2011 Fiscal Year Research-status Report
脳機能イメージングを用いた気質・性格とストレス反応に関する研究
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23700805
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
山野 恵美 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (40587812)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ストレス / 脳磁図 / 個人差 / 気質 / 周波数帯域 |
Research Abstract |
本研究では、脳磁図(MEG)を用いて、気質・性格により精神的ストレス負荷時の生体反応が脳機能レベルでどのように類別化されるかを検証する。また、心電図、各種質問紙データなど生理学・行動学的データも合わせて評価を行い、気質・性格尺度を用いて測定した個人特性との関連性を検討することを目的とした。本年度は試験で用いる実験パラダイムとして、ストレス負荷及びコントロール課題の基礎検討を行った。課題前後を比較して、主観的ストレス度の増大や唾液コルチゾール、心電図による自律神経系の評価により、負荷後の主観及び客観評価に再現性が認められる課題の設定を行い、適切な負荷時間内にストレスを誘発する課題を確立した。健常成人13名を対象に、2種類の課題を用いて試験を実施した。試験中は、脳神経活動をMEGで計測し、心電図モニタリングを行った。各課題前後には質問紙検査、唾液中コルチゾール採取を行った。MEGデータは等価双極子推定法、空間フィルター法を用いて解析した。対象者のうち、非常に高い新奇性追求(好奇心旺盛)かつ低い損害回避(心配性)特性が認められた者はストレス負荷課題後、安静開眼時にα帯域(8-13Hz)のパワーの増加が後頭部に認められ、その程度はコントロール課題後より強く観察された。また、ストレス課題直後の自律神経系活動、主観評価において上記の特性をもたない者と異なる反応が確認された。気質・性格がストレスに対する生体応答に影響していることが示された。今後は、生理学・生化学・行動学的データ及びMEGデータを統合的に評価したうえで、気質・性格とストレスに対する生体応答パターンの関連性を検証する予定である。将来的には本尺度を生体レベルで検証されたツールとして、ストレス性疾患の予防、早期発見や認知行動療法を含めた治療法の開発にも応用したいと考えており、その医学的意義は大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
精神的ストレス負荷の手法としては、国際的に標準化された情動スライド(international affective picture system; IAPS)を用いた課題の設定を検討した。パイロット試験において、被験者に課題を呈示した後、Visual Analogue Scale (VAS)による主観評価、およびストレスのバイオマーカーとして用いられる唾液中コルチゾール濃度、自律神経系活動による評価を行ったところ、被験者にストレスを誘発する課題として成立していると考えられた。コントロール課題は、輝度・明度を考慮し、ストレス課題で使用したスライドをモザイク化して構成した。初年度の計画どおり、ストレス負荷およびコントロール課題を確立することができた。これらの課題を用いて、現在までに、13名の健常成人を対象に試験を行った。全対象者において、試験環境もしくは設備の不具合が発生することなく、プロトコル通りに実施することができた。採取した唾液の解析も、長岡技術科学大学の連携協力者とスムーズに遂行することができている。気質・性格尺度で測定した結果、対象者は非常に高い新奇性追求(好奇心旺盛)かつ低い損害回避(心配性)特性の者とそれ以外の者に2分されることが確認され、ストレス負荷課題直後の脳機能活動や自律神経系活動が、この2群において、異なることが観察された。これらの結果は、気質・性格が精神的ストレスに対する脳機能活動をはじめとする生体応答と関連していることを示唆する。次年度以降、さらなる詳細な解析を行う予定にしているが、ストレス応答パターンの評価指標を検討していく上で本結果は有用であると思われ、初年度の進行状況としてはおおむね良好であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は、13名の健常成人を対象に試験を実施した。気質・性格尺度により、対象者は非常に高い新奇性追求(好奇心旺盛)かつ低い損害回避(心配性)特性をもつ群(5名)、その特性を持たない群(8名)で2分され、精神的ストレス負荷課題直後の脳機能活動や自立神経系活動をはじめとする生体応答および質問紙による評価がこれらの2群で異なることが確認できた。近年のMEGを用いた実験の関連研究を参考にすると、概ね、被験者を各群10名としている報告が多い。このことを考慮すると、本研究においても結果の妥当性を確立するために、全体で20名以上を目標にさらに被験者を増やし、生体応答パターンの比較分析を行いたいと考えている。MEGデータに関しては、初年度ではストレスおよびコントロール課題直後の脳機能活動を等価双極子推定法、空間フィルター法を用いて、群内の個別解析結果をもとに比較検討した。今後は課題中の脳機能活動も含めてBEATS法(Beamforming Eurythmics by Adaptive Technique with Statistics)により、律動解析を行う。その際、α帯域(8-13Hz)のみならず、θ帯域(4-8Hz)、β帯域(13-25Hz)も含めて解析する。合わせて脳機能解析ソフトSPMを用いて群別のグループ解析も行い、さらに詳細にストレス負荷に対する脳活動を検証し、気質・性格との関連性を検討する。試験中に採取した唾液中コルチゾールに関しては、長岡技術科学大学の連携協力者とともに、解析および結果の解釈を行う。最終的には、生理学・生化学・行動学的データおよびMEGデータを統合的に評価したうえで、気質・性格とストレスに対する生体応答パターンの関連性を検証したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
MEGデータを詳細に解析するための専用解析ソフト、解析データ保存用ディスクなどの消耗品、結果の妥当性を確立するため、さらに被験者を増やして実験を行うことを予定しており、リクルートにかかる費用および実験協力の謝礼金、解剖学的な情報を取得するための磁気共鳴画像検査(MRI)費用、被験者より採取したコルチゾール(1名あたり合計6回採取)測定に必要な解析キット費用が必要である。他、印刷費や通信費も試験遂行上、必要な経費に含まれる。また、本研究分野に関連する学会、研究会における成果発表や有識者との打ち合わせのための旅費、研究成果をまとめ英文誌に投稿するための英文校閲費や投稿費も必要である。
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