2012 Fiscal Year Research-status Report
認知症発症予防にペットは活用できるのか―コホート研究による検討
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23700863
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
山崎 由花 順天堂大学, 医学部, 助教 (80579293)
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Keywords | ペット / 高齢者 / 認知機能 / Quality of Life / コホート研究 |
Research Abstract |
具体的内容:我が国は超高齢化社会を迎え、認知症患者も増加している。ペットは高齢者のストレスを緩和し、健康増進に寄与すると欧米諸国を中心に研究されてきたが、横断研究(一時点のみの評価)が中心で結果に一貫性がない。申請者は、平成23年から東京都杉並区の浴風会病院で65歳以上の外来受診者と付添家族を対象に、ペット飼育と生活習慣を調べる質問票調査を行い、その後、心理検査を行っている。最終的には、平成23年度のペット飼育状況が、その後の認知機能、精神状態、QOL(Quality of Life)に与える影響を平成26年まで追跡し統計学的に評価する。 意義:本研究の最大の強みは、「ペットが高齢者の健康に与える恩恵」について縦断研究(長期にわたる研究)を試みる点で、一貫性を示せなかった研究の答えを導ける可能性がある。また、ペットと認知機能については、施設の認知症患者に動物介在療法を行った研究は存在し、認知機能の改善をみとめている。しかし、人と生活を伴にするペットと認知症発症の関連を探った研究は見当たらない、さらに、動物を使役動物や経済的価値を与えてくれるものとして飼育してきた欧米諸国と異なり、日本ではペットとしての飼育が主である。また、最近では、少子化、核家族化、独居の影響で、ペットの擬人化、家族化が指摘されており、欧米諸国と文化背景の異なる日本でペットと人間の健康の関係を調べることは意義がある。 重要性:ペットが高齢者の孤独を緩和し、精神状態を安定させ、身体活動量を上昇できれば、QOLの上昇につながる。そして、それらの結果、認知機能が維持できれば、ペットは単なる癒しの効果だけでなく、認知症発症の予防の1手段として利用できるに違いない。また、本研究はペットを飼うことを迷っている高齢者の判断材料の1つになり、将来的にはペットと入所できる高齢者施設等の設立にも寄与するであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
以下の3つの要因から進行が遅れている。 ①対象者の変更:研究費の申請・交付の時点では、杉並区の在宅高齢者から構成される浴風会病院の既存コホートを用いて、追跡開始時点(平成17年)のペット飼育と、その後の認知機能や各心理検査の項目の関連を後ろ向きコホート研究で把握する予定であった。しかし、杉並コホート対象者のリクルート時点での研究目的と本研究の目的が異なるため利用できず、倫理委員会の承認を受けた後、平成23年(2011年)9月から、申請者、自らが対象者のリクルートを初めから行っている。 ②リクルートが困難:統計学上は「ペット飼育群27名、非飼育群108名で、脱落者を見込むと両群で155名」のサンプル数が必要と計算されたが、実際、リクルートできたは85名だった。脱落者を入れると79名である。リクルートに当たり、申請者の患者家族には、くまなく調査協力を依頼した。また、浴風会病院の医局会でも、他の医師に調査協力の依頼を何度となくしたが、協力を得にくかった。多忙な外来中に、患者への調査説明は難しいこと、患者が高齢で、調査の説明が混乱を招くこと、医療スタッフを煩わしたくないなどの複雑な要因が考えられる。ただ、155名の目標が到達できない場合でも欧米との文化的な背景の相違がペット飼育に及ぼす影響など一定の成果は報告可能である。 ③脱落者が多い:昨年度、調査をした者には、追跡調査を行っているが、対象者が高齢であるためか、1年で6名の調査協力者が、同意を撤回した。撤回の理由は、「配偶者が施設に入所し息子の家に転居した、配偶者が寝たきりになり介護のため外出できない、調査へ協力する気が失せた」などであった。また、連絡がとれず、撤回書を送ったところ、家族が撤回書を書いて返送してきた例もあり、対象者が入院、入所、または、死亡した可能性も考えられる。今後も、撤回者は増えることが考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年(2013年)2月の時点で、85名の問診票の調査協力を得ることができた。そのうち、10名が今後の調査を拒否した。対象者の平均年齢は76±7.1歳で、男性が38名、女性が47名であった。調査協力者85名のペット飼育状況は、23.5%(20名)であり、10名が犬、10名が猫を飼っていた。また、猫の飼育者のうち2名が、それぞれ、亀とウサギも飼っていた。 85名の調査協力者のペット飼育と生活習慣ついて横断的に関連を調べたところ、有意差は認めなかった。しかし、ペット飼育と各心理検査の関連を調べたところ、ペット飼育者の方がSF8のRP(日常役割機能)が非飼育者よりも低く、「身体的な理由でいつもの仕事や家事が妨げられた」と回答する傾向にあった。この結果は、縦断研究でさらに検討する必要がある。 また、昨年度調査を行った対象者には、平成24年(2012年)10月から追跡調査を行っている。現在、41名の追跡調査が終了した。追跡調査の段階で、6名が調査協力を撤回した。平成23年度(2011年)のペット飼育は、MMSEをはじめとする心理検査と関連を認めなかった。昨年度のペット飼育者のうち1名の犬が死亡してた。 今後は、さらに、リクルートと、追跡調査を継続し、コホート研究を完成させていく。また、ペットが死亡した対象者は、ペットが死んだことで、認知機能や心理テストの結果が悪化する可能性があり、別個に追跡する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(次年度の研究費の使用計画) 平成25年度は、さらに多くの対象者をリクルートし、質問票調査、心理検査を行う。そのため、心理検査用紙の購入費用、対象者への謝金、そして、調査にかかる交通費が必要である。また、追跡調査も同時に行っていき、その際も心理検査用紙、謝金、交通費は必要である。さらに、現在、横断研究の結果を英文論文として執筆中である。
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Research Products
(6 results)