2012 Fiscal Year Research-status Report
皮革塗膜の接合性を高める生分解性ポリマーを用いた新機能性バインダーの研究
Project/Area Number |
23700872
|
Research Institution | Mukogawa Women's University |
Principal Investigator |
竹本 由美子 武庫川女子大学, 生活環境学部, 助教 (90581926)
|
Keywords | 皮革 / バインダー / キトサン / ポリビニルアルコール / 耐屈曲性 / 生分解性 / 抗菌性 / 防カビ性 |
Research Abstract |
本研究では、合成高分子の中でも特異な水溶性と生分解性を有するポリビニルアルコール(PVA)の優れた接着性と、天然高分子の中でセルロースに次いで生産が多く生物資源として有望視されているキトサンの抗菌性を併せ持つ、PVA-キトサンブレンド溶液を作成し、皮革素材と塗膜(顔料、各種仕上げ剤)との接合性を高めるバインダーとして用いた場合の有用性について検討をおこなっている。 前年度に設置したポリマー作成装置を用いて、同じく前年度の予備実験により得られた最適な条件でのPVA-キトサンブレンド溶液を作成し、その溶液を低温プラズマ処理を施した皮革試料に塗布した後、さらに顔料を塗布して試験片とし、「フレキシオ耐屈曲性試験機」を用いて屈曲試験をおこない、バインダーと皮革表面、バインダーと顔料塗布膜の接合状態の変化を「デジタルマイクロスコープ」及び電子顕微鏡で観察し、物性的にも良好であることが示された。さらに、バインダー塗布皮革試料を土壌に埋没させて生分解性の実験を試み、1カ月毎に試料を採取して、試料表面及び内部を電子顕微鏡で観察したところ、かなりの劣化と生分解している部分も観察された。 また、皮革は水の影響を受けやすくカビの発生率が高いため、このことが皮革素材の取り扱いを難しくさせている。そこで、まず皮革素材がどのような状態であればカビが発生するのか、またはカビの発生を抑制できるのか、さらにその方法を検討した。一般的な皮革素材に保湿剤及び撥水剤を塗布し、室温及び高湿度下で放置した場合の皮革表面の変化を「デジタルマイクロスコープ」で観察し、放置中の重量変化から吸湿率を算出するとともに、水接触角による撥水性の確認をおこなった。その結果、保湿剤のみではカビの発生を早める傾向が示されたが、撥水剤を併用することによって、吸湿性が減少するため、カビの発生を抑制する効果が期待できることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究計画として、物性試験、防カビ効果の検討、生分解性試験、抗菌性試験などをおこない、最終年度として研究結果報告をおこなう予定であった。 物性試験、生分解性試験については実施でき、一応の結果を得ることができたが、実験実施の遅れもあり、分析及び測定結果をすべてまとめきれておらず、防カビ効果の検討においては、予備実験を終えたところであり、皮革表面にバインダーとしてPVA-キトサンブレンド溶液を塗布した試料による実験は、現在継続中となっている。また、抗菌性試験の依頼が補助事業期間に実施できない見込みであったことから、補助事業の期間延長を申請したところ承認され、次年度も継続して本研究を実施できることとなった。 よって、ある程度の結果を得られているものの、さらに詳細に検討すべき点も多く残されており、補助事業の期間延長も承認されたことから、今年度の結果の分析及び考察をより充実させ、これらを充分に踏まえて、現在継続中の防カビ効果の検討と、抗菌性試験を今後実施する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず外部へ抗菌性試験を依頼し、キトサンの抗菌性がどの程度皮革試料に有効であるのかを検討する。 さらに、今年度の防カビ効果の検討によって、皮革表面に保湿剤のみ塗布した場合はカビの発生を早める傾向が示されたが、撥水剤を併用することによって、吸湿性が減少するため、カビの発生を抑制する効果が期待できることが示唆された。このことから、次年度は、PVA-キトサンブレンド溶液を塗布した皮革試料を用いて、同様の実験をおこない、カビの発生状態についてデジタルマイクロスコープ及び電子顕微鏡を用いた表面観察、放置中の重量変化から吸湿率を算出するとともに、水接触角による撥水性について検討し、本研究で作成したPVA-キトサンブレンド溶液によるバインダーの防カビ効果の有無を実証する。 また、今年度実施した、PVA-キトサンブレンド溶液をバインダーとして塗布した皮革試料の土壌埋没試験による生分解性に関する実験結果について、デジタルマイクロスコープ及び電子顕微鏡を用いて分解の進行過程の観察はおこなったが、次年度はバインダーと塗膜及び皮革との接合性部分のより詳細な視覚的検証ができればと考えている。 次年度はより詳細に実験結果を分析することによって、皮革に生じる問題を未然に防ぐことができ、さらに他の素材への応用も視野に入れ、取扱いの難しいとされる天然素材の普及に繋がる研究とする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
抗菌性試験の実施を予定しており、その準備のために必要となる消耗品、試験に要する費用、依頼及び打ち合わせのために現地へ赴く旅費を使用する計画である。本研究において、抗菌性を有するキトサンを用いた皮革用機能性バインダーの効果によって、皮革で最も問題となるカビの発生を未然に防ぐ可能性を立証するため、抗菌性試験の実施は必要不可欠であり、高湿度の日本において、皮革素材の取り扱いを容易にし、優れた天然素材の普及につながる研究成果が期待できる。 さらに研究結果の報告として、日本繊維製品消費科学会が主催する2013年年次大会において口頭発表をおこなうため、当日の参加費及び旅費を研究費より支出する予定である。
|
Research Products
(1 results)