2011 Fiscal Year Research-status Report
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23700869
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
松田 靖弘 静岡大学, 工学部, 助教 (40432851)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 繊維科学 / 高分子物理化学 / 表面科学 |
Research Abstract |
ポリエステルの表面物性解析としては、生産時に環境負荷が低い高分子繊維として注目を集めているポリ(L-乳酸)を対象に選んだ。表面物性評価では溶媒キャストによって薄膜を作製して測定に用いる。ポリ(L-乳酸)では用いる溶媒の種類によっては、溶媒と複合体を形成して結晶形が変わり、場合によってはゲル化することを発見した。溶媒との相互作用機構を解析し、溶媒キャストに適した溶媒を探索した。このような性質は溶液紡糸、ゲル紡糸によって作製される繊維の性質に大きく影響を与える可能性がある。ナイロンの表面物性解析の対象には、ナイロン39を選んだ。ナイロンの物性は高分子鎖間に形成される水素結合の影響を大きく受けるが、ナイロン39は水素結合を形成すると歪んだ分子構造になるために水素結合の安定性が低く、外部刺激によって水素結合の状態を比較的容易に変化させることが可能である。ナイロン39に直流・交流の電場をかけた際の水素結合の状態の変化とそれに伴う誘電率等の電気物性の変化を調べた。この性質は微細繊維を作製する際に用いられるエレクトロスピニング法等の電場を用いて紡糸する繊維において極めて重要である。同様に極性を持つポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデンについても表面物性を解析した。ポリカーボネートでは薄膜形成、粉砕等によって比表面積を増やした試料では表面に分子運動性が高い相ができることを明らかにした。この性質はポリカーボネートの高い耐衝撃性の要因の一つになっており、高分子の表面相が全体の物性に大きな影響を与えていることを示した。ポリフッ化ビニリデンでは繊維に結び目を形成させることによって融点の高い相が形成されることを見出した。繊維を布にする際には繊維どうしを絡ませ合う必要があり、絡み合い点、結び目における高分子繊維の物性の変化が布の風合いに影響を与えることを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ポリ(L-乳酸)では溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを用いると、ポリ(L-乳酸)とN,N-ジメチルホルムアミドが複合体を形成し、ポリ(L-乳酸)が通常のアルファ結晶からイプシロン結晶に変化することをX線回折測定から確認し、得られたゲルの粘弾性測定からイプシロン結晶が流動を阻害してゲル化させていることが分かった。布の風合いに影響を与える繊維高分子の表面物性評価を調べると言う点では、順調に研究が進んでいると考える。ナイロン39の研究では、赤外分光測定の結果より、直流・交流の電場を印加した試料では水素結合が弱まっていることが分かり、誘電緩和測定、分極反転測定より、一部の水素結合が切れてアミド基がイオン化していることが示唆された。ポリカーボネートは溶媒キャストおよびボールミルを用いて作製した比表面積の大きな試料、ポリフッ化ビニリデンは荷重をコントロールして結び目を作製した試料をそれぞれ用意して、示差走査型熱量分析を行った。その結果、比表面積の大きなポリカーボネートはガラス転移温度の減少がみられ、ポリフッ化ビニリデンは結び目部分で結晶融点の上昇が見られた。これらの性質は布の風合いにおいて高分子繊維の表面物性の重要性を示すだけでなく、同様の実験手法によってポリエステル、ナイロンにおいても表面物性の評価ができる可能性を示している。一方で、繊維の物性に大きな影響を与える高分子の分子量測定に関しては、ゲル浸透クロマトグラフィーで新しい検出器を購入してより正確な値を求めることを目指したが、高分子の種類によっては溶媒・測定カラムの選択が難しく、十分な結果を出せなかった。今後、別の測定手法を検討する必要があると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ポリ(L-乳酸)ではゲル化を引き起こす溶媒と、そうでない溶媒で溶媒キャストによって薄膜を作製し、両者の物性の比較を行う。場合によっては、故意に溶媒蒸気に曝した状態の薄膜を作製し、物性を比較する。特に、平成23年度の研究では十分に分からなかった溶媒と複合体を形成したポリ(L-乳酸)の分子運動性を示差走査型熱量分析などから明らかにする。ナイロン39に関しては、平成23年度に得られたデータを基に学術雑誌に論文を投稿し、必要であれば追加実験を行う。また、他の種類のナイロンに関しても同様の実験や、溶媒に曝された際の物性の変化に関する実験を行う。具体的には水を吸着させた状態のナイロンの示差走査型熱量測定によってガラス転移などの分子運動性を評価し、X線回折測定からナイロン内の構造を評価する。ポリフッ化ビニリデンに関しては、現在得られた結果を学術雑誌 (Journal of Applied Polymer Science誌) に投稿中であり、必要であれば論文が受理されるように論文を書き直す。一方で、高分子繊維の分子量評価においては、ゲル浸透クロマトグラフィーに加えて光散乱測定を行う予定である。ゲル浸透クロマトグラフィーでは、高分子試料が測定溶媒に溶解したとしても、高分子試料が測定カラムに吸着して測定できない場合があり、また測定系によっては適当な標準試料の入手が困難である。これに対して、光散乱測定では高分子溶液に可視光を照射し、散乱光を分析するために測定カラムは必要ない。また、絶対的な分子量が得られるために標準試料も用意する必要がない。光散乱測定から正確な分子量測定が可能になり、繊維高分子の分子運動性や布の風合いへの影響を評価することを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度では繊維高分子の分子量決定のために主にゲル浸透クロマトグラフィーを用いる予定であったが、測定高分子にあった測定溶媒、カラムの選択が難しく、当初期待していた成果が得られなかった。そのため、ゲル浸透クロマトグラフィー関連の物品費のうち、低濃度でも高感度の紫外可視検出器と極性溶媒で使用可能な分析カラムのみ支出し、その他の支出を控え、光散乱測定装置関係の物品費に充てるために「次年度使用額」として残した。光散乱測定には既存の大塚電子製DLS-7000を用いるが、現状では経年劣化によって必要な性能を得られない。そのため、新たに光源のレーザーと散乱光検出器を導入し、測定感度を増大させる。また、傷みが激しい測定用光学セルなどの消耗品・附属品なども更新していく。これらに加えて、測定に必要な試料・薬品類、およびガラス器具類などの購入に物品費を充てる。旅費としては、第61回高分子学会年次大会、平成24年度繊維学会年次大会、2012年度日本接着学会年次大会、第61回高分子討論会、第60回レオロジー討論会などの国内学会への参加・発表に加えて、国際学会であるThe 9th SPSJ International Polymer Conference (2012年12月に神戸市で開催予定) に参加・発表するために使用する。また、光散乱計のレーザー、検出器の設置に関しては専門知識が必要となるために、装置のメーカーに設置費用を支払う。また、本研究の成果を海外の学術雑誌に投稿する際の英文校正費にも使用する。
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Research Products
(10 results)