2011 Fiscal Year Research-status Report
糖尿病による筋萎縮の予防に向けた血流制限運動の有用性と機序の解明
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23700789
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
須藤 みず紀 福岡大学, 身体活動研究所, ポストドクター (10585186)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 2型糖尿病骨格筋 / エキセントリック運動 / 筋損傷 / 筋再生 |
Research Abstract |
平成23年度は,2型糖尿病誘発モデルであるGoto-Kakizaki ラット(T2D)の骨格筋を対象に,一過性の伸張性収縮負荷に対する抵抗性について組織学的観点より検証を行った.本研究では,雄性の正常ラット(NM)とT2Dラット(10-12週齢)を用いた.麻酔下のラットを小動物運動装置に固定し,前脛骨筋(TA)への電気刺激を伴った足関節背屈による伸張性収縮40回を負荷した.ECC負荷後,1,3,7,14日(各群n=4-6)に筋を摘出して,作成した組織切片に各染色を施し,筋損傷-再生割合について評価した. ECC負荷時における平均発揮張力は,T2D(5.9+/-3.7 mNm)がNM(11.1+/-5.2 mNm)よりも有意に低い値を示した.TAの体重あたりの筋重量は,T2D(0.40 +/- 0.03 mg/g)がNM(0.45+/-0.02 mg/g)よりも有意な低値を示した.ECC負荷による筋損傷の発生は,NMでは1~3日後であったが,T2Dでは,7日後まで延長していた.筋損傷割合は,1,3日後においてT2D(1日:14.8+/-4.8%,3日:35.6+/-7.0%)がNM(1日:6.2+/-2.5%,3日:29.6+/-12.3%)よりも有意に高かった.再生過程である7,14日後において,NMは中心核を有する再生筋の出現,新生筋線維の出現が観察された.しかしながら,T2Dは7日後において炎症応答がみられ,再生過程は14日後でも継続して観察された.再生筋線維の割合は,7日後においてT2D(5.4+/-3.4%)がNM(18.1+/-10.1%)よりも有意に低かった(p< 0.05).これらの結果より,T2Dの骨格筋は,ECC負荷による発揮張力がNMよりも低いにも関わらず,物理的ストレスに対する抵抗性が低く,さらに再生過程の遅延が生じることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,2型糖尿病の進行による骨格筋の萎縮を対象とした,筋損傷を介さず筋肥大を誘発する血流制限を伴った伸張性運動(ECC)により筋量を保つ新しい運動処方のストラテジーの提唱を目的としている.平成23年度は,一過性のECC運動負荷,および血流制限を伴った負荷に対する抵抗性の検証を実施した.抵抗性の評価として,組織学的観点からの検証は順調遂行されているが,血流制限の影響を循環の観点から評価する必要がある.研究計画に記した"筋細胞内の酸素分圧"の測定は,現在進行中である.したがって,本研究は,おおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,前年度から継続し,血流制限による影響を循環の観点より明確にする実験を遂行する.ECC運動による抵抗性の評価,血流制限による影響を明らかにした上で,トレーニング実験の実施を慎重に検討する. 実施可能であると判断した場合,一過性モデルにおける知見をもとにして実験条件を設定し,血流制限,ECC運動,血流制限+ECC運動のトレーニングモデルにおける組織学的検証を行う.定期的な血流制限+ECC運動の効果として,筋収縮時の最小酸素分圧までの時間(時定数),毛細血管密度,発揮張力を検証する .また,血流制限+ECC運動による筋量維持・肥大効果については,筋重量,蛋白量,筋細胞横断面積の解析により評価する. 血流制限を伴ったECC運動が予想以上に強いストレスとなり,トレーニングの効果が得られないと判断した場合は,解析結果より何が要因で効果が得られないのかを生理学的に明確にし,運動の条件・解析方法を再検討した上で,新たなトレーニング負荷モデルの検証を実施する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度の繰り越しの研究費は,血流制限による筋細胞内における酸素分圧測定に関する消耗品費として計上する.また,平成24年度は,トレーニング実験を中心に展開することから,実験動物と新たな分析項目に必要な試薬が必要となることが予想される.さらに,平成23年度の成果が大変興味深い知見であることから国内外の学会や研究会で発表する予定をしており,国内旅費・海外旅費も併せて計上する.
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