2012 Fiscal Year Research-status Report
体外補助循環における出血・血液凝固の非侵襲連続光診断法の確立
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23700575
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
迫田 大輔 独立行政法人産業技術総合研究所, ヒューマンライフテクノロジー研究部門, 研究員 (40588670)
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Keywords | 非侵襲光計測 / 血液 / 赤血球 / モンテカルロ・シミュレーション / 可視・近赤外分光 |
Research Abstract |
血液透析、人工心肺、左心室補助などの体外循環治療において、出血血液凝固、血球破壊などが問題となっているが、これらを可視から近赤外光を用いて非採血的にかつ連続的にモニタリングする医用システムを確立することが目的である。 第一の研究成果として、血液内の光子の経路を解く血液内光伝播シミュレーションを開発した。血液は赤く濁っているが、それは赤血球によって光が吸収・散乱されるためである。このため血液内の光は複雑な光路を辿るため、通常の分光光度計では、血液物質を定量することはできない。そこで、シミュレーションによって血液中の赤血球内外の光路長を計算できるようにし、光を吸収させる物質がどれくらい含まれているのか定量することが可能となった。本システムによって血中ヘモグロビンを採血測定との誤差1%程度の精度で非採血に予測することに成功した。 第二の研究成果として、体外循環回路における「血漿層境界反射分光法」を開発した。血液は、血球細胞(赤血球、白血球、血小板)が血漿中に分散した懸濁液である。これまでの血液の光モニターは、酸素飽和度やヘモグロビン濃度など、赤血球に関する診断機器だけであったが、本システムは血漿成分を非採血に定量できる技術である。着想の原点は「プラズマスキミング効果」を利用することにある。これは血液が流動したとき、血球細胞群は血管の中心付近に集中して流動し、血管壁付近には血球細胞がなく、薄い血漿層となる現象である。このことから、体外循環の流路壁と血漿層の境界で反射した光のみを分光することで、全血まるごとの状態で血漿物質だけの情報を取得できるようになった。溶血による血漿中のヘモグロビン濃度を約5mg/dLの精度で採血せずに定量できる実験結果を得た。人工心臓や人工肺内における血栓形成による赤血球破壊度を迅速に検知し、デバイス異常の早期対応へのための安全管理システムとして期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、血漿層境界反射分光の精度について詳細に検討した。in vitroで模擬人工心肺回路を構成し、ウシ血液を連続流血液ポンプで流量2L/minで環流した。人工肺にて血液酸素飽和度を100%とした。血液温度を37℃で一定に保った。人工肺出口回路チューブ(内径6.35 mm)にガラス製の光学フローセルを接続した。フローセル面に対して45°の入射角で、ハロゲン白色光(波長400-900nm)を光ファイバで導いて入射した。ここで液体パラフィンをファイバ固定治具内に満たすことで、フローセル表面反射光を除去し、血漿-フローセル内面の境界層での反射光を受光ファイバにて取込み、小型分光光度計にて分光した。実験中、血液のヘマトクリットHCT[%]及び血漿遊離ヘモグロビン濃度fHb[mg/dL]を変化させた。HCTについては、血液を遠心分離して抽出した自己血漿を回路内に注入することで変化させた。fHbについては、ヘモグロビン溶液を注入することで変化させた。HCTを変動させる実験ではfHbが一定であること、fHbを変動させる実験ではHCTが一定であることを確認した。 結果として、波長600nm以下におけるスペクトルはHCTの変化に依存せず、fHbの変化に応答した。このことから、血液の血漿の光学特性変化のみを抽出することに成功したことが示された。上記実験を繰り返し、臨床上十分な、5mg/dLという精度で血漿中の遊離ヘモグロビン濃度を定量できることを確認し、研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
血漿層境界反射分光法は、体外循環回路を流れる血液の界面で反射した光を分光する技術であり、より多項目の血液成分を定量することで、ヘモグロビン以外の血漿タンパク成分の検査や高精度血糖値計測への応用展開等を考えている。これを実現するためには、広波長帯域において血漿層境界反射分光を実現する必要がある。しかし、現状のシステムでは波長600nm以上で赤血球による散乱光ノイズが増大し、高精度で血漿のスペクトルを抽出することが困難である。そこで入射角を浅くし、完全に界面で全反射させることで赤血球散乱光を除去することを検討したが、入射角を浅くすると、血液による吸光度が非常に弱くなる問題が生じた。 そこで、開発した血液内光伝播シミュレーションにより、波長600nm以上における光散乱を計算して処理することを計画している。また、これまでの可視・近赤外分光に加えて、近赤外ラマン分光を本システムに応用することにより、より多様な血液情報の取得を試みる。 また、体外循環におけるこれまでの可視・近赤外分光をイメージングすることを試みる。体外循環における血液ポンプや人工肺、循環回路チューブコネクタの血栓形成のイメージングを行い、体外循環デバイスの血栓形成異常の検出装置として、またデバイスの抗血栓評価手法となることを狙う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験遂行のための研究費使用計画として、in vitro 体外循環実験における動物血(ウシ、ブタ)及び体外循環回路部品を購入する。臨床使用に耐えるコンパクトな血漿層境界反射分光システム構築のための、光計測プローブ開発費、電子回路開発費に使用する。また、可視・近赤外光イメージングのための、光学系部品(レンズ、偏光板、ホルダー)の購入に使用する。研究成果を国内および国際学会にて発表するための参加費及び旅費、論文執筆費として使用する。
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Research Products
(14 results)
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[Journal Article] New generation extracoporeal membrane oxygenation with MedTech Mag-Lev, a single-use, magnetically levitated, centrifugal blood pump: preclinical evaluation in calves2013
Author(s)
Tatsuki Fujiwara, Eiki Nagaoka, Taiju Watanabe, Takashi Kitao, Daisuke Sakota, Tadahiko Shinshi, Hirokuni Arai, Setsuo Takatani
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Journal Title
Artificial Organs
Volume: 37(5)
Pages: 447-456
DOI
Peer Reviewed
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