2011 Fiscal Year Research-status Report
体育授業における援助要請の発達的特徴と影響要因の検討
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23700700
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
藤田 勉 鹿児島大学, 教育学部, 准教授 (30452923)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 学業的援助要請 / 動機づけ / 自己調整学習 / 体育 / スポーツ |
Research Abstract |
学習者は自らの力で課題を解決することが困難であると感じた時,教師に質問して解決策を得ようと試みる.これは学業的援助要請と呼ばれ,学習者が教師に対して援助を求める行為である.これまでの体育心理学の研究では,教師から学習者への働きかけが重要であることは言われてきたが,教師に対して学習者からの質問を促すという視点での研究は行われてこなかった.運動が上手くできない時に教師からコツを聞き出すことや良い作戦を立てるために有力な情報を教師から提供してもらうことは体育授業場面での学業的援助要請に相当するが,これらのことを必要な時に実行できない学習者は,できないことや分らないことに直面しても,そのまま諦めてしまい,有能さの欠損,そして,動機づけの低下という悪循環を招く可能性がある.そこで本研究では,学業的援助要請に着目し,適応的な学習方法を獲得するためのメカニズムを明らかにすることを目的とした.2011年度は,体育授業用の学業的援助要請を測定する尺度を開発するための調査を6月から7月にかけて行い,学業的援助要請の発達的特徴を明らかにするために小学校5年生から中学校3年生までを対象とした横断調査を10月から11月にかけて行った.尺度開発の調査では,適応的援助要請,依存的援助要請,要請回避という他領域において見られるような尺度が体育授業においても構成された.尺度の信頼性ではいずれの尺度においてもα係数が0.70以上となり,基準関連妥当性の検討では,適応的援助要請は内発的動機づけや有能感と正の関連があり,依存的援助要請では自我志向性と正の関連があり,要請回避は内発的動機づけや有能感と負の関連があるというような他領域の先行研究で見られるような結果が得られ,信頼性及び妥当性の高い尺度が作成された.また,横断調査では,中学生よりも小学生の方が適応的援助要請尺度の得点が有意に高いという結果が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究の目的の達成度については,おおむね計画通り進んでいると評価した.その理由は次の通りである.2011年度は体育授業用の学業的援助要請を測定する尺度を作成することを予定していた.このことについて,2011年6月から7月にかけて質問紙調査を行い,その結果から尺度を構成し,尺度の信頼性及び妥当性を検討した.この内容については日本スポーツ心理学会で発表をした.また,学業的援助要請の発達的特徴を明らかにするための横断調査を予定していた.このことについて,2011年10月から11月にかけて小学校5年生から中学校3年生までを対象とした質問紙調査を行い,小学生と中学生の違いを明らかにした.なお,質問紙調査で得られた結果は,調査対象校へフィードバックした.これらのことは,研究開始当初に作成した計画の通りである.
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度は,体育授業における学業的援助要請の学年内の変化を明らかにするための縦断調査を行う.また,援助要請に影響する要因も明らかにしていく.縦断調査については,第1回目を6月7月にかけて,第2回目を10月から11月にかけて,第3回目を1月から2月にかけて行う.また,援助要請に影響する要因については,他領域で検討されてきた要因として,有能感,内発的動機づけ,目標志向性などは,2011年度に調査済みであることから,これらと異なる要因を検討する.近年,質問紙で測定される指標は顕在指標と言われ,データには回答者の社会的望ましさが反映されてしまうという批判がある.その問題に対応できると言われているのが潜在指標である.潜在指標は意識的に統制が困難なプロセスを反映する個人特性を測定する手法として注目されている.他領域の先行研究では,質問紙で測定した顕在指標よりも,潜在指標の方が行動指標及び他者評定との関連が強いことが示されてきた.このことを基に,体育教師の行動が潜在指標に規定され,その指導を受けている生徒の動機づけが体育教師の行動を他者評定した結果であるならば,体育教師の潜在指標は生徒の動機づけに影響を及ぼすという仮説が考えられる.そこで2012年度は,体育教師の潜在指標が学習者の学業的援助要請に影響するかどうかを検討していく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年度には,質問紙調査(縦断調査)を行うための経費と援助要請の影響要因として教師の潜在指標を測定し,分析するための経費が必要になる.物品費には,調査票用紙購入費(50千円),文房具購入費(50千円),潜在指標測定用ソフト購入費(20千円),オフィスソフト購入費(30千円),分析ソフト購入費(70千円),パソコンバッグ購入費(20千円)を計上した.旅費には,現職教員との研究打ち合わせ旅費(100千円),研究成果発表のための学会参加旅費(100千円)を計上した.謝金には,研究補助者謝金(200千円),英文校閲費(80千円)を計上した.その他には,郵送費(50千円),文献複写費(20千円)を計上した.2012年度の申請額は870千円としていた.その申請額で研究計画を立てていたが,実際の直接経費は500千円であった.2012年度には縦断調査という継続的な調査を行うための費用が必要であったため,2011年度は節約した.また,申請時,2012年度に計画していた学業的援助要請の影響要因の検討は,児童生徒を対象とした質問紙調査によって検討する予定であったが,2011年度の調査結果により,児童生徒の調査に加えて教師の調査も必要になった.このことから,現職教員との打ち合わせ旅費,教師のデータを収集・分析するためのプログラミングソフトと分析ソフトの購入費などが必要となった.これらのことから,2011年度は節約をして,300千円の未使用金額を2012年度に使用することとした.
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