2011 Fiscal Year Research-status Report
植物遺存体の解析にむけたDNAマーカーの開発と評価
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23701015
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
田中 克典 弘前大学, 人文学部, 特任助教 (00450213)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 植物遺存体 / メロン / DNAマーカー / 遺伝的多様性 / 種子 / 考古学 / 育種学 / ウリ |
Research Abstract |
本年度は,1:メロンのDNAマーカーを開発し,2:開発したDNAマーカーの一部について遺跡から出土した種子(以下,種子遺存体)に適用してその実用性を検証した. 1では,研究代表者は現生メロン60系統において,葉緑体ゲノムの12領域 (遺伝子内及び遺伝子間領域)における塩基配列を解読した.この解析により,23カ所の一塩基多型 (SNP)を検出し,栽培メロンは大きく3つのグループに分けられた.これらのSNPのうち,9箇所のSNPを現生メロン251系統の系統分類に適用し,種子遺存体へ適用するDNAマーカーに変換した.本結果は,国際ウリ科ナス科合同シンポジウム2011 (神戸コンベンションセンター)にて発表した.現在,結果に基づいて論文を執筆中で,New Phytologist誌に投稿予定である. また,研究代表者は代表者ら (2007)の系統解析で用いたRAPDマーカーにおいて,マーカー内の塩基配列多型を明らかにした.この内,8つのマーカーをメロンの系統解析に適用して,塩基配列の挿入・欠失を識別できるSTSマーカーへと変換した. 2では,1で開発した葉緑体ゲノムにおける9箇所のDNAマーカーを,弥生時代中期,古墳時代初頭及び11世紀の土層(岡山県鹿田遺跡)より出土したメロンの種子遺存体に適用した (種子数: 80粒).種子遺存体の塩基配列を解読したところ,約半数にあたる43粒 (53.8%)で葉緑体型を推定することができた.葉緑体型は,南アジアの現生メロンに相当するメロンが弥生時代から日本で利用されていたこと,11世紀以降に現在のマクワウリやシロウリに相当するメロンが成立したことを示していた. 今年度の研究において,研究代表者は,開発したDNAマーカーが種子遺存体に適用できることを示すことができたので、次年度の日本文化財科学会第29回大会 (京都大学)にて発表する予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度において,研究申請時の計画は葉緑体ゲノムと核ゲノムのDNAマーカーを設計するとともに,開発したDNAマーカーで種子遺存体を系統解析することであった.また,研究成果の速報を日本文化財科学会や日本育種学会にて発表する予定であった.研究代表者は解析と発表において計画を順調に達成しており,次年度の計画に掲げていた国際学会での発表も行うことができた. 所属先の変更に伴い,研究の場が当初予定していた総合地球環境学研究所から弘前大学人文学部にかわったが,研究設備を準備している期間は,同大学の農学生命科学部にて実験を行うとともに,総合地球環境学研究所に外来研究員として出入りし,研究を進めた.これらの対応により,研究を順調に進めることができた.幸いにして,研究設備を整えることができたので,次年度以降の研究において,設備面で支障はないと考えられる. 成果で特筆すべきことは,解析により世界各地の栽培メロンを3グループに分けられたこと,これにより栽培メロンの伝播経路と起源を提唱できたことである.このため,国際学会での発表と論文の執筆を早めるに至った.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では主に開発したDNAマーカーで現生メロンや種子遺存体を系統解析することに主眼を置いている.しかしながら,近年,メロンにおいてゲノム解析が進み (Rodriguez-Moreno et al., 2011他),マーカー開発がしやすくなっている.そこで,引続き,DNAマーカーの開発は進める.マーカーの開発は,今年度,葉緑体ゲノムを対象としたが,次年度では核ゲノムに重点を置く. 次年度の研究は,研究材料について加藤 鎌司 氏(岡山大学大学院教授)と藤下 典之 氏(大阪府立大学元教授)に利用の許可をいただいているので,系統解析を行うことができる.なお,本研究の目的の1つはメロン仲間の種子遺存体の分析結果に基づいてDNA マーカーの実用性を示すことである.本年度の研究に基づくと,種子遺存体の分析により,研究材料である鹿田遺跡の種子遺存体は,断続的ではあるが幅広い時代を包含した材料であり,DNAマーカーの実用性を示す材料として適切であった.種子遺存体やそのDNAは,分量が限られており貴重である.これらの理由を鑑みて,次年度において,種子遺存体の分析材料は鹿田遺跡の種子遺存体とし,当初計画で述べた池上遺跡の種子遺存体を次点分析材料とする.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究計画は引続きDNAマーカーを開発する項目以外,研究申請時に述べた計画と同じである.次年度では,分析だけでなく成果発表も重視する.成果は学会で発表するとともに,論文の投稿のため執筆する.以下に,計画と研究費を述べる.核ゲノムにおいてDNAマーカーの開発と,開発したDNA マーカーで現生メロン仲間について系統解析を実施する.また,メロン仲間の種子遺存体について重点的にDNA 分析を実施する. DNA 分析試薬費 (マーカー開発用):110 千円,DNA 分析試薬費 (現生メロンと種子遺存体):105 千円,塩基配列解析費:180 千円日本文化財科学会 (京都)と日本育種学会 (京都産業大学)にて発表を行う. 国内旅費:計100千円 (各50 千円)第5回東アジア考古学協会国際会議 (九州大学)にて発表する. 国内旅費:105千円
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