2012 Fiscal Year Research-status Report
残存デンプン粒分析を用いた縄文時代の植物利用に関する分析学的研究
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23701013
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
渋谷 綾子 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, その他 (80593657)
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Keywords | 残存デンプン粒分析 / 縄文時代 / 石器 / 土器付着植物遺体 / 植物利用 / 人との関係 |
Research Abstract |
本研究では,縄文時代の遺跡から出土した石器や土器の付着物に含まれる残存デンプン粒を分析することによって,縄文時代の植物利用の実態を明らかにすることである。平成24年度は平成23年度研究の結果をもとにして,継続的に残存デンプン粒分析の研究事例の蓄積を目指した。特に,東京都東村山市下宅部遺跡から出土した石皿・磨石類の分析結果を検討し,他の縄文時代遺跡から出土した石皿・磨石類についても比較調査を実施した。また,現生デンプン粒標本の作製も残存デンプン粒の植物同定で必要となるため,考古資料の分析と同時に進め,残存デンプン粒の植物種の検討を行った。 今年度の調査は次の5項目である。(1)下宅部遺跡から出土した縄文時代中期~後・晩期の石皿と磨石類の分析,(2)(1)の結果と同遺跡出土の縄文土器付着植物遺体の分析結果との比較,(3)神奈川県相模原市大日野原遺跡から出土した縄文時代中期~後期の石皿・磨石類の試料採取と分析,(4)北海道伊達市北黄金貝塚から出土した縄文時前期・中期の磨石や石皿の試料採取と分析,(5)鱗茎・根茎類の現生デンプン粒標本の作製と観察。これらの調査と分析結果の評価については,国立歴史民俗博物館の西本豊弘教授(平成24年3月退官,現名誉教授),中央大学の小林謙一准教授,国立歴史民俗博物館の工藤雄一郎助教(現准教授),弘前大学の上條信彦准教授から協力を得て実施した。 (1)(2)はすでに完了し,論文として投稿中である。また本年度の研究成果の一部は平成23年度の成果とあわせて,第5回東アジア考古学会(5th World Conference of the Society for East Asian Archaeology)と第13 回国際花粉学会議と第 9 回国際古植物学会議の合同大会(IPC/IOPC2012)の国際会議,第27回植生史学会大会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在まで,資料調査と分析用試料の採取はすべて滞りなく順調に進んでいる。特に下宅部遺跡の調査研究は完了し,研究成果は「国立歴史民俗博物館研究報告」に論文として投稿中である。 平成24年度の当初の計画では,鹿児島県指宿市水迫遺跡と東京都下宅部遺跡を調査の主な対象とし,他の遺跡の調査結果との比較研究については,資料の所蔵機関との打合せなど事前準備が必要であったため,別の研究プロジェクトとして行う予定であった。しかし今年度の後半に,大日野原遺跡や北黄金貝塚から出土した石器類の分析を行う機会が与えられ,予定していたよりも早い期間に分析調査を開始することができた。試料採取はすでに完了しているため,平成25年度前半に顕微鏡観察等の分析を進めるのみであり,平成24年度までに得られた研究成果との比較・検討を本事業の中で行うことが可能となった。 残存デンプン粒の植物同定に必要な現生植物を用いた参照標本の研究については,平成23年度は植物標本の収集等に時間を費やしたため遅れがちであった。しかし,平成24年度は鱗茎・根茎類の収集を集中的に行ったため,その成果によって,これまで「鱗茎・根茎類の可能性がある」とのみ判明していた残存デンプン粒について,それぞれいくつかの植物に由来する可能性を指摘することが可能となった。この成果は第27回植生史学会大会で報告しており,下宅部遺跡の残存デンプン粒に関する検討結果については投稿中の論文でも言及した。平成25年度に開催される第78回アメリカ考古学会(SAA 78th Annual Meeting Honolulu, Hawaii, April 3-7, 2013)などの国際会議においても報告する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23・24年度に得られた結果をもとに,平成25年度も残存デンプン粒分析の研究事例の蓄積を進めていく。平成24年度までに水迫遺跡と下宅部遺跡の調査研究が完了したため,平成25年度は比較研究とする大日野原遺跡と北黄金貝塚の分析調査を主体的に行う。さらに,現生デンプン粒標本の作製とデータベースの構築,残存デンプン粒の植物種の特定についても,研究協力者との連携で同時に進めていく。 平成25年度に行う研究成果の公表については,平成24年度までに得られたすべての分析結果を中心として,4月の第78回アメリカ考古学会(SAA 78th Annual Meeting Honolulu, Hawaii),6月の国際古民族植物学会議第16回大会(16th Conference of the International Workgroup for Palaeoethnobotany),7月の日本文化財科学会,11月の日本植生史学会など国内外の学会で研究発表を行い,研究成果を国内外に広く発信する。 平成25年度は最終年度となるため,前半期と後半期に分けて研究を遂行する。前半期は大日野原遺跡と北黄金貝塚の分析を主に行い,水迫遺跡と下宅部遺跡との比較研究を実施する。さらに,国立歴史民俗博物館の工藤准教授や弘前大学の上條准教授からの助言にもとづき,炭素14年代測定や炭素・窒素安定同位体分析などの他の分析結果との比較を行い,検出した検出した残存デンプン粒の植物種を特定し,縄文時代における植物の種類別の利用方法を検証する。後半期は研究成果を統括する。日本文化財科学会や日本植生史学会など国内の学会,アメリカ考古学会などの国際学会で研究成果を発表するほか,国内外の学術雑誌への論文投稿などでの研究成果の公表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度研究費の残額については,平成25年度にこれまでの研究成果を英文誌へ投稿予定であるため,英文校閲にかかわる費用の一部に充当する。 平成25年度の研究費では,個別の実験消耗品(白スライドグラス,カバーガラス,ピペットチップ等)の購入が必要となるほかは,備品・消耗品費に関しては平成24年度に使用した額の1割程度になる予定である。 旅費については,北黄金貝塚の資料調査・分析用試料の採取に関する調査旅費とともに,研究成果を公表するため,日本文化財科学会や日本植生史学会,アメリカ考古学会,国際古民族植物学会議などの学会参加に用いる旅費が前年度より増える見込みである。また,平成23・24年度は特に支出のなかった謝金についても,資料整理や英文校閲等で使用する予定があり,この項目は前年度より若干増える見込みである。ただし,実験設備がすでに整っており,研究協力者の工藤准教授と同じ研究機関に所属しているため,研究協力者の機器類を借りるための施設使用費や会議費を含む「その他」の経費が大幅に減る予定である。備品・消耗品費とともにこれらの費用を国内・国外旅費に振り分け,より多くの調査や研究成果の公表を実施することが可能であり,全体として平成25年度の研究費の支給額内に収まる見込みである。
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Research Products
(8 results)