2011 Fiscal Year Research-status Report
光散乱を用いた脳組織バイアビリティーの診断・イメージング法に関する研究
Project/Area Number |
23700497
|
Research Institution | National Defense Medical College |
Principal Investigator |
川内 聡子 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 防衛医学研究センター, 助教 (20506505)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 脳組織バイアビリティー / 光散乱 / 虚血性脱分極 |
Research Abstract |
1-1 光散乱変化のメカニズムの解明(深さ分解光散乱計測による信号源の特定) ラット脳低酸素モデルにおいて観測された脳組織救済のためのクリティカルタイムゾーンに一致した三相性光散乱変化(triphasic scattering change: TSC)の信号源を明らかにするため,拡散反射光計測用の光ファイバー間隔を1.0,2.0,3.0 mmと変化させ,計測最大深度がそれぞれ0.5,1.5,2.0 mm(計測領域がそれぞれ大脳皮質のI-III層,I-IVないしV層,I-VないしVI層に相当)となるようにして計測を行った。その結果,ファイバー間隔が1.0 mmの条件ではTSCが見られなかったのに対して,ファイバー間隔を2.0 mmまたは3.0 mmとするとTSCが観測されることが分かった。このことは,上記のTSCが大脳皮質の比較的深部の領域(V層ないしVI層)の細胞の形態変化に由来することを示している。さらに同時間帯において皮質の浅い領域に見られる散乱変化(単調増加)は,深部に由来するTSCの開始よりも有意に遅かった。このことは,皮質深部の光散乱変化が脳組織バイアビリティー低下の早期のアラームとして有用であること示している。このような散乱変化の深さ依存性は,大脳皮質の各層の形態および細胞の低酸素・虚血に対する脆弱性の違いよるものと推察される。1-2 光散乱変化と血管の健全性と組織可逆性の関係解明 上記TSCの発生と血管の健全性との関係にいて調べるため,ラット脳低酸素モデルを対象に,脳血液量を反映するヘモグロビンの吸収波長569 nmの拡散反射光と光散乱信号(波長800 nmの拡散反射光)を同時計測した。その結果,脳を救済できなかったラットではTSCの発生にほぼ同期して血液量の減少を示す信号変化が見られ,収縮性の血管変化が脳組織バイアビリティーに関与している可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始時点で研究環境(設備,装置,動物モデル,研究体制等)が整っていたことに加えて,先行研究で得た知見が活かせたこと,また実験結果がおおむね当初の予想通りとなったことが要因と考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
脳梗塞においては,梗塞壊死に至った梗塞中心部の周辺に,ペナンブラ領域と呼ばれるまだ細胞が壊死に至っていない救済可能な領域がある。昨年度行った脳低酸素モデルを対象とした研究は,梗塞中心部のバイアビリティーモニタリングの観点から行ったものでり,平成24年度は当初の計画通り,動物モデルを局所脳梗塞モデルに変え,梗塞中心部とペナンブラ領域の光散乱イメージングを目指して研究を行う。局所脳梗塞モデルは共同研究者の脳外科医の協力のもと短期間で習得できる見込みである。光散乱イメージングは昨年度までに装置,方法とも確立しており準備が整っている。動物モデルを対象に梗塞中心部およびペナンブラ領域のイメージングに成功したら,臨床応用のための課題抽出に取り組む予定である。以下に研究内容の詳細につき述べる。 最近の知見により,ペナンブラ領域では,梗塞層周辺脱分極の発生により組織のエネルギーが大量に消費され,これが梗塞層の拡大に関与していると考えられている。この梗塞層周辺脱分極は激しい細胞の形態変化を伴うことから,散乱変化として検出でき梗塞層が拡大する様子がイメージングできると考えられる。一方,我々は一連の先行研究により脳組織は不可逆的壊死に至ると光散乱が増加することを明らかにした。これらより局所脳虚血モデルでは,梗塞層は散乱増加領域として描出され,ペナンブラ領域は血流量は減少しているが散乱変化がないか,梗塞層周辺脱分極により特徴的な散乱変化が観察される,正常領域は血流量は維持され散乱変化はない領域として描出されると予想される。この仮説を確かめるため,中大脳動脈閉塞後の組織評価を行い,各領域の光散乱変化と組織バイアビリティーとの関係を明らかにし,光散乱によるペナンブラ領域のイメージングの可能性につき検討を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費は,イメージングの性能強化のためハードウェア,ソフトウェアの購入を中心に考えており,その他動物実験に必要な装置類(バイタルサインモニター,シリンジポンプ等),マルチスペクトルイメージングのための光学部品等への使用を予定している。目標達成に必要な実験規模はラット80匹を見込んでいる。その動物費に加えて,実験に必要な外科処置用品,試薬,標本作製費への使用も計画している。装置,物品関係は1/4半期中に揃える予定である。消耗品類は年間を通じて購入の見込みである。 旅費には国内・国際学会での成果発表を行うため昨年と同額の使用を予定している。主要な国内学会は5月(日本生体医工学会大会,福岡)と11月(日本レーザー医学会総会,大阪),国際学会は9月(応用物理学会における国際シンポジウム,松山)と2013年2月(SPIE Photonics West BiOS 2013,米国サンフランシスコ)を予定している。論文発表は前期,後期にそれぞれ1件ずつを目標としており,必要な英文校正,論文掲載料にも使用する計画である。
|