2011 Fiscal Year Research-status Report
心的動揺に対する運動制御機構―脊髄反射回路の解明と非侵襲的脳刺激の導入―
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23700761
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Research Institution | Tezukayama University |
Principal Investigator |
田中 美吏 帝塚山大学, 経済学部, 講師 (70548445)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 感情 / 心理的プレッシャー / ストレス / 脊髄反射 / 筋活動 |
Research Abstract |
当該研究の推進に必要な実験装置と実験環境の整備を図った.その後に,心的動揺が脊髄反射運動制御機構に及ぼす影響を調べるための2つの実験を実施した. 実験1では,快‐不快感情が脊髄反射運動制御に及ぼす影響を検討した.快‐不快感情を誘発するための写真刺激としてInternational Affective Picture System(IAPS)を納入し,実験参加者は座位姿勢のなかでIAPSを呈示された.その際に右脛骨神経を電気刺激し,右ヒラメ筋のからHoffmann反射(H反射)を記録した.相反抑制などの関与も検討するために,右前脛骨筋と右ヒラメ筋のEMGも同時に記録した.独立変数には右腓腹部の筋活動(安静,最大随意収縮)と写真刺激(快写真,不快写真,中性写真)の2つを設け,予備実験の後に9名を対象とした本実験を実施した.実験の結果,最大随意収縮条件に限定的に,快感情写真条件における有意なH反射振幅の増大が確認された.運動課題遂行中における快感情の誘発が脊髄反射運動制御に対して正の効果を産み出すことを示唆した. 実験2では,運動課題のパフォーマンスに対する心理的プレッシャーが脊髄反射運動制御に及ぼす影響を検討した.バランスボード上での右片脚立ちを実施させ,その課題遂行中に実験1と同様に右ヒラメ筋のH反射,右前脛骨筋と右ヒラメ筋のEMGを記録した.プレッシャーには,課題成功に対する報酬1,000円および課題失敗に対する罰1,000円(偽教示)を用いた.予備実験の後に7名を対象とした本実験を実施したが,プレッシャー条件では非プレッシャー条件に比べてH反射振幅の有意な縮小が確認された.プレッシャー下において運動課題を遂行する際に,脊髄レベルの低次な運動制御機能は抑制され,大脳皮質を中心とした高次な運動制御に依存することを示唆した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2カ年計画の当該研究の推進に対して必要不可欠な実験装置として筋電図記録装置,末梢神経電気刺激装置,経頭蓋電気刺激装置を納入し,各装置の使用法をマスターした.さらに,快-不快感情を誘発するための写真刺激としてInternational Affective Picture System(IAPS)を納入し,実験に使用できる写真をピックアップした.2年にかけて当該研究を実施していくうえでの主要な環境整備はできたといえる. また,申請書において平成23年度中に実施することを計画していた2つの実験に関しても,順調に進めることができ,今後の展開の期待が持てる実験結果を得ることができた.両実験の経過に関しては,関西体育心理例会において口頭研究発表を実施し,関連分野の研究者と有意義なディスカッションを交えることができた.また,ヨーロッパ臨床神経生理学会と国際TMS・tDCS会議に参加し,当該研究に関連する研究の国際的動向を把握し,国内外の多くの研究者との交流を深めた.
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に実施した2つの実験をまとめた内容を平成24年6月に開催される北米スポーツ心理学会ならびに日本運動学習研究会において発表する.2つの実験内容や今後の研究推進に対して国内外の研究者から意見をもらう場であるとともに,関連研究の国際的動向について情報収集を行う.さらに平成23年度に実施した2つの実験について,得られた結果がより強固なものであるかを確認するために,さらに実験参加者数を増やすための追加実験を実施していく. また,平成24年度は非侵襲的脳電気刺激による大脳の一次運動野の促通と抑制が運動スキルに及ぼす影響を調べることをメインの目的とする.申請書には,平成24年度中にこの目的に対する2つの実験を実施することを計画した.まず,非侵襲的脳電気刺激(transcranial direct current stimulator: tDCS)による大脳の一次運動野の興奮性を促通ならびに抑制させる技術をマスターし,予備実験を実施していく.その後に,第1実験では運動課題として力量調節課題を用いて,課題パフォーマンスの正確性や,そのために必要な筋活動ならびに動作に対する大脳の一次運動野の促通ならびに抑制の効果を検討する.第2実験では,日常生活における運動課題として書字を取り扱い,書字パフォーマンスや,書字の筆圧,その際の手指や腕の筋活動に大脳の一次運動野の促通ならびに抑制が及ぼす影響を調べる. これらの実験は,大脳の一次運動野の促通ならびに抑制が運動パフォーマンス,動作,筋といった運動スキルに及ぼす影響を明らかにするための基礎研究に位置づけられる.当該研究の結果を基に,スポーツ選手のイップス,音楽演奏家のジストニアといった動作失調障害に対して非侵襲的脳電気刺激による失調改善を目指す研究を進めていく足掛かりを築いていく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度余剰直接経費55,676円と平成24年度直接経費500,000円を合わせた555,676円を以下のように使用する計画を立てている.(1)消耗品費として・・・表面電極20,000円,実験用椅子50,000円,実験用机80,000円. (2)国内旅費として・・・日本運動学習研究会(大阪)40,000円. (3)外国旅費として・・・北米スポーツ心理学会(アメリカ・ハワイ)250,000円. (4)謝金として・・・実験参加の謝礼50,000円,実験補助30,000円. (5)その他・・・研究報告書作成費,論文収集費,印刷費等35,676円.
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