2011 Fiscal Year Research-status Report
文章生成過程における思考介入法とその効果に関する研究
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23700999
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
西森 章子 広島修道大学, 学習支援センター, 学習アドバイザー (50294012)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 文章生成 / 思考介入 |
Research Abstract |
今年度は、下記の3方向から検討した。(1)調査研究 OECD生徒の学習到達度調査(PISA)によると,わが国の15歳生徒は,他国の生徒に比べて,自分の考えを文章にするのに消極的であり,この傾向は2000年調査時より継続的に観察されている。そこで今年度、「書くこと」についてどのような問題意識を15歳生徒が持っているのかを明らかにすることを目的として、大阪府下の公立高校生1年生160人を対象に、彼らのコミュニケーションに対する問題意識と実際に産出された意見文の特徴を調べた。その結果,(1)「書くこと」や「話すこと」への自信度は,「読むこと」「聞くこと」に比べて相対的に低い,(2)「書くこと」に関して,自分の考えを文章化すること,自分の考えを明確にすることが困っていることと捉えられやすい,(3)産出された意見文からは,主張は述べられても,主張を支える根拠(理由)は示されにくい,の点が明らかになった。(2)実験研究 15歳生徒を対象とした調査からは、自らの主張は述べられても,その主張を支える根拠(理由)は示されにくい割合が多いことが示された。そこで、意見文産出を導くうえで、考えを構成する根拠(理由)を数多く幅広く考えることを促すトレーニングを開発し、大阪府下の公立高等学校1年生を対象に実施した。現在、分析途中であるが、(1)他者の考えた根拠に触れる、(2)触れる機会を反復する、(3)時間的制約をかける、から構成される環境に置かれた場合、自分とは異なる主張であっても、その根拠について推測することができるようになることが示されている。(3)実践研究 上記の「理由推測トレーニング」を組み込んだ意見文作成授業を開発し、上記と同じ高校生を対象に実施した。結果については分析中であるが、トレーニングによって、自らの根拠や、想定される反論の根拠に言及する傾向を見取ることができている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の一つに「文章生成の産出過程において、学習者による発想はどのように文章に転化されるのか(または転化されにくいのか)という点を明らかにすること」があった。この目的に対し(1)学習者の発想を豊かにする必要性を示したこと、(2)発想を豊かにする教育的介入として、「理由推測トレーニング」を予備的に開発したこと、(3)トレーニングが文章生成に及ぼす影響を予備的に検討できたこと、が今年度の成果として挙げられる。達成できていない点として、「生成された文章に対する推敲過程の観察」がある。これは、研究課題に取り組むなかで、推敲過程以前にある発想過程により介入する必要があると判断されたためである。以上より、目的に対して、現状把握と現状に対する手立てを検討できてはいるが、十全と言えないので、(2)と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、昨年度と同様、以下の3点から研究を進める。(1)調査研究 高校生から大学を対象とし、「文章を生成すること」に対する問題意識を探る。平成23年度に実施した高校生・大学生対象の調査内容を改訂し、今年度は、被調査者の学力レベル等を考慮しながら,「文章生成」に必要な支援(教育的介入)とは何かを明らかにする。(2)実験研究 理由推測トレーニングを開発し、本実験をおこなう。このトレーニングは、(1)学習者に様々な根拠(理由)に提示する、(2)制限時間のなかで数多く発想することを促す、といった点を特徴(構成原理)とする。今年度はまず、前年度に実施した予備実験のデータを整理・分析する。その結果をもとに、トレーニング内容および方法の改訂をおこない、本実験として実施する。(3)実践研究 上記(2)のトレーニングを組み込んだ意見文作成授業を開発する。すでに昨年度、(2)の予備実験を組み込んだ授業実践(意見文作成授業)を、大阪府下の高校1年生4クラスで実施している。今年度は、文章のもととなる「考え」について考えるよう促すトレーニングが、学習者の意見文生成に影響を与えるのかどうか、授業で得られた各種データを整理・分析することを第一目標とする。そして、その結果をもとに、授業の構成および教材について、再度開発することを第二目標とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)「次年度使用額」が生じた状況 昨年度は、当初予定していた個別実験ではなく、集団実験を実施することになった。したがって、「発想支援トレーニング」を提示する媒体も、当初計画していたPCではなく、冊子体で用意できたため、研究費の用途に変化が生じた。(2)上記使用額を含めた研究費の使用計画 前年度とは異なる学習者を対象とし、文章産出過程を再調査する。これにより(1)発想支援トレーニングの有効性、(2)発想課題の妥当性、(3)学力レベルの異なる学習者への展開可能性を検討する。このとき、文章生成過程をより詳細に観察するため、文章産出過程を記録する装置として、ノートブック型PCを購入する。併せて、発想支援トレーニングの有効性や発想課題の妥当性を検討するため、メタ認知研究の専門家である三宮真智子氏(大阪大学人間科学研究科)および氏の研究室(教育コミュニケ-ション学講座)の協力・アドバイスを得たいと考えている。そこで、大阪大学までの旅費を計上している。 その他では、本年度は研究課題の最終年度であり、研究成果を日本教育心理学会や日本教育工学会などの年次大会において公表する必要がある。これらの大会への参加に要する旅費・参加費を、「国内旅費」および「その他費」として使用する。
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Research Products
(1 results)