2012 Fiscal Year Research-status Report
文化財公開施設等における汎用的な高精度微生物汚染評価システムの構築に関する研究
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23701016
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Research Institution | History Museum of Hokkaido |
Principal Investigator |
杉山 智昭 北海道開拓記念館, 学芸部, 学芸員 (90446310)
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Keywords | IPM / 微生物汚染 / 文化財 |
Research Abstract |
前年度に引き続き、文化財表面および文化財収蔵空間に発生するカビなどの微生物をLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法によって一律に検出するための基本情報の入手を目的とし、文化財あるいはその周辺環境に発生した微生物に関する過去の文献・資料の調査を行った。さらに北海道開拓記念館(札幌市)の展示室、資料収蔵庫、文献収蔵庫にて建物内装の表面拭き取りやダスト採集、平板培地を用いた落下菌捕集を通じて汚染にかかわる微生物相の解明に取り組んだ。ここで得られた情報をもとに文化財汚染に関わる検出対象微生物のデータベースを整備した。このデータベースをもとに、有害微生物を検出する上でより効果の高いプライマーセット、もしくは標的DNA領域候補のスクリーニング作業を実施した。当該年度においてはJISの標準菌株および実際に捕集した菌株を用いてスクリーニングを行った。その結果、前年度と比較してより安定した(増幅効率の高い)条件が見出されつつある。分析に供するサンプル採取法を検討した結果、綿棒、不織布によるふき取り試料から対象菌株を検出可能であることが明らかとなった。 文化財や文化財収蔵環境において使用される蒸散性薬剤(エンペントリン、ナフタレン、パラジクロロベンゼン、樟脳)、殺菌剤(エタノール、塩化ベンザルコニウム)、および燻蒸剤(酸化エチレン)の残留が有害微生物の検出に及ぼす影響の調査を行った結果、各種薬剤と一定期間(処理期間)、共存させた微生物汚染試料に対しても、所定の抽出操作を加えることで安定した検出を達成できることが示された。 なお、本研究成果の一部については第36回文化財の保存および修復に関する国際研究会において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度および当該年度に計画していた「文化財表面および収蔵空間に発生する微生物種の基礎調査」については、過去の文献・資料の調査、および文化財公開施設における資料・建物内装の表面拭き取りやダスト採集、平板培地を用いた落下菌捕集を通じて微生物相の解明作業を進めた結果、おおむね計画どおりのデータを得ることができた。 「LAMP法を用いた文化財を劣化させる微生物の簡易検出条件の探索」については、前年度の研究で明らかになったDNA増幅効率に対する課題を解決するため、プライマーセットの再設計を実施した結果、十分な増幅改善効果が認められた。 前年度のモデル微生物(Aspergillus niger)に加え、JISかび抵抗性試験に用いる標準株、ならびに文化財公開施設等において捕集した菌株を用いて、LAMP分析に至適な条件を探索した結果、汚染を引き起こす微生物の一律検出に有効と考えられる条件を見いだすことができた。 分析に供するための試料採取法(採取形態)について検討した結果、比較的簡便な手法で得られた試料(綿棒、不織布によるふき取り試料)からも安定した検出を達成できることが明らかとなった。 文化財や文化財収蔵環境において使用される蒸散性薬剤、殺菌剤、および燻蒸剤の残留が汚染を引き起こす微生物の検出に及ぼす影響の調査を行った結果、各種薬剤と一定期間(処理期間)共存させた微生物汚染試料からも、標的微生物を検出する上で十分なDNAの増幅が確認されたため、薬剤の共存下においても本検出手法が有効であることが示された。 以上の結果から、文化財公開施設等における汎用的な高精度微生物汚染度評価システムの構築を目的とした本研究の前年度および当該年度における目標はおおむね達成されたものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究については今後とも、おおむね当初計画に沿って推進していく予定である。 次年度(平成25年)は最終年度であるため、今年度までの成果をふまえつつ、データの補強を行い、研究の全体的なとりまとめを行う予定である 実際の作業計画としては「微生物汚染評価システムとしての従来法との性能比較」において、従来法(表面拭き取り調査による有害微生物の確認、落下菌測定)とLAMP法との検出感度、操作性(簡便性)、コストの比較を行う。また、「環境調査とLAMP法を統合した微生物汚染評価システムの有効性についての検証」において、温湿度モニタリングと分子生物学的手法による微生物モニタリングによって収集されるデータの総合的な解釈を試み、汎用的な高精度微生物汚染評価システムとしての有効性について多角的に検証する。また、学会発表や論文により成果の公表に努めるとともに、博物館におけるIPM体制を充実させる手段として実際の業務に応用する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度は安定した実験結果がスクリーニングの比較的早期の段階で認められた。したがって試薬等消耗品の使用量が予測より節約された結果、次年度使用額が発生した。 次年度使用する研究費については、試薬、実験器具等の購入にあてることとする。
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