2011 Fiscal Year Research-status Report
異種間4倍体補完法を利用した多能性幹細胞からの個体作製法の確立
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23700507
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 俊寛 東京大学, 医科学研究所, 客員研究員 (20587414)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 多能性幹細胞 / 4倍体胞補完法 / マウス / ラット / 異種間キメラ |
Research Abstract |
申請者はマウス、ラットそれぞれに由来する多能性幹細胞を互いの胚盤胞に注入したとき、マウス-ラット異種間キメラを作製できることを見出した。そこで本研究ではその知見をさらに深め、マウス-ラット間における異種間 4倍体補完法により、異種の胚体外組織を利用して完全に多能性幹細胞由来の組織からなる個体を作製することを目的とした。まずはじめの段階として、4倍体補完法により異種の多能性幹細胞由来の胚が発生段階のどのステージまで発生可能かを明らかにするため、ラット多能性幹細胞をマウス4倍体胚に、マウス多能性幹細胞をラット4倍体胚に注入し、仮親子宮へ移植した後、胎児期での解析を行った。その結果、少なくともラット多能性幹細胞由来の胎児は胎生 9.5 日目程度、マウス多能性幹細胞由来の胎児は胎生 14.5 日目程度までは異種の環境下においても発生可能であることが明らかになった。フローサイトメーターや PCR を用いた解析により、それらの胚が完全に注入された多能性幹細胞由来の個体であることが明らかにされ、また組織学的な解析において形態的にも3胚葉由来の組織を有したほぼ正常な胚であることが判った。 このように異種個体内で多能性幹細胞由来の胚発生が可能であれば、受精卵および胚の採取が困難で、発生学的な解析が困難な動物種を汎用な実験動物の体内を用いて容易に解析できることが可能となり、今年度の研究実績による成果はその最初の一歩となり得る。 個体のサイズに関しては大きさだけを見るとラット多能性幹細胞由来のものであればラット胚、マウス多能性幹細胞由来のものであればマウス胚の大きさに近いが、発生学的特徴を元にした詳細な解析が今後必要であると思われる。また両者ともに胎生中期以降の発生は認められなかったことから、次年度はそのステージを乗り越え発生するために何が必要か明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の1年目にあたる平成 23 年度は (1) 4倍体補完法の確立と多能性幹細胞株の樹立 (2) 多能性幹細胞に由来する胚の異種環境での発生能評価 の2 点を研究目標として掲げていた。 研究計画開始以前の予備データから、マウス、ラットそれぞれに由来する多能性幹細胞を互いの胚盤胞に注入して作製する異種間キメラにおいても、異種の多能性幹細胞の寄与が高すぎると発生の停止を示すという結果が得られており、完全に異種の細胞だけという4倍体補完の状況ではその発生の困難が予想された。実際に研究開始当初は、胎児がなかなか得られなかったが、生殖系列へも寄与可能な質のよい多能性幹細胞を用いることで、両者において完全に多能性幹細胞由来の胎児を得ることが可能になった。 また申請当時はラットの4倍体補完法の報告は少なく、実験系として確立されたとは言い難い状況であったが、生理学研究所の平林真澄准教授との共同研究により内部細胞塊であれば4倍体補完法で正常なラット個体を得ることが可能になり (Hirabayashi et al., Mol. Reprod.Dev. in press (2012))、実験系として確立できたことも上記の結果を得る上で非常に重要であった。 発生能の評価として、胚移植後、発生段階を追って解析することで、各段階でどの程度の発生率を示すかが明らかになり、その結果、実績の概要にも示したような現段階での発生の限界が判ったことから、今年度に掲げた目的を達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は研究目標に掲げた2点を概ね達成できたことから、当初の研究計画通り、次年度は (1) 個体サイズや組織の正常性の評価 および(2) 胚発生の停止が認められた場合、その原因を明らかにする という目標を達成するべく研究を推進したい。 (1) の組織の正常性は現時点の発生中期ではすでにほぼ正常であることが組織学的な解析から明らかになっているため、個体のサイズや発生段階の特徴にフォーカスし、実際に異種個体内で発生した胚が、本来の種が持つ内在的な発生速度もしくは異種となる環境側の影響のどちらを受けて発生しているのかを形態的な特徴や遺伝子発現等から明らかにしたい。また (2) で掲げたように実際に現在では胚発生の停止が認められることからその原因を明らかにするための研究も行いたい。4倍体補完に用いる胚自体は、マウスおよびラットの両者において同種の多能性幹細胞もしくは内部細胞塊を個体として発生させる能力を持っていることから、発生の停止を起こす原因は用いる多能性幹細胞もしくは多能性幹細胞と胚体外組織の異種間における相互作用にあると思われる。そこで前者を解決するためには今まで樹立してきた多能性幹細胞の遺伝子プロファイル解析による質の良い細胞特異的な指標の探索を行いたい。また後者には胚発生停止胚の組織学的解析から具体的にどのような組織、臓器に欠陥があるかを明らかにし、より発生を進ませるための手掛かりとしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度も今年度に引き続き、分子生物学的実験および個体組織解析のための試薬・酵素・抗体等の消耗品、各種細胞培養のための培地・血清・器具といった消耗品、胚操作にかかる培地と操作用ピペット作製にかかる消耗品、さらにはマウス、ラットといった実験動物の購入から繁殖・維持のための諸経費を使用する予定である。特に【今後の研究の推進方策】にも挙げたように多能性幹細胞や発生途中の胚の遺伝子発現解析など分子生物学的手法を用いる機会が多くなることが予想されるため、そのための研究費も多く使用されることが予想される。 また今年度に得られた成果を学会で報告するために旅費としても使用する予定である。
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[Journal Article] Generation of germline-competent rat induced pluripotent stem cells.2011
Author(s)
Hamanaka S, Yamaguchi T, Kobayashi T, Kato-Itoh M, Yamazaki S, Sato H, Umino A, Wakiyama Y, Arai M, Sanbo M, Hirabayashi M, Nakauchi H.
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Journal Title
PLoS One
Volume: 6(7)
Pages: e22008
DOI
Peer Reviewed
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