2011 Fiscal Year Research-status Report
筋衛星細胞自己複製機構の解明およびRNA干渉による筋衛星細胞自己複製促進法の開発
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23700484
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長田 洋輔 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (50401211)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 骨格筋 / 再生 / 筋衛星細胞 / 幹細胞 / 自己複製 / Ras / ラミニン / プロテインキナーゼC |
Research Abstract |
骨格筋の修復や再生は,骨格筋幹細胞である筋衛星細胞によって行われる.筋衛星細胞は厳密な制御機構によってその数が維持されていると考えられているが,その分子機構は不明である.本研究では主に低分子量Gタンパク質Rasとそのエフェクタータンパク質に注目して筋衛星細胞の自己複製に関与する因子を探索するとともに,自己複製の抑制性制御因子をRNA干渉によって機能阻害することで生体内の筋衛星細胞を増加させる方法の開発を目指す.平成23年度には,マウス筋衛星細胞由来の細胞株C2C12の培養によって生じるリザーブ細胞を休眠状態の筋衛星細胞のモデルとして使用し,アダプタータンパク質Grb2およびその下流に位置する低分子量Gタンパク質Rasの機能阻害がリザーブ細胞形成に与える影響を検討した.RasサブファミリーにはH-Ras,K-Ras,N-Rasをはじめとするさまざまなメンバーが含まれるため,それぞれについてRNA干渉による発現抑制を行った.発現抑制はウェスタンブロットによって確認し,リザーブ細胞は抗アポトーシスタンパク質Bcl-2を発現し,筋分化制御因子であるMyoDを発現しない細胞として同定した.その結果,H-Ras,K-Ras,N-Rasを単独でノックダウンした場合にはリザーブ細胞数の顕著な減少は起こらなかった.これは別のアイソフォームのRasが代償的に働いたために生じた結果である可能性が考えられるため,平成24年度には2種類あるいは3種類の同時ノックダウンを行う予定である.また,リザーブ細胞形成に関与するタンパク質を探索する過程で,プロテインキナーゼC阻害剤Go6976によってリザーブ細胞形成が抑制されること,プロテインキナーゼCを活性化するホルボールエステルによってリザーブ細胞形成が促進されることを明らかにし,プロテインキナーゼCがリザーブ細胞形成を正に制御する可能性を見いだした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Grb2ノックダウンおよびファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤によってリザーブ細胞形成が著しく抑制されることから,配列特異的なsiRNAを用いたRasノックダウンによりリザーブ細胞形成が抑制されると予想し,H-Ras,N-Ras,K-Rasのノックダウンを行った.しかし,いずれのアイソフォームをノックダウンした場合にも期待したような結果は得られなかった.これはあるRasアイソフォームを単独でノックダウンした場合には別のアイソフォームが代償的に作用したためと考えている.そこで平成24年度には2重あるいは3重ノックダウンを行うことでこの問題を解決することを計画している.なお,本実験を遂行する過程で,C2C12細胞へのsiRNA導入効率の変動が安定した実験結果の取得を困難にしていると判明したため,体系的な条件検討を行い,安定的に高効率のノックダウンを実現するための条件を確立した.今後は迅速な進展が期待できる.当初は,ノックダウン実験によりリザーブ細胞形成に関与するRasアイソフォームを明らかにした後に,Ras遺伝子の強制発現を行う計画であったため,遺伝子導入実験については平成24年度に実施することとした.なお,当研究室ではこれまでに遺伝子導入実験を行っていなかったが,平成23年度には必要な機器や試薬を調達し,基本的な条件検討を完了することができた.平成24年にはH-Ras,N-Ras,K-Rasそれぞれの強制発現を行ない,ノックダウンと同時進行でリザーブ細胞形成に関与するRasアイソフォームを同定することとした.当初の計画に比べやや後れを取ってしまったものの,同時に進めていた実験によってプロテインキナーゼCおよび細胞外基質ラミニンがリザーブ細胞形成に対して促進的に働くという結果を得ることができた.今後はそれぞれの情報伝達系について調べていくことで大きく進展すると期待している.
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Strategy for Future Research Activity |
リザーブ細胞形成に関与するRasタンパク質アイソフォームを明らかにするために,H-Ras,N-Ras,K-Rasの2重あるいは3重ノックダウンを行うとともに,それぞれのRasアイソフォームの強制発現を行い,リザーブ細胞形成への影響を調べる.リザーブ細胞形成に対する影響が確認された場合にはDNAマイクロアレイによって関与する候補遺伝子を網羅的に探索する.活性型Rasの下流ではRaf,PI3K,RalGDSなどさまざまなエフェクタータンパク質が活性化されるため,リザーブ細胞形成に関与するRasタンパク質の下流で働くエフェクタータンパク質を探索する.このためには,特異的な阻害剤あるいはsiRNAを用いた機能阻害を体系的に行い,リザーブ細胞の増減を調べる.特に,Rasタンパク質の抑制性制御因子に注目し,骨格筋初代培養および単一筋線維培養での阻害実験を行い,筋衛星細胞の自己複製に対する影響を明らかにする.in vitroで得られた結果をin vivoで検証するために,マウス骨格筋内でRNA干渉を行い筋衛星細胞自己複製への影響を調べる.このために,まずMyoDを対象とするRNA干渉をin vivoで実現するための条件検討を行う.実験条件が確立でき次第,筋衛星細胞自己複製の抑制性制御因子の機能阻害を行う.siRNA導入から適切な時間が経過した後に骨格筋から単一筋線維を単離し,筋衛星細胞の増減を調べる.筋衛星細胞数の増加が確認できた場合には,カルジオトキシン投与による筋損傷を引き起こし,筋衛星細胞増加による筋再生効率への影響を調べる.筋衛星細胞数の減少が,進行性の筋疾患や加齢に伴う筋再生能の低下に大きな影響を与えることから,筋衛星細胞数の人工的な増加がもたらす中長期的な筋再生能への効果を明らかにし,応用面での有用性を示したい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度はほぼ交付申請額通りの金額を使用したものの,130円を繰り越した.差額についてはわずかな額であったため物品の購入等はせず,基金化されたことのメリットを活かして平成24年度に活用することにした.以下に述べる研究遂行に必要な試薬購入の物品費として使用する.本研究において探索するリザーブ細胞形成促進性制御因子は筋分化を抑制する可能性が高いため,遺伝子発現を人工的に制御できる発現誘導システムを用いるのが適切である.そこで,テトラサイクリン系抗生物質の添加によって遺伝子発現を制御するTet-ONシステムあるいはTet-OFFシステムを構築することを計画している.その際に必要となるテトラサイクリン制御性トランス活性化因子発現ベクター,テトラサイクリン応答因子発現ベクター,テトラサイクリン系抗生物質ドキシサイクリン,細胞培養に必要となるその他の試薬を購入する.平成24年度にはsiRNAを用いた骨格筋に対するin vivoでのノックダウンを行うための条件検討を行う.その際に必要となるトランスフェクション試薬または先行研究において有用性が示されているアテロコラーゲン,in vivo用途に最適化された修飾siRNA等の試薬,マウス飼育用の餌等を購入する.平成24年8月にイタリア共和国ルッカで開催される2012 FASEB Science Research Conferences, Skeletal Muscle Satellite & Stem Cellsにて研究発表を行う予定である.また,平成24年9月に大阪で開催される日本動物学会第83回大会においても発表を行う予定であるため,いずれかの学会参加に要する旅費等として使用する.
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