイプと細胞型との関連性解明(Single cell RT-PCR法による解析)、3. 味物質濃度と活動電位および起動電位の関係を調べることを目的としていた。1. に関しては、II型細胞に注目して、サブタイプ同定を行った。II型細胞の下降相はテトラエチルアンモニウム非感受性のイオンチャネルが形成し、電気生理学的性質および薬理学的研究からヘミチャネルによる形成が示唆されている。ヘミチャネル形成に関与するコネキシン遺伝子(マウスでは20種類の遺伝子)うち19種類のサブタイプの発現について調べ、数種類のサブタイプが発現していることを明らかにした。また、他のヘミチャネル形成蛋白質であるパネキシンの遺伝子サブタイプPx1が発現していることも確認した。2. に関しては、上昇相を形成する電位依存性NaチャネルについてSingle cell RT-PCR法を適用し、細胞型と遺伝子サブタイプの関係を明らかにした。I型細胞には主に特定のチャンネルサブタイプ、II型およびIII型細胞は主としてI型細胞とは異なるチャネルサブタイプを発現していた。また、III型細胞に発現する遺伝子サブタイプの特徴は、電気生理学的に得られた特徴と似た傾向を示した。これらの成果の一部は、国際学会で発表し、現在投稿準備中である。3. については、味刺激に対する電気的味応答を測定できていない。細胞内環境を維持した穿孔パッチクランプ法の条件設定(パッチ電極の大きさや酵素濃度など)に時間を要したためである。しかし、現在は最適な条件を見出したので、今後、順調に遂行することが期待できる。全体的におおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度の研究目的達成度がおおむね順調に進展しているので、当初の研究計画に従って引き続き研究を推進する。25年度は、味物質濃度と活動電位(活動電流)および起動電位の関係を調べる。ホールセルハッチクランプ法に比べ細胞内のイオン環境を生理的条件に近い状態に保つことができる穿孔パッチクランプ法を用いて、味刺激によって生じる活動電位の発火頻度および起動電位の変化を測定する。味物質濃度を変化させることで、電気的応答がどのように変化するのか明らかにする。これまでの結果から、味蕾細胞には電位依存性Na電流が小さいあるいはほとんどない細胞も存在することが明らかとなっている。これらの細胞にパッチを適用した場合は、活動電位の発火が困難と考えられるので、味刺激実験を行わず、実験効率を上げるように工夫する。また、穿孔パッチクランプ法が味刺激終了まで保持できているのかを確認するために、記録電極に蛍光色素を導入し、色素の拡散を味刺激終了後測定する。電気測定終了後、穿孔パッチクランプ法からホールセルハッチクランプ法に移行し、細胞内にマーカー分子を導入する。この標本に対して免疫染色法を適用し、測定した細胞の細胞型を同定する。また、細胞内環境を保持した状態で測定するcell-attached法で同様の実験を行い、味物質濃度変化に対応し、活動電流の発火頻度がどのように変化するのかを解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
単一細胞からのRT-PCR法は同一細胞から多種類の遺伝子増幅が可能である。従って、同定する遺伝子の種類が多い場合、遺伝子増幅装置が複数台必要となることもある。本研究結果から、活動電位の形成に関与する遺伝子サブタイプの種類が予想より少なかったので、予定していた遺伝子増幅装置を購入せず、既存の遺伝子増幅装置で研究が遂行できた。この分が未使用額として発生した。25年度の実施計画では、味物質刺激による電気的応答測定を行うので、穿孔パッチクランプ法に必要な酵素類および蛍光色素類、また記録電極などのガラス器具およびプラスティック器具の購入を予定している。測定した細胞を同定するために必要な一次抗体および二次抗体、各種生理的塩類溶液などを購入予定である。24年度未使用額は、蛍光色素や抗体類など高額な試薬購入費に充てる。また、24年度の研究成果を国際発表するための旅費および国際誌への学術論文投稿に必要な経費(論文校正費、投稿料、カラー掲載料など)を要する。
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