2012 Fiscal Year Research-status Report
発酵食品の熟成期間における物質と微生物に関する生物有機化学的研究
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23700884
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
杉山 靖正 鹿児島大学, 水産学部, 准教授 (90347386)
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Keywords | 発酵食品 / 未利用資源 / 機能性 |
Research Abstract |
発酵食品の風味および機能性には、様々な化合物が熟成過程で微量な有効成分へ変化することが必要であるが、熟成過程における化合物の変化に関する知見は少なく、特に未利用資源を用いた食品では検討されていないのが現状である。そこで本研究では、有効利用と機能性の観点から、未利用資源の発酵食品原料としての可能性の追求と含まれる機能性物質に焦点を当て研究を行った。 まず、廃棄処分対象のエビ頭部および駆除対象のガンガゼを材料として選び魚醤油の作成を試みた。エビ頭部は水を加え茹でた後、塩、醤油麹を加えた。ガンガゼは生殖腺のみを取り出し、水、塩、醤油麹を加えた。9ヶ月間室温で静置後、ろ過、火入れ作業を行い2種類の魚醤油を作成した。次に、作成したそれぞれの魚醤油に含まる遊離アミノ酸分析を行った。エビ頭部を用いた魚醤油は、アルギニン、スレオニン、セリン含量が極めて低く、100mlあたり189mgのタウリンを含むことが明らかになった。ガンガゼを用いた魚醤油は、エビ頭部魚醤油と同様に3種類のアミノ酸含量が極めて低く、100mlあたりのタウリン含量は72mgであったが、GABA(γ-アミノ酪酸)は26mg含まれることが明らかになった。続いて、作成した魚醤油の抗酸化活性をDPPH(2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl)法により測定したところ、ナンプラーと比較してガンガゼ魚醤油は同程度、エビ頭部魚醤油は非常に高い活性を有することが明らかになった。そこで、エビ頭部魚醤油を溶媒分画し酸性、中性、塩基性画分を得た。さらにDIAION HP-20を用いて分画し、高極性および低極性画分を得た。得られた全ての画分は非常に高い抗酸化活性を有することが明らかになり、含まれる抗酸化物質の多彩さが推定された。 本研究により、未利用資源の食品素材としての利用価値が明らかになるとともに機能性を併せ持つことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、未利用資源であるエビ頭部とガンガゼを材料として魚醤油を作成することに成功し、遊離アミノ酸含量などの基本的な分析が済んでいることから、おおむね順調に進展しているといえる。さらに、作成した魚醤油が高い抗酸化活性を有すること、含まれる抗酸化物質の種類や量が多いことが推定され、活性の本体である化合物の取得といった今後の課題が見い出せたことも、研究を推進する上で大きな収穫といえる。 2種類の魚醤油はともにアミノ酸含量が低いため、現段階で調味料としての利用価値は低い可能性もあるが、タウリンやGABA等の機能性物質を比較的多く含むことは興味深い。また、高い抗酸化活性有し、このことは今までに明らかになった成分以外の化合物によるものと考えられることから、詳細を明らかにすることで新規化合物の取得にも期待が持てる。アミノ酸含量の増加や旨味研究へも発展性があり、今後の研究の方向性は多岐にわたるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
未利用資源を用いて作成した魚醤油には、多彩で高い抗酸化活性を示す化合物が豊富に含まれていることから、まだ多くの機能性を有することが予想される。そこで、機能性研究としては抗酸化活性に留まらず、医薬分野への利用を念頭に置き、今後も引き続き魚醤油の製造と機能性に関する研究、および機能性物質の取得に向けた研究を展開していく予定である。 具体的には、まず魚醤油の作成規模を拡大し、機能性物質の取得を目指す。機能性物質としては、現段階で明らかになっている抗酸化物質に注目して研究を進めるが、以後の機能性に関して得られた知見によっては、活性の対象を柔軟に変化して探索研究を行う予定である。また、発酵過程の基礎レベルでの解析も重要と考え、小規模発酵を行う予定である。ここでは温度や時間などの発酵条件と機能性との関係を詳細に検討することにより、最適な発酵条件を見い出すことを目的とする。さらに、未利用資源を材料とした魚醤油の機能性に関して、各種酵素阻害、抗菌および抗腫瘍などの活性評価を行うことを計画している。 本研究では大量の材料を必要とするが、廃棄および駆除対象の部位および生物を材料に選択していることから、入手は比較的容易である。魚醤油の作成についても経験があるため、現段階では大きな問題はない。 これまでに得られた研究成果は、学術論文および学会等で発表することを計画しており、今後得られる成果についても随時発表する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
交付額の全てを試薬、ガラス器具等の消耗品の購入に充てる予定であるが、本課題を進める最善の方法を考えたうえで研究費を使用する予定である。 また、研究遂行に必要と考えられる試薬等の購入を優先するが、出来る限り研究成果の発表にかかる費用にも充てたいと考えている。
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