2011 Fiscal Year Research-status Report
皮革塗膜の接合性を高める生分解性ポリマーを用いた新機能性バインダーの研究
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23700872
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Research Institution | Mukogawa Women's University |
Principal Investigator |
中野 由美子 武庫川女子大学, 生活環境学部, 助教 (90581926)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | キトサン / ポリビニルアルコール / 皮革 / 生分解性 / 抗菌性 / 耐屈曲性 / バインダー |
Research Abstract |
これまでの研究として、合成高分子の中でも特異な水溶性と生分解性を有するポリビニルアルコール(PVA)と、天然高分子の中でセルロースに次いで生産が多く生物資源として有望視されているキトサンによるブレンド溶液及びフィルムを作成し、延伸性、生分解性、抗菌性を有することが確認できたことから、その応用として本研究では、PVAの優れた接着性とキトサンの抗菌性を併せ持つ、PVA-キトサンブレンド溶液を、皮革への塗膜(顔料、各種仕上げ剤)との接合性を高めるバインダーとして用いた場合の有用性について検討した。まず、先の研究と同様のポリマー作成装置を設置して実験環境を整えた後、皮革試料への塗布に適したポリマー作成条件を実験により決定した。それと並行し、専門機関との情報交換をおこない、種類の多い皮革試料から実験に適した試料を得るために今年度購入した「フレキシオ耐屈曲性試験機」等を用いて、バインダーと皮革の接合性についての予備実験をおこない、屈曲による各種皮革試料表面の耐久性について実験をおこなった。皮革への塗装は、製品革の最終的な品質性能を決定する重要な作業であり、よって皮革と塗膜の結合を助けるバインダーには高い性能が要求され、塗膜の剥離や顔料の色褪せ及び色移りなどに起因し問題となることから、本実験で用いるポリマーについて、折り曲げても塗膜が亀裂、剥離することなく、伸びが大きく、耐屈曲性を有する作成条件を検討した。 また、皮革は水の影響を受けやすくカビの発生率が高く、このことが皮革素材の取り扱いを難しくさせている。これらの皮革に生じる問題を未然に防ぐことができる、抗菌性および生分解性を兼ね備え、取扱いの難しいとされる天然素材の普及に繋がるよう、本研究ではPVA-キトサン溶液をバインダーに用いた場合の抗菌性及び生分解性について検討するため、次年度に向けた試料及び実験実施のための準備をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究計画として、実験環境の整備、試料の準備、生分解性実験、物性試験、抗菌性試験の試料準備などをおこない、次年度への研究に繋げる予定であった。実験装置の設置からおこなったことで、希望の機器類の購入に時間を要したこと、皮革試料の選定に予備実験が必要となったために、当初の計画であった生分解性実験の開始が遅れてしまい、今春より実施予定である。(適した実験条件のもとで実施したかったことから、冬期の実施を見送ったため。) やや遅れ気味であるが、当初より、実験環境が変わり準備に時間を要することを考慮して研究計画をたてていたが、やはり若干時間を要したことは否めない。しかし、研究条件に大きく影響される皮革試料を取り扱う上では、予備実験も重要であり、データを積み重ねることによって適した条件を見出すことに繋がり、次年度に向けた研究に期待できる結果を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度おこなった皮革試料の顔料塗布膜の物理強度(剥離、摩擦による汚染、引張り強度など)などの予備実験及び皮革試料に適したバインダーの条件結果を踏まえ、PVA-キトサンブレンド溶液をバインダーとして塗布した皮革試料について、土壌埋没試験により生分解性に関する実験をおこなう。1か月毎に採取した皮革試料についてデジタルマイクロスコープによって表面観察をおこない、さらに詳細を電子顕微鏡によって高倍率まで観察し、どのような状態で分解が進行していくのか経時的変化をみる。また一方、外部へ抗菌性試験を依頼し、キトサンの抗菌性がどの程度皮革試料に有効であるのかを検討する。さらに、皮革製品は梅雨の時期にカビが発生しやすいことから、高湿度の環境下に皮革試料を設置し、PVA-キトサンブレンド溶液をバインダーとして塗布した皮革試料のカビの発生状態についてデジタルマイクロスコープ及び電子顕微鏡を用いた表面観察をおこない、皮革に生じる問題を未然に防ぐことができ、さらに他の素材への応用も視野に入れ、取扱いの難しいとされる天然素材の普及に繋がる研究とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験装置等の準備は整ったことから、より多くの各種皮革試料の購入、生分解性及び抗菌性試験の実施に必要となる物品の購入や試験機関への依頼、それらの実験により皮革表面にどのような変化が生じているのかを観察するため、次年度は物品費(設備備品)として「デジタルマイクロスコープ」を購入予定としている。今年度実施した「フレキシオ耐屈曲性試験機」による各種皮革試料表面の耐久性試験による屈曲後の試料についても、デジタルマイクロスコープによる微視的な観察をおこない、皮革と塗膜の結合を助けるバインダーへの有用性、また塗膜の剥離や顔料の色褪せ及び色移りなどが生じていないか等を明らかにするために用いる。 その他、皮革試料表面の水分量を測定するため水分計の購入、情報収集のため専門機関への出張、学会での口頭発表などに研究費を使用する計画である。
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