2011 Fiscal Year Research-status Report
数学学習を対象とした創造性育成のための産出課題の学習支援手法の構築と実践的評価
Project/Area Number |
23700990
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小島 一晃 早稲田大学, 人間科学学術院, 助教 (30437082)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 創造性 / 知的学習支援 / 数学学習 / 産出課題 / 作問 / 模倣 |
Research Abstract |
本研究の目標は,学習者自身のアイデア生成をともなう「産出課題」を通じて,多様なアイデア・プロダクトを適切に生み出す創造的なスキルを育成することである.そこで,数学の作問課題を対象として知的学習支援手法を設計・実現し,その効果を認知心理学的なアプローチによって実験的に評価した.本研究で提案する手法では,学習者に作問課題のプロダクトの例となり得る具体的な問題を提示して学習させる.例を学習する方法には,例と同じ問題を学習者に再産出させる「模倣」を採用した.例を見せて模倣を指示するだけでは,単に例を写し取るだけに留まって学習が起こらない可能性があるため,例の問題を作るプロセスを提示し,学習者にはこのプロセスに倣って例を再産出させる方法を考案した.そして,作問の例を検索し,この例を作るプロセスを自動的に生成して提示する自動化システムを実現した.例の模倣を通じた学習によって学習者の作問が実際に促進されるかを,実験的に評価した.本実験では,解法構造を複雑化して新たな問題を作成した作問の例を提示し,学習者にこの例と同じものを再産出させる学習課題を与えた後,自身の新たな問題を作成する作問課題に従事させた.我々は予備調査において,学習者は単純な問題を作成する傾向にあること,例を解く学習を行ってもその傾向は抑制されないことを確認している.そして,本実験により,例を再産出した学習者は,自身の作問において複雑な問題をより多く作ることが確認された.すなわち,例の模倣学習には産出課題における学習者のアイデア生成を促進する効果があることが検証された,ということである.その一方,本実験では例を正しく再産出できない学習者,すなわち,学習に失敗する学習者が存在することが観察された.このことは,産出課題の困難さと,さらなる支援の必要性を示唆したといえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の本年度における目的は,産出課題の知的学習支援手法を実現してその効果を検証すること,ならびに,その問題点の洗い出しをすることにあった.そして,本年度の取り組みにより,本研究の提案手法である例の模倣は実際に学習者の産出課題のパフォーマンスを促進し得ること,ならびに,学習において例の模倣を正しくできないという失敗が発生し得ることが確認された.すなわち,双方の目的が達成されたということであり,この意味においては当初の計画通りに研究を進めることができたといえる.ただし,本研究の計画当初に想定されていた問題点は,負荷が高く難しい産出課題を対象とすることから,数学における基礎を学ぶ途上にある中学生・高校生を対象とした場合,学習に失敗する可能性があるのではないかということであった.しかし,実際の研究においては,事前段階として大学生を対象とした実験調査を実施した結果,この段階において大学生が学習に失敗するケースが観察された.このため,進捗に遅延が発生してはいないものの,今後については若干の計画の変更を考慮することが必要になったといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,大枠としては当初の計画通り,本研究で設計・実現した知的学習支援手法をより実践的な場面に適用し,創造的なスキル育成に貢献する方法を模索することを目的とする.これにあたっては,今年度の研究において,本手法における学習に失敗する学習者が観察されたことから,学習活動における負荷を軽減するための,さらなる追加的な支援手法の導入を行う.この追加的な支援においては,学習課題に従事している間,学習者の回答入力を学習者自身に診断させる過程を設け,失敗への気付きを促すことを検討している.これにあたっては,学習対象のモデルを作ることで対象を理解するという産出課題の学習支援を実現した先行研究[1,2]を参照し,その知見を利用することを計画している.そして,より実践的な作問課題場面を設定し,例の模倣を通じて産出課題を学習することで,創造的スキルをともなう課題のパフォーマンスが促進されるかを検証する.[1] 中池竜一, 三輪和久, 森田純哉, 寺井仁: 認知科学の入門的授業に供するWeb-basedプロダクションシステムの開発, 人工知能学会論文誌, Vol. 26, No. 5, pp.536-546 (2011)[2] 三輪和久, 寺井仁, 森田純哉, 中池竜一, 齋藤ひとみ: モデルを作ることによる認知科学の授業実践, 人工知能学会論文誌, Vol. 27, No. 2, pp.61-72 (2012)
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上述の通り,本研究の提案手法である「例の模倣による学習」では,失敗が生じるケースがあることが判明した.これにともない,提案手法をそのまま中学生・高校生の学習者に試験的に適用するステップに進むことが見送られ,その折に学習者に使用させるPCの購入が見送られたことが,当該研究費が発生した原因である.当該研究費は,この失敗を克服するという新たな課題の検討において,追加的な支援手法の検証の際,知的支援システムを学習者に与える際必要となるPCの購入費に充てる予定である.
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