2011 Fiscal Year Research-status Report
情動が報酬獲得行動に及ぼす作用の単一ニューロン活動基盤
Project/Area Number |
23700501
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
水挽 貴至 筑波大学, 医学医療系, 助教 (60463824)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 島皮質 / 情動 / サル / 報酬 / 動機付け / 身体覚醒度 |
Research Abstract |
情動に関するニューロン活動が島皮質に存在するか否かの検証が、本研究の目的である。多試行報酬スケジュール課題を遂行中に記録した、サル島皮質の131個の単一ニューロン活動に対して、それら記録ニューロン全ての総合的な反応特性について解析を行った。その結果、反応するニューロン数は、報酬イベントに向かって顕著に増大していた。また、報酬試行と無報酬試行を弁別可能なニューロン数も、同様に増大していた。この結果は、salientな事象(本課題においては報酬イベント)が差し迫っているときに、身体覚醒度の変化に伴う内的知覚の変調に応じ、島皮質が活動するという、近年の仮説に合致するものであった。本研究は、この仮説に合致する所見を、単一ニューロンレベルで得ることができたとも考えられる。また、多試行報酬スケジュール課題を遂行中の、サルの正答率と身体覚醒度の相関を検証した。身体覚醒度は情動表出の身体的側面を構成するとされる。身体覚醒度を表す指標として、従来にならい、本研究でも心拍数を用いた。島皮質は内的知覚の表象に与るとされることから、当初の予想では、試行最後の報酬に向かって増大する島皮質ニューロン活動と、心拍数の変動とが相関するのではないかと考えた。しかし試行内で報酬イベントに向かって心拍数が変動する様子は認めなかった。一方、試行の成功率の推移と心拍数の変化は完全に逆相関していた。このことから、当初の予想とは異なるものの、報酬獲得行動の動機付けの程度を、身体覚醒度から推定することが可能であることが分かった。情動は報酬に直面した際に喚起される一過性の心身の反応であり、報酬への接近行動を伴う。動機付けは行動誘発を促進する因子で、情動と不可分な心的機能である。我々は初めて、報酬と情動の関係を、動機付けという側面からの評価に成功し、霊長類を用いた情動反応記録実験が、展開・発展可能であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標は概ね達成できた。ニューロン活動記録についてはJournal of Neurophysiology誌に掲載が決定した。しかしニューロン活動と身体覚醒度の直接的な関係性の確認には至らなかった。当初は、試行内で身体覚醒度が変動すると推測しており、これを確認するために実験系を最適化していた。しかし実際には試行内の変動は顕著ではなく、複数の試行にまたがる(数分から1時間におよぶ)長時間の変動が行動とよく相関していることが明らかになった。このこと自体は思わぬ成果であったものの、当初の仮説に基づいて、ニューロン活動記録と身体覚醒度の変化との因果関係を、多試行報酬スケジュール課題を用いて確認することはむしろ困難となった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、課題の調整を行う。今後は、島皮質のニューロン活動と身体覚醒度のより直接的な関係性を確認できることを目標とする。これまでは、多試行報酬スケジュール課題を用いて、報酬までの作業負荷を様々に変更しながら、身体覚醒度への影響を評価する、というパラダイムに基づいて実験を行った。今後はむしろ、多試行ではなくより単純な単一試行の報酬獲得課題をサル自身のペースで自由に行わせ、時間軸上での成功密度関数の変動と、ニューロンの発火頻度の推移との相関関係を、検証する方策とした。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
繰越額が生じた状況:一身上の理由(妻・娘が相次いで入院したため)により、学会出張を断念した。このため、学会参加費として予定していた額のうち25万円が繰越額として残った。繰越額と請求する研究費と合わせた使用計画:海外英文誌に論文が受理されたため、昨年度の繰越額をこの掲載料に充当することとする。3月に掲載受理、4月に校閲作業、出版は近日中の予定である。このため5月以降に掲載料25万円を支払う予定である。また今年度請求分については、調整を行った課題での追加実験を行うため、2頭目のアカゲザル一式の購入のため60万円を、国内学会への出張のため15万円を、残余の額を物品費として予定している。
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