2011 Fiscal Year Research-status Report
胎盤性レプチン発現に及ぼす母体必須金属栄養状態の影響
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23700933
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Research Institution | Osaka Ohtani University |
Principal Investigator |
上田 英典 大阪大谷大学, 薬学部, 助教 (50419462)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 必須金属 / レプチン / 胎盤 / 妊娠 |
Research Abstract |
脂肪細胞より分泌され,摂食抑制・体重減少作用を示す因子として同定されたレプチンは,ヒト胎盤絨毛細胞においても発現しており,胎盤由来ホルモンとして母体インスリン感受性や糖・エネルギー代謝調節を介し,胎児の発育や胎盤機能の調節に関与している可能性が示唆されている.一方,母体の食餌由来必須金属栄養状態の変動は,胎盤における必須金属輸送や性ステロイドホルモン合成に影響を与え,胎児の発育に重大な影響を及ぼす.そこで,胎盤におけるこれら因子の関係を調べるため,ヒト胎盤絨毛細胞株JEG-3を用い,必須金属濃度の変動がレプチン発現に及ぼす影響,およびレプチンが胎盤の必須金属代謝や性ステロイドホルモン合成系,特にエストロゲン合成酵素に及ぼす影響について,リアルタイムRT-PCR法およびウエスタンブロット法等により検討した. その結果,必須金属である鉄過剰時には,レプチンのmRNAおよびタンパク質発現量がいずれも有意に増加し,一方,鉄欠乏時には,タンパク質発現量が有意に減少した.また,鉄欠乏時には,レプチン受容体のmRNAおよびタンパク質発現量が有意に増加した. また,必須金属である亜鉛欠乏時には,レプチンのmRNAおよびタンパク質発現量がいずれも有意に増加した. さらに,JEG-3細胞をヒト組換え体レプチンで処理したところ,種々の必須金属トランスポーターの発現量に影響は見られなかったが,エストロゲン合成酵素であるアロマターゼおよび17β-HSD1のタンパク質発現量が,いずれも有意に増加した. これらの結果より,必須金属の栄養状態によってレプチンやその受容体の発現量が変動し,また,エストロゲン合成酵素の発現量がレプチン処理によって変動したことから,母体必須金属の栄養状態とレプチン,さらに性ステロイドホルモンの三者のバランスが,胎児の発育に影響を及ぼす可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は,(1)ヒト胎盤では,レプチンおよびその受容体の両者が発現していることが確認されていることから,ヒト胎盤絨毛細胞株JEG-3を用い,鉄,亜鉛,銅等の必須金属濃度がレプチンおよびその受容体の発現量に及ぼす影響を調べる,(2)胎盤には種々の必須金属トランスポーターが発現していることから,レプチンが必須金属輸送系に及ぼす影響を調べる,(3)女性性機能に大きな影響を持つ卵巣にもレプチン受容体が発現していることから,同様にヒト卵巣顆粒膜細胞株KGNを用い,必須金属濃度が卵巣のレプチン受容体発現量に及ぼす影響を調べる,(4)胎盤,卵巣の重要な機能である性ステロイドホルモン合成にレプチンがどの様な影響を及ぼすのかを調べるため,レプチンがエストロゲン合成酵素であるアロマターゼおよび17β-HSD1の発現量に及ぼす影響を調べる,というin vitro系の実験を計画した. 計画に基づき実験を行った結果,必須金属の栄養状態によって,胎盤および卵巣のレプチンおよびレプチン受容体の発現量が変動することを,一方,レプチンは,胎盤の各種必須金属トランスポーター発現量に影響を及ぼさなかったが,エストロゲン合成酵素の発現量に影響を及ぼすことが明らかになった. 現在,著しく増加している成人病の発症説として,新たに『成人病胎児期発症説』が提唱されており,肥満,糖尿病といった症例では,新生児から小児期にかけて血中レプチン濃度が高く,レプチン抵抗性である可能性が示唆されている.胎盤の鉄や亜鉛栄養状態がレプチン発現に影響を及ぼす,という今回の実験結果から,妊娠中の母体必須金属栄養状態が成人病発症の素因となる可能性があり,その重要性を示すことができたと考える. また,本年度の実験結果は,日本薬学会第132年会(2012年3月,札幌)において発表し,広く周知できた.
