2011 Fiscal Year Research-status Report
動脈硬化阻止システムとしての単球の血管内への逆浸潤過程の解析
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23700546
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
橋本 謙 川崎医科大学, 医学部, 講師 (80341080)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 動脈硬化 / 血管内皮 / 単球 / 浸潤 |
Research Abstract |
動脈硬化形成過程では単球の血管内皮下への浸潤が重要とされるが、その生理的意義は十分に理解されていない。我々の観察では、浸潤した単球の一部が内皮上へ"逆浸潤"することから、単球は1)内皮下浸潤 → 2)病態因子の貪食 → 3)血管内への逆浸潤、というプロセスにより血管壁の病態因子を除去する"動脈硬化阻止機能"を生理的に有しており、この機能の不全により病態が促進するという仮説を着想し、本申請ではその基礎的検討を行った。まず、1)については、単球が浸潤することが局所の内皮細胞間隙の分子構成を変化させ、その後の浸潤を促進することを既に明らかにしていたが、今回はその定量化を試みた。浸潤が起こった場所の周囲にある領域を設定し、その領域内でその後に起こる浸潤イベントを解析したところ、50%の単球が最初の浸潤と同一又は類似の場所から浸潤したことから、一度浸潤が起こった場所では次の浸潤が起こり易いように内皮細胞間隙のリモデリングが起こり、分子構成が変化している可能性が裏付けられた。次に、3)の逆浸潤はこれまで殆ど研究されていない為、最初にin vitroでの評価系の確立を試みた。単球を内皮細胞に添加して1時間反応させた後、PBS(+)洗浄により内皮上の未浸潤単球のみを除去した。その後反応を再開することにより、内皮下に浸潤した単球の内皮上への逆浸潤現象を生細胞で捉えることに成功した。予備実験では、高濃度のIL-1beta(炎症性サイトカイン)の存在下で逆浸潤率が下がる傾向があり、動脈硬化のような強い炎症下では逆浸潤が阻害されて単球が内皮下に蓄積して出られなくなり、先述の"動脈硬化阻止システム"の傷害が示唆される結果であった。現在、内皮細胞間隙分子の関与を検討する為、標的分子(PECAM-1, VE-cadherin)の阻害抗体を用いた実験を遂行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
動脈硬化における単球と血管内皮の相互作用は病態進展における初期の重要なステージと理解されており、様々な切り口から研究が行われているが、主として血中の単球が内皮細胞に接着し、内皮下組織に浸潤するプロセスに焦点が当てられることが多い。しかし、実際のタイムラプス観察では、一度内皮下に浸潤した単球が内皮上に"逆浸潤"したり、さらに複数回の浸潤・逆浸潤を繰り返して内皮上と内皮下を往復したりという複雑な現象が認められる。本申請では、これまで殆ど着目されてこなかった逆浸潤現象に着目し、その評価方法を含めた基礎的な実験系の確立を目指して研究を進めてきた。第一段階として、in vitro(培養系)での逆浸潤の定量評価系を確立できた。これにより、様々な実験条件下(炎症メディエーター、特定の分子に対する阻害抗体、ケモアトラクタント等の存在下)における浸潤・逆浸潤活性を独立且つ定量的に評価できる準備が整った。この実験系を用い、炎症メディエーター(IL-1beta)による影響や、多数存在する内皮細胞間隙分子の個々の役割(阻害抗体実験)についてデータを蓄積しており、おおむね目標通りに研究が進行していると考えている。しかし、今年度の実験計画に挙げたケモアトラクタントによる影響や、単球の2つのサブセットの各々の役割を検討する実験には至っておらず、今後の課題と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に確立した単球の逆浸潤評価実験系を用い、各種炎症メディエーター(IL-1beta、TNF-alpha、LPS等)の逆浸潤に及ぼす影響を明らかにする。また、単球が浸潤する主要経路である内皮細胞間隙には多数の膜貫通型接着因子(PECAM-1、VE-cadherin、CD99、JAM-A,B,C等)が存在しており、個々の分子の"順方向"の浸潤(血中→内皮下)における役割については多くの報告があるが、各々の分子の"逆浸潤"における役割は殆ど不明である為、個々の分子に対する阻害抗体及びsiRNA等を用いてその役割を明らかにする。その他、ケモアトラクタント(MCP-1等)の影響や2つの単球サブセットの役割、更に、動物個体を用いたin vivoでの逆浸潤の評価系の確立を目指して基礎検討を行う。また、単球が内皮細胞間隙という非常に狭い空間を効率よく通り抜ける際には、上記のような接着因子の発現や集積といった"化学的"な制御だけではなく、2つの細胞同士の接触による両細胞の膜の微細な伸展・変形といった"物理的・機械的"な制御・調節系が存在することが想定される。これは当初の実験計画には記載しているものではないが、我々は膜の伸展のような機械的な刺激に反応して活性を変える"機械感受性分子(メカノセンサー)"にも着目しており、その候補分子としてTRPV2に着目している(内皮細胞での発現は確認済み)。このような機械感受性分子は単球と内皮細胞の相互作用系にも関与することが想定される為、その機能・役割を検討していきたいと考えている。以上のように、化学的・機械的といった様々な観点から単球と内皮細胞の相互作用を解析することにより、動脈硬化形成の起点となる単球の浸潤イベントのメカニズムを統合的に解き明かしていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
単球の逆浸潤系については既に実験系を確立しており、主として実験を遂行する為の消耗品・試薬類(単球分離試薬、内皮細胞培養関連試薬、阻害抗体、炎症メディエーター、ケモアトラクタント、siRNA等)に研究費を使用する。in vivo系については実験系確立の為の基礎検討が必要になるので、主としてC57BL/6マウスや動脈硬化病態マウス(Apo-E-KO)の購入費用に研究費を使用する。機械感受性分子TRPV2の機能解析については、基礎的な細胞・分子生物学的解析(RT-PCR、ウェスタンブロット、免疫染色、遺伝子組み換え等)がメインとなり、関連装置・機器は既に所有している。従って、主として実験を遂行する為の消耗品・試薬(単球分離試薬、内皮細胞培養関連、抗体、プライマー、ベクター等)に研究費を使用する。現時点で、大型設備備品の購入予定はない。
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