2012 Fiscal Year Annual Research Report
近代初期の解剖学と植物学における命名法と分類法についての比較研究
Project/Area Number |
23701008
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
澤井 直 順天堂大学, 医学部, 助教 (40407268)
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Keywords | 初期近代科学 / 解剖学 / 植物学 / 分類法 / 命名法 |
Research Abstract |
本年度は前年度に行ったガスパール・ボアン(1560-1624)の植物学書と解剖学書における命名法について、ボアン以前の著作と比較した。ボアンにおいては個々の植物と人体構造のラテン語名について、①それぞれの対象が属する類を表す名詞と②同じ類に属する諸項目をそれぞれ区別するための形容語、という2項からなっていた。 このような命名法の先行例について調査した。解剖学名においては古代のガレノスによる解剖学書から16世紀の様々な解剖学書について調査し、ジャック・デュボア(1478-1555)が同様な用語法を用いいたことが分かった。同様に植物学名に関してはピエトロ・マッティオリ(1501-1577)を始めとする数人の植物学者が同様な命名法を用いていた。ただし、先行例においては命名の方針は首尾一貫せず、異なる1語のみで対象を呼ぶこともあり、また命名をおこなっていない構造や植物もあった。 以上の比較からボアンは首尾一貫した命名法によって植物学・解剖学における前対象を命名したことに大きな特徴があることが分かった。さらに、このようなボアンの特徴を単なる命名の徹底化として片付けず、その背景となる企図について調査した。 ボアンの書籍は植物・人体構造について当時知られていたあらゆる情報を集積して提示することを目的とし、一種の目録づくりという様相を呈していた。この目録においてはそれぞれの項目が名称を持つことが前提とされていた。各項目に無秩序な名前を与えるのではなく、類ごとに同じ類に属することを明示し、また同じ類に属する者同士を弁別できる名称を用いることで用語および記載対象の配列を整理されている点がボアンの著作の意義であったという結論に至った。 本研究は近代初期科学におけるボアン一人の再評価にとどまらず、植物学や解剖学、あるいは科学そのものにおける記載や情報の整理という問題に一定の示唆を与えるものと考えられる。
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