2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23700724
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Research Institution | National Institute of Fitness and Sports in Kanoya |
Principal Investigator |
中本 浩揮 鹿屋体育大学, スポーツ人文・応用社会科学系, 講師 (10423732)
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Keywords | 運動修正 / 抑制機能 / 再組織化 / 熟達化 / スポーツ / 認知 / 知覚 |
Research Abstract |
スポーツでは,絶えず変化する環境の中で,1秒にも満たない運動を遂行する必要がある.このような環境の不確定性と時間制約に打ち勝つ為に,優れた競技者は予測技能を発達させることで,起こり得る事象を正確に,かつ事前に察知し運動することが明らかにされている.しかし,スポーツではしばしばその予測が裏切られる状況が生じる.近年の研究では,優れた競技者は予測が裏切られた場合でも,素早く正確に運動を修正すると報告されているが,その運動修正の熟達に関与する中枢メカニズムは明らかにされていない. この点に関し,昨年度は熟練競技者の優れた運動修正能力に関わる中枢メカニズムを解明するために,運動プログラムの再組織化に焦点をあて実験を行った.具体的には,急激な速度変化を伴う移動標的の到達に合わせてタイミングよくリーチング運動を行う一致タイミング課題を用い,運動の再組織化に関与すると推測される前補足運動野および運動野へ経頭蓋磁気刺激を施し,運動修正パフォーマンスへの影響を検討した.その結果,前補足運動野および運動野に磁気刺激を与えた条件では,与えられない条件に比べて,タイミングの誤差が増大し,標的の加速に対するリーチング動作の加速度が低下した.以上から,運動野と前補足運動野が運動修正に関与していることが示された. そこで,本年度は,運動修正時の前補足運動野の役割を詳細に検討するために,標的の速度変化の大きさを操作して,大きな運動速度の修正を要する課題と小さな運動速度の修正を要する課題を用い,磁気刺激によるパフォーマンス変化について検討した.その結果,速度変化の大きさ(運動速度の修正の大きさ)に関わらず,磁気刺激によってタイミング誤差の増大と動作速度の減少およびピーク加速度の尚早化が見られた.この結果から,前補足運動野は動作の切り替え制御には関与するが,パラメータ調節には関与しないことが明らかにされた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主要な目的は,運動修正技能の熟達に関与する中枢メカニズムを解明することである.そのための具体的な達成目標として,①運動修正に関与する脳部位の同定,②運動修正に関与する脳波成分の同定,③運動修正の熟達とそれら測定指標との関連を明らかにすることをあげている. 現在まで,①運動修正に関与する脳部位の同定として,経頭蓋磁気刺激による脳部位への刺激が運動修正のパフォーマンスに与える影響を検討し,右下前頭回,補足運動野,前補足運動野,運動野の関与が明らかになってきた.これらの脳部位は,それぞれ抑制,事前の運動計画,運動計画の更新,感覚情報の検出といった機能があることが明らかにされており,本研究で対象とする運動修正で想定してきた認知プロセスと適切に整合性が取れている.よって,目標①は概ね達成されたといえる.また,運動修正能力の高い者として野球熟練者を対象に,磁気刺激の影響を検討した結果,脳の標的部位への刺激によるパフォーマンス低下は熟練者に限定されることが明らかになった.すなわち,これらの脳内ネットワークは,運動修正の熟達によって形成されると結論づけることができ,これにより目的③を達成したことになる. 以上の成果を踏まえ,次年度以降,脳波測定を中心に,運動修正に関連する脳波成分および電源推定を行っていく必要があるが,次年度で達成できる見込みである. 以上の点から,現在までの達成度を「概ね順調に進展している」と自己評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
時間的な運動修正の中枢処理には,一度計画された運動を抑制し,新たな環境に適応するように運動タイミングのパラメータを再構築する再プログラミングが必要であると考えられている (Teixeira et al., 2006).これまで,空間的変化に対する運動修正には脳の後頭頂皮質や前補足運動野が関与することが明らかにされているが (Desmurget et al., 1999; Leuthold et al., 2002; Vidal et al., 1995),時間的変化に対するタイミング修正の処理過程や脳部位については明らかにされていなかった.この点を明らかにするために,前年度,前々年度は,経頭蓋磁気刺激を用いて,前補足運動野,運動野の関与を明らかにしてきた. 今後は,脳波を用いて運動タイミング修正時の脳の応答を測定する.数多くある脳機能計測装置の中でも脳波は時間分解能が最も高いため,短潜時で行われるタイミング修正の中枢処理過程を明らかにできる.さらに,頭皮上の高密度な電極配置による脳波測定から特定の脳波成分の発生部位を推定することができる (Scherg & Berg, 1996).これらの分析を通して,運動修正に関与する脳部位と部位間の時系列的なネットワークを明らかにする.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度以降に関して,脳波を用いた研究を中心に進めるため,脳波記録に関わる消耗品として,脳電図用電極,測定用ゲルの購入や研究成果の公開に必要となる旅費として研究費を使用する予定である.また,実験課題として利用してきた一致タイミング装置に関しては,脳波記録と同期するための刺激呈示装置の改良や刺激呈示装置と外部信号との接続を考えた場合,装置の構造を熟知した専門的技師による知識の提供 (プログラミング) が不可欠となる.そのため,申請者の所属期間が所有しているLEDを使用した一致タイミング装置のプログラム変更費を計上する予定である.
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