2011 Fiscal Year Research-status Report
実践的指導力を育む大学授業と教育実習の連関ー運動を見る力と指導言語に着目してー
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23700694
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
七澤 朱音 千葉大学, 教育学部, 准教授 (10513004)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 模擬授業 / 教育実習 |
Research Abstract |
本研究は,将来体育科・保健体育科の教職に就く大学生が,在学中に実践的な力量を身につけるための模擬授業の手法とその成果の検証を継続検討し,模擬授業を行ったことによる指導言語の変容を教育実習中の教師行動と記述記録の分析から明らかにすることを目的としている。 これまでの模擬授業「ボール運動」では,研究者が作成した教材を元に受講者(2年次)が授業を行っていた。しかし,平成23年度前期の授業では,書籍に掲載されているボール運動の素材を受講者自身が読み解き,その内容を教材化し模擬授業を実施する形に改良を加えた。読み解いたことにより,受講者たちは,教材に内在する意図や系統性を理解することができた。また,児童役が記述した振り返り用紙の分析からは,指導者役の説明能力が二回の模擬授業で高まる傾向が明らかになった。 次に,教育実習前後の実習生(3年次)の日録とインタビューの分析からは,特に器械運動を担当した実習生において,教育実習中に自ら実技の示範はできるものの,苦手な生徒への声かけに困難を来し苦手意識も抱いていることが明らかになった。相互作用行動の分析からも,具体的で肯定的な言葉かけの頻度が少なく,適切な情報を生徒たちに伝えられない現状,つまり「運動を見る目」が実習期間中のみでは身につきにくいことが明らかになった。 この教育実習中には,後期の「保健体育科教育法II」で用いるための映像資料を録画した。この映像は,中学生が器械運動(跳び箱)の授業で試技を行っている姿を側方と後方から録画したもので,生徒たちの技能の状況を把握するために収集した。収集後には,生徒たちの多様な技能パターンがわかるように編集し分類した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
模擬授業「ボール運動」においては,受講者が教材を読み解く形に改良を加えた。授業については,期間記録法・相互作用行動記録法を用いて分析を行い,二回の模擬授業で授業の時間配分と言葉かけが改善されている様子が明らかになった。また,受講生達が教材の意図や系統生を理解する過程を実現することはできたが,用いる教材をどのように選択するかについては,次年度の研究において検討の余地がある。 教育実習においては,教師行動の分析に加え,教育実習生の意識調査を行った。教育実習前後の質問紙調査,授業直後のインタビュー,日録への記述内容の分析から傾向を分析したが,教育実習開始前には「児童・生徒の関わり合い」に不安を抱いている様子が読み取れ,教育実習終了後には「授業の進行に関する説明や指示」に課題を残した様子が読み取れた。授業の時間的推移や相互作用行動の分析からは,直接的指導場面の時間的配分に課題が残る実習生が多いこと,また苦手な生徒に対して具体的な言葉かけができない様子が明らかになった。しかし,今後,相互作用に用いられた言語をより詳細に分析することが課題となった。 録画した映像資料については,後期の「保健体育科教育法II」で用いることができなかった。その理由は,研究代表者が,平成23年度後期より産休・育休に入り研究が中断したためであり,平成24年度後期にむけて映像の活用方法の再検をする予定である。 本研究を遂行するにあたり,附属学校との連携は欠かせない.現在,申請者の研究室に附属中学校の現職教員が在籍し,申請者とともに授業研究をしている.その教員以外にも,附属中学校とは,すでに「教育実習」や学部の「授業研究」などで介入研究を行っている状況であり,今後も中学校の生徒たちの実態を把握するための協力関係を保ちながら研究を遂行していく。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の模擬授業では,教材の選択方法を改良し,受講生がボール運動における素材を教材化する過程について理解したうえで指導案を作成できるようにする。模擬授業の分析においては,期間記録法・相互作用行動観察法を引き続き用い,さらに直接的指導場面における指導言語についても分析に加える。 5月から6月に行われる教育実習では,千葉大学教育学部附属中学校で3年次に本実習を行う教育実習生の授業を録画・分析する。また,平成23年度は器械運動の中でも跳び箱運動のみの録画となったため,平成24年度はマット運動の試技も録画し,より多くの事例を対象とする。この際には,試技がよりよく把握でき,なおかつ生徒たちの顔が特定できないアングルを検討する。そして,後期に授業で用いるため,事例ごとに編集を行う。その後,7月から9月にかけて模擬授業と教育実習の分析を行う。 10月から始まる後期の必修科目「保健体育科教育法II」では、中学校課程の2年次に,運動を見る目についての講義を行う.先の研究で、教育実習生達は、実技の示範はできても苦手な生徒に適切な言葉を用いて指導できない現状が明らかになっている。そのため、将来教育実習で実際にかかわる生徒の器械運動の映像をもとに,何ができていないのか,どのように声かけをしたらいいのかについてとりあげ,見る視点についての知識を獲得させる.また、器械運動の模擬授業を新たに実施し、学んだ知識を将来の指導場面で実際に活用できる力量形成を目指す。 11月には、日本スポーツ教育学会で成果を発表し、3月までに、研究全体の成果を見直し、平成25年度の研究へとつなげる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
模擬授業を実施するためには,図示を行うためのホワイトボードや位置を示すカラーコーンなど,様々な器具や用具を準備する必要がある。また,分析班を用意するためには,ストップウォッチやボードがなくてはならない。 次に,教育実習を録画・分析するための機材が必要である。教師行動を分析するためには,指導言語を録音する機材やICレコーダーが必要となり,対象とする教育実習生の人数や開講している授業への対応も含め,複数台用意することが必至である。また,授業は複数あり長時間・長期間にわたるため,分析のためには大容量のパソコンやハードディスクを用いることも欠かせない。多くの授業を分析するため,分析補助を用いる。そのための資金も確保しておく必要がある。 研究で得られた成果は,学会で発表する。そのために,旅費を確保する必要がある。それだけでなく,AIESEPや日本教育大学協会や日本質的心理学会など,国内外の多くの学会に参加し,研究に用いる資料を収集する。そのための旅費も確保する必要もある。
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