2011 Fiscal Year Research-status Report
予備動作に基づいた完全脊髄損傷患者の歩行動作意思推定
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23700660
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
塚原 淳 筑波大学, サイバニクス研究コア, 研究員 (70601128)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 動作意思推定 / 歩行支援 / ロボットスーツHAL / 床反力中心位置 / 体幹姿勢 |
Research Abstract |
本研究の目的は,歩行の直前に観測される動き(予備動作)を明らかにし,ロボットスーツHALを装着した完全脊髄損傷患者が,自らの意思で直感的に,歩行を実現することのできるシステムを開発することである。脊髄損傷患者のような重度下肢麻痺患者の場合,中枢神経系の損傷が原因で,健常者のような生体電位信号(BES: Bioelectrical signals)を検出することはできない。すなわち,BESに基づき対象患者の動作意思を推定し,且つ歩行を支援する従来手法の適用は,極めて困難である。また,完全脊髄損傷患者も軽度下肢麻痺患者と同様,歩行機能の再建は強い願望の一つであり,さらに,ADL(Activities of daily living)の促進やQOL(Quality of life)向上の観点から,本人の意思に応じた歩行支援システムを実現することは,非常に意義がある。 当該年度における本研究の成果として,脚の振り出し開始や停止等に関する予備動作を解明するために,体幹の傾斜角や関節角度計測を目的としたモーションキャプチャシステム,下肢におけるBES計測を目的とした筋電位測定システム,さらに,床反力値の変化と床反力中心(CoGRF: Center of ground reaction force)の移動を計測することを目的としたNovel社製の圧力分布計測システム(Pedar-x/E3:平成23年度購入物品)を用い,それら全てを同時計測した歩行試験および解析を行った。 上記計測試験の結果,歩行に付随するCoGRFの移動速度に加え,体幹の姿勢変化を予備動作として検出することが,歩行意思の推定に有用であることが明らかとなった。さらに,構築したIntention estimatorについての機能確認試験として,完全脊髄損傷患者を想定した,マネキンによる歩行試験を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではこれまでに, CoGRFの移動変位に基づき,HALを装着した完全脊髄損傷患者の歩行支援を実現している。しかしながら,歩行動作意思の誤検出をすることなく,より健常者のような動歩行(Dynamic walk)に近づけるためには,より緻密な運動解析によって,歩行に関連する予備動作の解明が必要であった。当該年度では,歩行に関する予備動作を明らかにするために,体幹の傾斜角,関節角度,BES,床反力値,ならびにCoGRFの計測試験を行った。計測の結果,CoGRFの移動速度と体幹の姿勢変化に基づく新たな推定法が,従来手法であるBES検出に基づく動作意思推定の代替として有用であることが明らかとなった。 さらに,上記試験結果によって構築した,Intention estimatorの機能確認を目的として,完全脊髄損傷患者を想定した,下肢関節フリージョイントマネキンによる歩行試験を行った。試験段階における問題点として,HALの股関節部位における軸フレームの撓みから,意図しないroll軸周りの回転力が発生し,遊脚後の着地姿勢にも悪影響を及ぼす現象が見られた。さらに,このような現象は,足底に内蔵された床反力センサに対して,適切に体重がかかることを困難にさせ,その結果,Intention estimatorが正常に予備動作を推定しない事態を引き起こした。このような問題点を解消するために,構造解析に基づいたハードウェアの改良を進めている。 以上を踏まえ,現在までの達成度として,CoGRFの移動速度と体幹の姿勢変化に基づき,歩行に関連する新たな動作意思推定手法が明らかになった点や,構築したIntention estimatorの機能確認のための事前試験(マネキンを用いた歩行試験)により,ハードウェアの改良を見いだすことができた点から,当初の計画よりもより良い結果に到達している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度前半の研究推進方策としては,これまでの歩行解析結果に基づいて構築した,Intention estimatorによって,下肢関節フリージョイントマネキンを用いた歩行試験を行うことである。この試験を遂行させるためには,今後,ハードウェアの改良に重点を置き,研究を進める必要がある。ハードウェアの改良点は,大きく二つあげることができる。一点目は,HALの股関節部位におけるroll軸周りの回転を軽減させ,遊脚と支持脚間の接触を防止するための機構を開発すること,そして二点目は,足関節の内反を防ぎ,動作時における安定性を高めるために,HAL のフレームを介して地面に伝わる荷重を計測する機構(足底の床反力検知部の拡張)を開発することである。二点目の開発については,地面との接触部に,圧力センサを内蔵させる必要があるため,センサ自体の開発ならびに精度の検証を行う必要がある。 平成24年度後半の研究推進方策として,前述した機構の開発を行った後,実機を用いて完全脊髄損傷患者での臨床試験を予定している。試験では,HALを装着した対象患者に対して10m歩行テストを行い,平成24年度前半で行ったマネキンや健常者の10m歩行計測との比較および評価を行う。具体的な評価基準としては,10m歩行にかかる時間やケーデンス,さらには,歩行試験時におけるCoGRFの移動範囲から,動作時の安定性を評価する。ハードウェアの評価に関しては,脚の振り出し時における支持脚との接触等の問題点を,過去に行った実証試験の結果と比較し,有用性の確認を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度には,歩行時における足圧分布の計測実験を行うために,Novel社製の圧力分布計測システム(Pedar-x/E3:2,593,500円)を購入した。Pedar-x/E3や,その他の計測システムを用いた歩行計測の結果により,新たな歩行動作意思推定法であるIntention estimatorを構築後,完全脊髄損傷患者に適用するための事前試験(マネキンによる歩行試験)を行った。この試験によって見いだされた課題として,HALの股関節部位におけるroll軸周りの回転を軽減させる機構の開発と,足関節の内反を防ぎ, HAL のフレームを介して地面に伝わる荷重を計測する機構の開発があげられる。したがって,これらを考慮したハードウェアの改良が急務となった。 次年度の研究費の使用計画としては,23年度の未使用額106,500円分と,今年度の直接経費500,000円の内,400,000円分を,ハードウェアの改良に必要な床反力センサの購入費や金属加工費の使用に予定している。また,100,000円分に関しては,論文校閲費や実験補助費に使用する。
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