2011 Fiscal Year Research-status Report
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23700574
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
小塚 淳 独立行政法人理化学研究所, 細胞シグナル動態研究グループ, 研究員 (10432501)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 画像情報処理 / CT / ベイズ統計 / 超解像 / 像質改善 |
Research Abstract |
非侵襲的に観測物体の内部構造を計測する技術は、計算機トモグラフィー(Computed Tomography, CT)と呼ばれ、CT装置は、観測物体を透過する放射線を撮像機器上へ投影した像を元にして断層像を再構成するシステムである。投影像は観測物体内の物理量分布を投影面方向に積分した像と考えられ、CTは様々な角度から撮影した投影像を元に、計算処理によって観測物体の断層像を推定するアルゴリズムである。これらの画像再構成の問題は基本的にRadon変換と呼ばれる投影変換を元に構成されている。現在最も普及している再構成アルゴリズムであるFiltered Back Projection (FBP)法では、検出器由来のノイズや撮像と再構成時の回転軸のズレ、撮像時の回転軸位置や回転量のゆらぎ等の影響は考慮されず、再構成像に様々なアーチファクトが発生する事が知られている。また、逆投影操作には再構成像全体にわたる積分操作が伴うため、情報が欠損している場合に致命的なアーチファクトを発生させやすい。一方、断層像の計算をフィッティング問題と捉え、推定断層像から計算した投影像が実際の投影像に一致するように逐次的に断層像を修正する反復法は、FBP法に比べ情報の欠損等に対して比較的頑強ではあるものの、アーチファクトの軽減に根本的な解決法を与えていない。そこで、本研究課題では、Radon変換を拡張した投影操作を生成系として持つような系を用いて定式化を行い、この定式化にベイズ統計に基づいた確率的画像処理の考え方を適用する。そして適宜、適当な事前知識を用いて、様々なアーチファクトを根本的に解消し、計測の分解能以上の再構成像を推定する超解像CTシステムを構築する。当該年度は、ベイズ統計に基づいたCT再構成アルゴリズムを考案し、再構成プログラムを作成した。また、考案したアルゴリズムとプログラムを特許申請した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、観測物体推定像の画像サイズを任意に設定し、アフィン変換による同時座標系を用いてTippingらの方法を拡張することでセンサアレイへの投影変換行列を作成した。投影変換行列はアフィン変換を用いているので、3次元への拡張やコーンビーム等の特殊なビーム形状やヘリカルスキャン等の特殊な走査形態への拡張が容易に行えるようになった。次にベイズ統計を用いたCTシステムの構築を行った。まず、解析の簡便化のために、観測過程で混入するノイズはガウス分布を用いてモデル化を行った。また、観測物体推定像の輝度値(物理量に相当する)は急激に変化しないものと仮定し、ガウス分布を事前確率とした。投影像を入力、事後確率分布の期待値を出力(観測物体推定像)としてシステムを構成した。Matlab等の既存のアプリケーションを用いて超解像CTアルゴリズムを実装し、低画素数における提案システムの評価を行った。Improvement of signal to noise ratio (ISNR)を用いた評価実験で2dB以上の像質改善を得た。その結果を元に開発したアルゴリズムとプログラムの特許出願を行った。次に処理データの大規模化および処理プロセスの高速化のためのGPGPUコンピューティング環境作りを行った。従来法と提案手法間の処理速度、ISNR等の比較のため、FBPや反復法のGPGPUテクノロジーによる実装を行った。特許の出願やFBPや反復法のGPGPUテクノロジーを用いて実装は当初の予定より早く実現した。一方、ノイズ生成過程の違いによる推定像の比較検討を行うことや生体組織に金属が混入し、投影像にデータの欠損領域(不可視領域)が発生する場合に対応する事前確率変更による像質改善の評価は後回しとなった。若干、当初の計画とは順番が前後したので、(2)の評価になった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた結果を基にして、並列コンピューティングテクノロジーを用いた提案システムの実装を行う。CUDA(Compute Unified Device Architecture)やOpenCL(C言語による、マルチコアCPUやGPU、Cellプロセッサ、DSPなどによる異種混在の計算資源を利用した並列コンピューティングのためのフレームワーク)といった既存並列処理テクノロジーを利用して並列処理CTシステムを構築し、並列化による提案システム再構成処理の高速化を図る。次に3次元化に対して本手法を適応する。現在断層像作成は、ラインスキャンや2次元投影像からシノグラム(測定角毎の投影像をまとめた2次元画像)を作成し、シノグラムより断層像を再構成している。投影像セットから直接ボクセルデータとして再構成することで、高精細化及び高速化を図る。次にアーチファクト生成過程とその解消法を検討する。計測が困難な位置ズレ量は、ハイパーパラメーターとし、尤度の周辺化を用いて推定した後、推定したハイパーパラメーターを用いて再構成象を推定することでアーチファクトは解消されると思われる。再構成象の修正には変換行列を元に構成される修正ベクトルが用いられる。このため、反復法においても収束性が悪くなる。初期修正ベクトルをランダムに選択するアルゴリズムを考案することで収束性を向上させる。情報欠損によるアーチファクト(メタルアーチファクト等)の低減には適切な事前分布を選択する事で対応する。また、コーンビーム等の特殊なビーム形状やヘリカルスキャン等の特殊な走査形態の投影過程を考察し、変換行列式を構築する事でアーチファクト低減を図る。最終的に、データベース等から構成される事前知識と逐次的に与えられる投影像を入力として高速かつ良質な再構成像を推定するシステムを構築する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額1,300,000円のうち、物品費として、440,000円、旅費として、390,000円、人件費・謝金として、 470,000円を割り当てる。従来、確率を用いた情報処理は時間がかかり、一部の特殊な場合を除いて常に計算困難の問題が付きまとうため、悪い印象が強く残るせいか、画像処理の発展においてそれほど重要な地位を占めるとは言い難い状況にあった。しかし、情報工学以外の分野からの新しい計算技法の導入と、パーソナルコンピュータ(PC)の処理能力の飛躍的発展により、情報通信技術を中心に徐々に脚光を浴びつつある。PCを用いて確率演算システムを高速化する一つの回答がGraphic Processing Unit (GPU)を使った並列演算処理である。PCの画像処理専用部品であったGPUは廉価で極めて高い演算能力が注目され、コンパイラの提供により、科学技術計算やシミュレーションなどの汎用的な用途へ広く利用されている。同等の性能を満たすPCクラスタと比べ、初期導入コスト、メンテナンス、ランニングコストの面から大いに利点ある方法が提供できる。廉価で高速超解像CT再構成システムが構築できることを示すことで、一般に広く普及する事が期待できる。物品費はGPGPUテクノロジーを用いた並列コンピューティング環境の充実に充てる。プログラムの作成は、Matlab等の市販のアプリケーションを利用して行い、GPGPUテクノロジーを用いた並列コンピューティングシステムへと発展させるため、研究補助員を雇用しプログラミングおよび計算機実験補助(1人×12月)にあたらせる。また、国内2学会、海外1学会への参加を予定している(学会発表 (大阪、3日)45,000円、学会発表 (仙台、3日)45,000円、学会発表 (アメリカ、6日)300,000円)。
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