2011 Fiscal Year Research-status Report
運動能力と体温の限界における脳内神経伝達物質の機能的役割
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23700773
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
長谷川 博 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (70314713)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 運動 / 体温上昇 / 神経伝達物質 |
Research Abstract |
暑熱環境下における運動時には体温上昇が促進する。近年は運動時の高体温が暑熱耐性の制限因子となり,末梢及び中枢神経系を介して疲労感を誘発し,運動能力を制限すると考えられている。中枢の要因の一つに脳内神経伝達物質の増減が挙げられ,視床下部のカテコールアミンが運動時の温熱性疲労に関与していることが明らかになりつつある。そこで本研究の目的は,テレメトリー法(無線式小型体温計の埋め込み),脳内マイクロダイアリシス(微量透析)-HPLC法(液体クロマトグラフィー),及び代謝測定法を組み合わせた実験系を用いて,視床下部の神経伝達物質の働きを選択的に修飾した際の運動能力と体温調節反応の関係を明らかにすることであった。 本年度はまずこれまで用いてきた実験環境を整備した。特に微量な脳内神経伝達物質を安定して分析できていなかったため,カラム恒温槽を新たに導入し,HPLCの測定精度を向上させた。その結果,室温や時間に大きな影響を受けることなく,安定してこれらの分析が可能になった。次にこれまで用いていた運動能力を測定するための運動プロトコールを再検討した。これらの作業には時間を費やしたが,今後の実験遂行のためには重要な作業であった。 中立環境(23℃)及び高温環境(30℃)条件における低,中,高強度トレッドミル運動において,腹腔内温,熱産生反応,熱放散反応が運動強度に伴って上昇することを観察した。特に高温環境下においては,体温上昇や体温調節反応の亢進と共に視床下部内のカテコールアミン濃度が上昇することを新たに観察した。さらに中立温度環境下における運動時の薬理刺激は成功したが,暑熱環境下における薬理刺激の効果については明らかな結果を出すことができなかった。したがって次年度は,暑熱環境下運動時の薬理刺激実験を中心に実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで用いてきたテレメトリー法(無線式小型体温計の埋め込み),脳内マイクロダイアリシス(微量透析)-HPLC法(液体クロマトグラフィー),及び代謝測定法を組み合わせた実験系の整備を行った。これらは当初の予定にはなかったが,微量な脳内神経伝達物質を安定して分析できていなかったこと,これまで用いていた運動試験では実験の作業効率などが良くないことなどが問題点として出てきた。したがって,これらの整備を優先的に行った。作業には時間を費やしたが,今後の実験遂行のためには重要な作業と言える。 改良した実験系を用いた結果,異なる環境下におけるトレッドミル運動時の腹腔内温,熱産生反応,熱放散反応が運動強度に伴って上昇することを観察した。特に高温環境下においては,体温上昇や体温調節反応の亢進と共に視床下部内のカテコールアミン濃度が上昇することを新たに観察した。これらの成果から,運動により引き起こされる高体温時の疲労及び暑熱耐性において,視床下部のカテコールアミンが重要な役割を果たしていることが改めて明らかとなった。また,これらの成果を学会や論文として発表することができたことは評価できる。しかしながら,暑熱環境下における薬理刺激の効果については明らかな結果を出すことができなかった。薬理刺激部位や薬理刺激方法などを今後再検討する必要があるが,これまでの研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
神経薬理学的方法を用いた方法により暑熱環境下の運動能力及び体温調節機構に及ぼす影響について検討する。一定期間のトレッドミル運動に慣れさせたラットの腹腔内にテレメトリーを,マイクロダイアリシスのためのガイドカニューラを体温調節中枢に挿入する。回復後,実験前日までに再度2日間運動を行わせる。実験当日,小動物用麻酔装置を用いて,マイクロダイアリスプローブを挿入する。プローブ挿入2時間後からテレメトリーを用いて腹腔内温,呼吸代謝量測定装置を用いて酸素消費量,尾部皮膚温を同時かつ連続的に測定する。これまでに改良したオンライン液体クロマトグラフィーを用いて,微量な神経伝達物質を正確に測定する。トレッドミル運動は,新たに確立した運動強度でラットが運動することが困難になるまで行わせる。薬理刺激は特に暑熱環境下におけるドーパミン作動性神経の修飾に焦点を当てる。その後,ノルアドレナリン作動性神経の遮断薬と促進薬を用いる。 得られた研究成果を国内及び国際学会で発表を行い,さらにこれらの成果を学術論文としてまとめる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
暑熱環境下における薬理刺激の効果については十分な実験ができなかったため,次年度は暑熱環境下運動時の薬理刺激実験を中心に実施する予定である。テレメトリー法,脳内マイクロダイアリシス-HPLC法,及び代謝測定法を組み合わせた実験系を用いて,視床下部の神経伝達物質の働きを選択的に修飾した際の運動能力と体温調節反応の関係を明らかにする。そのため,これらの神経薬理学的手法に関する消耗品(実験動物,ラット飼料,試薬・薬品,マイクロダイアリシスプローブ,HPLC測定用カラム,マイクロダイアリシス・フリームービングユニット,PC)を購入予定である。また,研究成果を発表するため,国内外の旅費を予定している。
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Research Products
(3 results)