2012 Fiscal Year Research-status Report
熱流体解析による補助循環システムの血液適合性評価法の提案
Project/Area Number |
23700540
|
Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
矢野 哲也 秋田県立大学, システム科学技術学部, 助教 (70404853)
|
Keywords | 人工心臓 / 血液ポンプ / 血流 / 溶血 / 血栓 / 数値流体解析 |
Research Abstract |
本研究では,補助循環システムの血液適合性評価に向けて,実使用環境を想定した血流動態解析および血球損傷度を評価する新たな方法について検討した. 心室内血流解析:計算機上に左心室内腔形状をモデルリングし,連続流補助循環装置による拍出補助下の心室内血流の数値解析を行い,脱血管配置が血流動態に与える影響を調べた.脱血管を内壁にほぼ平行に配置したとき,心室内壁に沿う流れが誘起され,脱血管の挿入基部付近を含む領域の洗い流し効果向上が期待されることが示された.また,計算手法の改善として,重合メッシュの使用について検討した.心室内腔モデル(流体領域)と脱血管モデル(固体領域)とを別個にメッシュ生成した後に,両メッシュを重ね合わせ,固体領域内に含まれる流体を静止させるように生成項を付加して流体解析を行ったところ,従来の心室・脱血管統合モデルを用いた解析と同様の結果が得られ,解析方法の妥当性が確認された.これにより,脱血管形状の変更,挿入方向,深度の変更の度毎のメッシュ生成が不要となり,大幅な省力化が達成される. 血球損傷度評価法:これまでの溶血試験法では,膜破断による血球崩壊のみを扱っており,崩壊前の損傷赤血球を評価対象としていない.また,動物血を使用しているため,試験結果がその血液の初期性状に依存してしまう.そこで,血球の性状,損傷度を光学的に簡便に評価する方法について検討した.極微量の血液を生理食塩水で希釈した試料に同量の蒸留水を加えて浸透圧溶血を引き起こし,このときの試料溶液の光透過率を連続計測した.せん断負荷の有無および試験用血液の保存状態により,透過率変化の時定数に明確な差異が認められたことから,本手法による血球損傷度評価の可能性が示された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
心室内血流解析:補助循環装置の心室内血流解析手法についての提案を行った.24年度に試みた,重合メッシュを用いる計算手法は,心室内腔モデル(流体領域)と脱血管モデル(固体領域)とを別の計算格子として用意しておき,両者の重ね合わせを調整するのみで流体解析を実行でき,同一の心室モデルで異なる脱血カニューレ形状,挿入方向,深度による心室内血流を比較するのに好適な方法であることを示した.また,境界条件に心室壁の移動を組み込んだ数値流体解析を行い,部分拍出補助下の心室内血流動態の心周期内の変化を調べることに成功した. 赤血球変形解析:非定常せん断流中での赤血球変形過程を高速度観察し,その結果から赤血球の粘弾特性をモデル化した.このモデルに基づき,軸流型血液ポンプ内流血流の数値流体解析の結果からポンプ内を通過する赤血球に作用するせん断応力を算出した上で,ポンプ入口から出口までの赤血球変形を推定した.インペラ外縁付近を通過する経路を取る極わずかの血球をのぞき,ほとんどの血球は大変形を伴わないことが示唆された.血液ポンプ設計指針の基となる情報を得ている. 血球損傷度評価法:血液ポンプ等の血液接触型機器の溶血試験の結果に影響を及ぼす試験用血液の初期性状,また溶血試験において崩壊に至らず残存した赤血球に蓄積した損傷度を光学的に簡便に評価する方法を提案した.
|
Strategy for Future Research Activity |
心室内血流解析:これまでの数値流体解析および流れの可視化に用いた心室モデルは,内腔形状を簡略化し,平滑な表面としている.弁,乳頭筋,腱索などの心室内部構造が流れに与える影響を調べるために,X線CTを用いて心室内腔形状をスキャンしたデータから透明流路モデルを作製し,これを用いて内部の流れの可視化を行う予定である. 赤血球変形解析:24年度までは,単純せん断流れの中での赤血球変形挙動を調べてきた.25年度は,内部にステップ形状を設けた微小流路モデルを使用し,流れ場中での赤血球変形挙動を複数方向から顕微高速度観察し,多軸応力下での変形応答について詳細に調べる予定である. 血球損傷度評価法:24年度には,血球損傷度評価法を新たに提案し,試料血液の保存状態,せん断負荷の有無による血球損傷度について評価を行ってきた.25年度は,本評価法の実証試験を実施する予定である.従来の溶血試験は,血球の崩壊に伴い膜外に流出したヘモグロビンに注目しているのに対し,本評価法は残存赤血球の損傷度に注目しており,全く異なる評価法である.25年度には,実際の血液ポンプを用い,従来方式の溶血試験と同時に本手法による血球損傷度評価を行い,両試験結果について比較を行う予定である.また,本試験法の理論的考察を外部研究者と共同で進める.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
|