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Strategy for Future Research Activity |
脂肪細胞より分泌され,肥満や糖尿病に影響を及ぼす因子として同定されたレプチンは,ヒト胎盤絨毛においても発現しており,胎盤由来ホルモンとして母体エネルギー代謝やインスリン感受性の調節を介して,胎児の発育に関与している可能性が示唆されている.また,マウスの血中レプチン濃度は妊娠中顕著に上昇し,分娩後急速に低下することが報告されており,マウスにおいても,レプチンは胎児の発育や胎盤機能の調節に関与している可能性が示唆されている. そこで,平成24年度は,妊娠マウスのレプチンおよびレプチン受容体発現量が,食餌性に摂取する必須金属の栄養状態によってどの様に変化するのかを検討する. まず,必須金属である鉄,亜鉛,銅等の欠乏食または過剰食を妊娠マウスに与え,妊娠17日目に採血後,胎盤,卵巣,胎児を摘出する.その後,血中レプチン濃度の変化をELISA法によって,また,各臓器からtotal RNAを回収後,cDNAを合成し,これを用いてレプチン受容体のmRNA発現量の変動をリアルタイムRT-PCR法で,また,各臓器のライセートを用いてタンパク質発現量の変動をウエスタンブロット法によって測定する.さらに,胎盤および胎児の組織標本を作製し,HE染色等により組織学的変化を観察する. また,胎児の発育には母体―胎盤―胎児間の糖輸送が重要であり,さらに,レプチンはインスリン感受性を亢進させる唯一の胎盤由来因子であることから,血糖値や胎盤における糖輸送体である糖輸送担体(GLUT)の発現量を調べ,必須金属栄養状態と糖代謝との関連性も調べる予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
脂肪細胞より分泌され,肥満や糖尿病に影響を及ぼす因子として同定されたレプチンは,ヒト胎盤絨毛においても発現しており,胎盤由来ホルモンとして母体エネルギー代謝やインスリン感受性の調節を介して,胎児の発育に関与している可能性が示唆されている.また,マウスの血中レプチン濃度は妊娠中顕著に上昇し,分娩後急速に低下することが報告されており,マウスにおいても,レプチンは胎児の発育や胎盤機能の調節に関与している可能性が示唆されている. そこで,平成24年度は,妊娠マウスのレプチンおよびレプチン受容体発現量が,食餌性に摂取する必須金属の栄養状態によってどの様な変化するのかを検討する. まず,購入した妊娠マウスに,通常飼料に比べて鉄,亜鉛,銅等の必須金属含有量を欠乏または過剰状態に調節した特殊飼料を与えて飼育し,これを基にして種々の実験を行う.特に,必須金属栄養状態による妊娠マウスの血中レプチン濃度の変動を測定するが,測定用のELISAキット(Mouse Leptin Assay Kit(IBL製))が高額(\70,500)であるため,消耗品費として最も多くの予算をさいている.また,レプチン受容体やGLUTのmRNA発現量をリアルタイムRT-PCR法で測定することから,必要となる逆転写酵素やSYBR Green I等の試薬や専用PCRチューブおよびキャップの購入費を,また,これら受容体,輸送体のタンパク質発現量をウエスタンブロット法により測定するため,種々の抗体や関連試薬の購入費を計上している.さらに,胎盤および胎児の組織学的調査も予定しており,これに関連する試薬の購入費を計上している. また,本研究の最終年度であることから,論文の英文校閲,投稿料や印刷費,さらに学会参加費も計上した.
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Research Products
(1 results)